ひきこもり男は電子世界で夢を見た。

邪下心

ミス・トラブルメーカー

「ここねちゃん、おはよう」

「はっけよいの里さん、おはよお〜♪」

「今日もテンション高いね笑てか、今度のナツソルのイベント行く?」

朝にも関わらず俺の指は動く動く、水を得た魚のように。お陰で右だけ腱鞘炎になり掛けている。アバターを作って自由に会話できるアプリ「アバコレクション」これにハマってから俺の世界は大きく変わった。地味で変わり映えない世界から、極彩色で彩られた新世界へ。

「もち、行くよ〜!はっけよいの里さんは?」

ここから先の展開は大体読めた。

「ここねちゃんも行くなら行こうかな笑、そこで会えたりする?」

変に緊張してしまいフリック入力が若干遅れる。

「えー、出会い目的なのー?ww」

「違うよ!笑会えたらいいなーって思っただけ!」

まだ、まだ決め台詞を言うには早い、だがこのビッグウェーブに乗らなければ次は無いかもしれない。

「ほんと、出会い目的とかじゃないから!俺らもう結構お互いの事知ったし、そろそろ次のステージにうつるべきかなって言うか」

そうだ、俺達は次のステージへ移るべきだ。

「だよね!でも」

「でも?」

「俺は男でしたー!残念!!」

決め台詞を吐いて直ぐにチャットルームから出た、これだよこれ。俺は勢いよくスマホをテーブルに置いた。

奴は今頃俺達の3ヶ月はなんだったんだと嘆いているかも。

四六時中話せば顔を見なくても声を聞かなくてもそれなりの情は湧くはず、なのにこんな結末になるなんて、あぁ、なんて可哀想なはっけよいの里。馬鹿らしい名前。

あからさまにいい感じだったここねが30後半のおっさんで、ネカマだったなんて。何度か疑っては来たけど俺は役者だ、キャラの作り込みくらい朝飯前だ。カメラの前で、客の前で嘘をつく。そんな仕事をしている奴が小さな画面の向こうの男1人騙せないわけがないんだ。

可哀想だが、彼には現実世界で強く生きてもらわねば。じゃあなはっけよいの里!お元気で!

俺は朝の排泄なんかよりも清々しいネカマをやり遂げて外へ出た。勝利の晩酌だ、酒でも買おう。うわ外めっちゃ晴れてる。

「なんで仕事ないんだ、クソ…」

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ひきこもり男は電子世界で夢を見た。 邪下心 @yumen1451

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