Part.6 流された仕事
街の薄暗い路地裏で、鴉間に東雲が言葉を発する
「...で、俺に仕事が回ってきたと」
「あぁ、言い値でやって貰うが文句はないな?」
「分かってますよ。それで内容は?」
「市街北区画の1部を牛耳る中規模SC《オリジン犯罪》集団『カンプ』のボスを乗せた車両が深夜に南区画へ移動、大規模作戦の殲滅対象の内の一つと接触するという情報を掴んだ。お前にはこいつを無力化してもらう」
「方法は?」
「なんでもいい。事故に見せ掛けた暗殺でも強襲による殺傷でもいい」
「とっ捕まえてSIA《あんたら》引き渡すのは?」
「それでもいいが、骨が折れるぞ」
「......一つ考えが。戦力は手配できますか?」
「一個分隊程度なら。まぁ話しててみろ」
思いつきによるプランを流れのままに話してみると、意外な事に鴉間は少しの修正を加えた案を採用してくれた
一言感謝を述べた後に資料を受け取ると、鴉間はいつの間にか消えていた
「固有オリジン2個持ちってのは本当なのかね」
パラパラと資料を捲った後、彼の姿もどこかへと消えてしまった
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雲が月に隠れた深夜、幹線道路から別れた狭い二車線道路を走っていると1両の装甲車が追い上げてくる
SIAが独自に生産を受注したストライカー装甲車だ
なんで1都市の捜査機関如きが装甲車を保持しているのかはどうでもいとして、別にSIAの車両が走り回っているのは不思議では無い
現にここまでで何度もすれ違って来たし、こちらに何かしようという動きも見せなかった
だからこそ彼は油断していた
「ったく、今日はやけにすれ違う」
「ですね。見る度に肝が冷えます」
SC犯罪集団『カンプ』頭領 双葉
短髪の青髪を無造作にセンターで分け、スーツ姿で椅子に座っている
今日の会合地点は南区画の繁華街にある倉庫
内容は主にSIAの捜査が活発になっている件に関してだ
「やはり捜査が活発になっているのは間違いないな...しばらくは穏便に行くか」
「その方がいいでしょう」
同乗している護衛の言葉を耳に車外を見た時、驚愕の景色が目に入った
「佐々木!急停車しろッ!」
ボスの言葉を聞いた瞬間、耳障りなブレーキ音と共に車両が減速するが、もはや手遅れであった
◆ ◇ ◆ ◇
「撃て」
その一言と共に、胸を叩く様な轟音がミシン縫いの様に連なって響く
ストライカー装甲車に取り付けられた12.7mm機関銃が並走しながら彼の乗る車へと発砲したのだ
2秒ほどしてそれが止んだ時、装甲車がぐわっと右に曲がり道路を封鎖する
「降車!降車!降車!」
その言葉と共に後ろのハッチから雪崩の如く駆け出して来たのは、完全装備のSIA構成員5名
そしてその先頭を変化した東雲がジェットで駆け抜けていく
「やはり護衛は結界系か」
ボロボロの車から慌てて降りてきた人間に対し高速で接近し、左手の太刀を一薙に振り払う
そいつはそれを右手に発現させた刃で受け止めるが、東雲の右手に握られたライフルが火を吹く
夜間に響く銃声と共に、その男は仰向けに倒れた
「護衛ね、まぁそこそこってもんかな」
トドメに2発頭に撃ち込むと、横でも別の護衛がSIAの銃撃に倒れていた
それを確認し、ライフルをラックに収めながら穴だらけの車へと近付く
12.7mm弾を食らっても固有オリジンで発動された結界は突破できなかったらしく、穴あきチーズの廃車に付いたドアを蹴り飛ばし1人の男が出てきたが
インカムで『撃つな』と伝えてから言葉を交わす
「青の短髪すました表情、あんたがあの...なんだっけ、双葉?とか言うやつか」
「そうだ、南区画の歓迎は手荒な様だな」
「最近はSC連中が多いから...ッな!」
語尾に力を込め地面を蹴ると、エンジンフルパワーで目標に接近する
右手に持ち替えた太刀を下から振り上げ、顎を一直線に狙う
しかしそれは、突如として現れた直剣によって防がれる
