第5話 ストーカーと五月と 雪まつりパート1

 初デートのお誘いメッセージを送り、快諾を得られてから数日。時が経つのは早く、あっという間に決行日となった。


「クレープ美味しいなぁ」


「そうですね。クレープ美味しいです」


 今回は食べ歩きデートを選択した。街巡りと食事が好きと聞いていたから無難にと。


 今のところだが、五月との初デートは何事もなく順調にいっている。これは事前に綿密なルート選びと、下見を行った成果が出ているといえよう。おおよそ計画通りだ。


 もちろん、計画通りだったとしても彼女が満足しなかったらすなわち失敗なわけで。その場合ただの自己満だ。


 様子見兼ねてチラリと顔を見てみると、キラキラとした笑顔をしながらクレープを食べている。うん、雰囲気的にも表情的にもご満悦そうだ。次の機会にも告白すればワンチャンあるんじゃあないか?


 告白するからには身だしなみを整えてから……あっ。


 そうだ。髪とか乱れてないよな? ヒゲの剃り落としとか無いよな? うわぁ、家出る前にちゃんと身だしなみ見とけばよかった。体臭は出ないよう対策しているけど、彼女から見て臭くないだろうか?


 ダメだダメだ。考えたら考えた分だけナイーブな事を思い付いてしまう。こんな時はポジティブ思考に……


 コーディネートと言えば、五月はブラックジャケットに長めのティアードスカートを着こなしている。


 そうだ。王子様候補とかいうものって結局どうなったのだろうか? あまり聞き慣れない単語で耳に残ってるのだが、もしかして自然消滅した? 今更問いただすのは野暮だろうか?


 そうこう思考を巡らせている間に、目的の店に着いてしまった。すると五月はスマホとスマホ三脚を取り出して何やら準備を始めている。


「あれ、いきなりどうしたんだ?」


「チックロックとウィンスタでお店を紹介したり、お歌を歌ったりしてるのですよ。どうせならあなたも出演してみますか?」


 チックロック……ウィンスタはやった事あるけどチックロックはやったことがない。確か、短い動画を投稿したり観たりするんだったか。


 どうする。正直興味は毛ほども無い分野だが……


 いいや、やろう。何事も自分から心を開いていくことが大切。そのほうが相手も自分を好きになれる土壌が出来るし、自分も楽になるのだ。



◇こうして二人はチックトックを撮った。



「編集パッパと出来て凄いなぁ。是非とも教えてもらいたいぐらいだ」


「それはどうも」


「おお、本当に動画になってる! 完成度高っ! これがチックロックかぁ……いいなぁこれ」


 彼女は満更でも無い表情で編集をしていた。



         ◇



「すごい……投稿してたった数分で数十万いいねが付いてる」


「いつもは投稿数時間で数万なので上振れてますね」


 ド派手にすごいことなのに本人はさほど気にしてないようだ。いつものクールな表情を崩さない。個人的には他者へ自慢しても良い数字なのだが。


 そういえば、こんな一瞬で数十万いいね稼ぐ彼女のフォロワーは何人ぐらいなんだろうとふと思った。俺はチラッと彼女のフォロワー数を確認。俺の狂いなき眼にはフォロワー330万人と見える。


「……えっ? フォロワー330万!?」


「そうですね。友達に勧められて始めてみたら、いつのまにか増えてました」


「なんかもう。言葉すら出ない。凄すぎる。どうやってここまで……」


 参考までにウィンスタだが、俺のフォロワーは数千人である。ウィンスタ歴三年。


 つまり何が言いたいかと言うと、五月はつよつよインフルエンサー。


「一体全体どうしたらこんな数字になるんだ……?」


「それは私でもよく分からないんです。どうしてこんなに注目されているのか」


「チックロックでフォロワー330万人かぁ……」


 まあ、このビジュアルで人気が出ないわけないよなぁ。証拠とか出されなくても不思議と説得感はある。


 プルプルプルリンリンリン♪


「ああ、ごめん。電話かかってきたわ。ちょっと待ってて」



◇小坂一樹が電話で離れている間、五十嵐五月は一人、物思いに耽っていた。


(やはり同級生が体験したという初恋のトキメキとやらはありませんでした。あなたを王子様候補にしたのは私ですが、あなたは私にトキメキを与えてくれるのでしょうか?)


◇五月は少女漫画脳拗らせ女であった。



 知らない電話番号だ。普段は無視するが、今はバズる瞬間を間近で見れて気分がいい。迷惑電話だったら適当に弄んでやるか。


「ああ、もしもし俺俺詐欺」


「五月ちゃんに手を出したら殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」プツン、ツーツー


「……スッー」


 ええっ、知らんおっさんに電話で殺害予告されたんだけど。怖っ、着信拒否しとこ。


「男……殺す」コソコソ


「五月ちゃんは皆の五月ちゃん」コソコソ


「独り占めユルサナイ……」コソコソ


「五月ちゃんの脇にペロペロするのはあたしよ」ゴソゴソ


「検索 人殺し 完全犯罪」コソコソ


 まさかと後ろを振り返る。すると複数の草むらが一斉にガサって音を立てた。


 もしかして、彼女の周りにめんどくさい奴らが彷徨いているのか? 可哀想に、そりゃあそうか。こんだけ可愛かったらストーカーの1人や2人付くよなぁ。


 これが人気者の代償か、人気者がこれか、ああ嫌だ嫌だ。彼女はこれで幸せなのだろうか。もっとも、俺が口出しする権利は無いのだが。


◇パート2へ続く

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