第22話 五十嵐妹現着
二俣を尾行していたら、やはり妹が待っていた。味噌カツくんの主、水野さんを集合場所にしているようだ。
「ラブコメにしては随分古風っすね」
「相場、エビチリさんじゃないのか。やっぱり二俣は変わってるな」
今更だが我が妹六花には相手の思考を読み取る力がある。本人曰く集中してたら聞こえてくるらしい。
我が妹ながらとんでもない能力を持っている。だから尾行するにしても細心の注意を払わなければ。
「遅いよ愛斗さん☆一時間遅刻するってどゆこと?」
妹は笑顔で二俣を出迎えたが、目は笑っていなかった。この感じは多分相当怒っている。ていうか一時間遅刻ってダメだろ。一般的に。
「それがさ、道に困ってる老婆を見てて」
「見てただけかよ! 助けろよ!」
あっ、しまった。つい本気の声でツッコミ入れちゃった。バレたかこれ?
「僕は不平等に人を助ける」
「あれ……☆? お兄ちゃんの声が聞こえたような? まあいっか☆」
セーフ!
ていうか今更だけど、五月親衛隊がやっていた事、そのまま妹達にしてるよなぁ。結局、俺は俺が嫌悪感を抱く奴らと同じ尺度で生きているということか。
でも、尾行を辞めるかと問われたら、やっぱりNOって言ってしまうのだろう。気になるし。ストーカーの気持ちが少しだけ分かった気がする。
「それで。一時間遅刻した理由は別にあって。でもお前は思考盗聴で分かるよな?」
「ええっと、な、何故かできなくて……☆」
ていうかさ。誰だ二俣の隣でしおらしくしてる妹と瓜二つな女の子は。
妹はいつもパリピでギャルで明るい性格なはず。なんなら家に男連れ込んで、夜通しアンアンパコパコするような奴なのに。
誰だこの清楚な格好をした子は? 本当に六花だよな?
「恋を自覚した娘は変わるのでござる」
「そうなの!?」
◇小坂六花は彼氏を取っ替え引っ替えしている。しかし本命には奥手なタイプなようだ。しかもそれを自覚した分だけ奥手の成分が強くなっていく。
なるほど。丁寧な解説ありがとうナレーション。
◇ずっと気になってたけど、なんで私の声聞こえてるのこの人?
ウーン、認めたくはないが確かにいい雰囲気だ。
でも二俣だぞ? 思想が違ったら映画館急襲するような奴だぞ?
いや、相手が誰であろうと妹が決めた相手。妹の幸せを願うのは兄の責務だ。義弟がどんなに破綻してても受け入れるのが家族だ。
「俺は応援するよ。妹が決めたことなら」
「それでもビッチの兄者ですか小坂殿! 今、目の前でビッチ妹が二俣殿にNTRそうになってるのですゾ!」
「誰の妹がビッチだって? ぶちのめすぞコラッ!」
今のうちに妹達の幸せを脅かす様なコイツら叩き潰しておこうかな。今後の安寧のため。
てことで、俺は田中の土手っ腹に発勁を繰り出した。派手に吹っ飛ぶ田中。しかし手ごたえは無い。
コイツ、食らう直前にわざと後ろへ飛んだな。ダメージ最小限にしてきた。
「いきなりのご挨拶っすねぇ一樹。寝取りの邪魔をするなら容赦しないっす!」
「んなぁ。さっきからメイの邪魔しないでください。背骨へし折りますよ?」
ん? 誰だ? いきなり物騒な言葉吐いてきた奴は。少なくとも田中や鈴木の声じゃあなかった。
五月にしては違和感ある声だし、それに地面から聞こえてきたぞ?
俺は思わず視線を下に向けると、見知らぬ女の子がそこにはいた。
誰かに似ている様な小柄で、髪色白銀セミロングの女の子が雪に擬態するように白のコートを被り、地面へ伏せていた。
前世は戦場でスナイパーやってそう。
「んなぁ。六花ちゃんの彼氏の監視をメイはやってるんですっ。邪魔しないでほしいなぁ」
メイ? 一人称メイ?
「メイはここに来ることを予想して3時間前から雪の中へスタン張ってたのに」
「雪の中で3時間も!? 根性凄っ!」
ってあれ、なんか既視感が。気のせいか?
「そっ、そっかぁ。俺は小坂一樹。小坂六花の兄だよ。俺も大体君と同じ理由で追ってたりする」
「メイは五十嵐芽衣。六花の親友だよ。よろしく。んなぁ、それでそこの二人は?」
「ああ。コイツらは他人の幸せを祝福しないし、寧ろ邪魔しようとするカス共だから覚えなくていいよ」
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