「『剣舞』か。情報は正確だったワケだ」
東雲は感心しつつも太刀を引きバックブラストで距離を取り、左のラックから受け取った太刀を逆手に持ち構える
「勘のいいガキだ、かかってこい。相手してやる」
そう言うと、上半身を縦に囲う様に直剣が何本も現れる
それを見た東雲はしゃがみこみ、エンジンの出力を上げていく
「行け」
双葉の振りかざした手が下ろされると、切先がこちらへ向き十数本の剣が飛び付いてくる
それと同時に地面を蹴り、道路スレスレの高さで一気に距離を詰める
こちらへ向いた剣は全て後ろへ突き刺さり、新たな剣が中程まで生成された時点で彼は双葉の懐に居た
「素早い!だが!」
飛び出す剣よりも格段に早く生成された直剣が、東雲目掛けて突き下ろされる
しかし彼は地面と平行に身体を回転させ右手の太刀で直剣を弾き返すと、続く左手の太刀で右の二の腕に刃を通す
「ッ!腕が!」
利き手を封じられた双葉が左手に発現させた直剣を
1度大きく振り回すが、東雲は地面に張り付くほどに姿勢を低く取りそれを回避すると、お返しとばかりに低姿勢のまま太刀を振り回す
後ろへの大跳躍でそれを回避し距離を取ろうとした双葉だったが、焦りから生まれた単調な跳躍を見きった東雲が着地点目掛け地面を蹴る
「無闇矢鱈に放って当たるもんかよッ!」
落下中の双葉から最初とは比にならない数の剣が飛んでくるが、横滑りと増減速に織り交ぜたローリングで全てを回避すると
最後の一蹴りと共に、わずか3秒足らずで50mを駆け抜け、双葉の足へと太刀を振る
「これで終わりだな」
空中でアキレス腱を切断され、歩行すら儘ならなくなった双葉がアスファルトの地面に叩き付けられる
しかしさすが固有オリジン持ちの人間と言うべきか、それによる負傷は見当たらなかった
「殺すだけなら手っ取り早いんだがな。あの人に恩は売っときたい」
そう言うと、身動きの取れない双葉にそっと太刀を振るう
慎重に、しかし大胆に体の各所へ刃を通す
数十秒もし無いうちに、彼は四肢の筋肉を全て切断してしまった
「目標達成、無力化した。メディックと担架を」
そうしてインカムを切ると、不敵な笑みを双葉へと向けた
「
そう言って1発ぶん殴り気絶させた後、装甲車に担ぎこみSIAの本部へと連れ去った
この事案はSIAのパトロールとSCの偶発的な交戦とされ、何事も無かった様に薄い報告書となりファイルの中に消え去った
もちろん、彼も
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SIAの尋問室、マジックミラーの裏側で数人の尋問官に囲まれ、東雲と鴉間が狭苦しく話している
「やってのけるとはな」
「
「世辞は言わない方がいいな。それよりガキはこっちのが楽しみだろ」
そう言って親指と人差し指を擦り合わせる
それを目にした東雲は、分かっているじゃないかと言った顔になる
しかし鴉間は左手で襟を掴み顔を寄せると、つかみ返してきた東雲の左手など気に停めず、小声で囁く様に言葉を紡ぐ
「言い値でやるといったよなぁ?つまり今回の報酬はこのご尊顔だけだ。ありがたいよなぁ?」
「...まぁ、それなりに?」
彼としては地雷を踏まない様に答えたつもりだが、普通に悪手だったらしい
空いている手で鳩尾に打撃が叩き込まれる
短い嗚咽と共に膝を着くが、直ぐに襟を引っ張られて無理やり立たされる
「おいクソガキ、次そんな反応したら9ミリ弾を叩き込むからな?」
「うぐッ......ぁい...わかりました」
「よぉしいい子だクソガキ、分かったらさっさと帰るんだな」
そう言って掴まれた手を滑るように襟から腕が抜ける
喉を右手で擦りながら姿勢を整える
「...じゃあ、これで」
そう言って尋問室の隣部屋から出ていく
閉じていく扉の隙間が完全に閉じ切るまで、鴉間は東雲へ視線を伸ばしていた
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