第33話 五月親衛隊過激派鏡餅

 野菜動物園の帰り道のことだった。


「あれ、またエンスト起こしたかな?」


 止まる要素が無いはずのエンジンがいきなり止まったのだ。


「そんなエンジンがほいほい止まることあります?」


 ひとまずエンジンを確認するため、ボンネットを開けてみた。そしたらエンジンがあったはずの場所に餅が入っている。


「えっ。エンジンが餅になってるんだけど……どゆこと?」


「あたしが止めたのさ!」


「その声は言う奴や否や運命は如何に!」


 声がした方に目を向けた。そこに立っていたのはホールケーキサイズの鏡餅だった。


「ああ? なんのために?」


「五月親衛隊としてあなたを殺すためよ」


 そう言うと同時に鏡餅から凄まじいオーラが立ち込めた。オーラというより蒸気だった。


 間違いない。コイツは敵だ。五月親衛隊は俺を殺そうとしてる集団。俺は瞬時に身構える。


「元は穏健派に寝返ったピーマンを始末するのが目的だったけど、後回しにして小坂一樹を始末することにするわ」


 そう言うと同時に桜餅を投げてきた。俺は直感的に避けないとまずいと思い、横っ飛びで逃げる。


 桜餅が地面に落ちた瞬間、小規模な爆発が辺り一体を巻き込んだ。この桜餅。爆発する!


 言うなれば桜餅版手榴弾。だが種が分かれば対処も容易だ。


 地面を転がりながら餅爆弾を交わしつつ、鏡餅の懐へ近づいていく。

 

「もらったぁぁぁ!」


 近距離発勁。これは避けられない!


「無駄だわ。もちリフレクト!」


 発勁の衝撃が、全部餅に吸収された……


「貴方の発勁。利用させてもらうわ。もちインパクト!」


 しかも発勁の衝撃が俺に返ってきた。くそっ、みぞおちに当たった。立ち上がれねえ。


 まいったな。打撃じゃ有効打無しか。


 そしたら銃とか弓とか使うしかない。どっちも持ってないけど。


 この場合は逃亡か、和解か。選択肢は少ない。やるだけやってみよう。


「こういう分が悪い相手の時はまずクラシックかけて場を和ませるんだ」


「クラシック?」


 俺は車に内蔵されてる曲を流すボタンを押した。


 すると官能ビデオのOP曲が流れてくる。クラシックかけたつもりがとんだ事故になってしまった。


 両者、気まずい空気に包まれる。


「間違えた」


「かけるならちゃんとかけてください!」


「今度こそちゃんとしたクラシックかけるよ」


「させるかぁ!」


 五月と話してる途中だったのに鏡餅が餅爆弾を投げてきた。


「ちぃぃぃぃ!?」


「一樹くん!?」


 咄嗟に五月を庇った結果、背中が激しく焦げた。爆発自体は大したことなさそうで助かったが、普通に痛い。


 ていうか鏡餅の言動的に五月親衛隊のはず……


 五月は基本的に狙わないはずじゃあなかったのか?


「むぬぬ……そこの餅さん! あなたは何故一樹くんを狙うのです!」


 一方、五月は鏡餅相手に対話を試みていた。対話か……


「何もかも持っている五月様に言っても分からないわ!」



◇パッヘルベル カノン♪



「あれ? 何急にクラシック流してんだ?」


「絶対あなたが流しましたよね一樹くん?」


 御名答。それから無理矢理にでも対話させるように流れを持ってってやる。


「無駄な争いはやめよう。どうせならティ~でも飲んで和解しようや」


「ティーの発音腹立ちますね」


 ポタンッ。数秒後またポタンッ。その数秒後再びポタンッ。紅茶は一滴づつ注ぎ続けたら本当の味になるのだ。


「何年注ぎ続けるつもりですか!?」


「ふざけないで! 急にこんなクラシックかけやがって!」


「今俺がやっているのはふざけていることではない。ティ~を注いでいるんだ……」


「背中大惨事なのに割と余裕ようですねぇ一樹くん」


「注ぎ終わった。みんなでティ~でも飲もう。争いなんて忘れてさ」



         ◇



 なんやかんやあって、俺たちはなんとか野菜動物園内で鏡餅とティ~タイムを過ごすことに成功した。


 対話してるうちに鏡餅が俺を襲った理由がなんとなくわかってきた。


 鏡餅は非モテなのに五月と俺が付き合った事実を受け入れられず、俺を殺したくなったらしい。


「つまりあなたに彼氏が出来れば一樹くんを許してくれるのですね?」


「出来たらの話だけど。そう簡単に出来てたらこんなことしてないわ」


「何事も行動が大事です。なんだったら私がパーティーを手配しますよ? 食材婚活パーティー」


「五月様……!」


「五月お前……そんな約束して大丈夫なのか?」


「大丈夫です。こちらにはコネがありますから」


 五月は高々とVサインを指で作っていた。


「これ俺も巻き込まれる感じ?」


「させませんよ? 一樹くんには私がいますし」


 おおっ、思いの外五月の圧が強い。独占欲か?


「……そのパーティーとやらさ。俺の友達を招待すること出来る?」


「何を企んでるかは知りませんが出来ますよ?」


「何も企んでないよ。なあに、これまでの復讐がてら、アイツらを招待しようかなって」


 食材婚活パーティーとかいう変なパーティーにアイツらを呼べば、面白い展開になるんじゃないかと俺は思った。


 せいぜい楽しめ寝取り魔とカップルクラッシャー。

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