第5話 アルフェルト=ロイ暗殺事件4

ロイとメイが屋敷を手に入れた時と同じころ。


左丞相の部屋軍部の青年が直談判にやって来ていた。彼は政治的な派閥に属することなく淡々と職務を遂行していた。だからこそ今回の方針に納得が言っていなかった。


「アンドリュー様、どうして軍部が調査をするのですか?我々の業務では無いではありませんか。他者の職域を侵犯する前に軍ですべき事は多くあります。」

部屋に入るやいないやそう言って自信よりも圧倒的に立場が上の人物に捲し立てた。


「……噂は聞いている、レトか。」

アンドリューは小さくため息をついてそう答えた。レトは軍の中で規律に従わない事で有名であった。彼の価値は大衆にあり、軍では無かった。


「まさか、左丞相様に名前を覚えて頂いているとは。」


「……はぁ、こう言えば納得か?それは、ロイ様を暗殺した犯人が右丞相の派閥のものだからだ。」

アンドリューは少しばかりの寛容さを持ち合わせていた。それにこれを言えば、目の前の人物が喜んで調査に協力すると考えていた。

レトは扱いにくい人材であったが同時にそれなりに優秀な人材でもあったのだ。


レトは数秒黙り込んでから口を開いた。

「……本当ですか?そもそも、ロイ様は亡くなっているのですか?」


「何を言っているお前は、お前の噂は嘘だったらしい。」

優秀だと思っていたレトから自身が想定していなかった、アンドリューに取ってあり得ない解答が帰って来た事からアンドリューは呆れてため息をはいてから、欠伸をした。


レトはその様子を気にすることなく話を続けた。

「……まず、可笑しいことに、ロイ様の遺体がありません。」


「しかし、部屋に飛び散った血がそれを物語っているだろう。遺体は、報酬をもらう証拠として持ち出したのだろう、それの何が可笑しい。」


「いえ、それはおかしいです。まず、暗殺者が、血が飛び散るほどに手間取るでしょうか?それに、死体も残しておいても暗殺を指示した人には伝わります。もし仮に証拠が必要だとしても身体の一部で十分ではありませんか?」


「……ははは、飛んだ妄想力だ。暗殺者がロイ様を生かす理由がない。それに、そこの使用人が『ロイ様は、使用人全てを逃がすように』と言ったと証言しているのだぞ。」


「それが、本当の証言ならですね……使用人が全員無事なのが怪しいと思いませんか?」


それを聞いた、アンドリューは、数秒黙った。

「しかし、暗殺を指示したのは、警務省の人間の中にいる。そして、ロイ様は彼らによって殺された。」


「もちろん、そうであれば、許せる行動ではありません。しかし、ロイ様が生きているなら、そんな事よりも、ロイ様の保護が優先です。その事も踏まえて」


「はぁ、やはり噂通りの人物だったなレト。ロイ様は死んでいる、そしてその犯人は、オルレでなければならない。つまり、お前はクビだ。」


アンドリューは、そう言って机を叩いた。まず、アンドリューはロイが暗殺されていることを確信していた。彼は、政敵である、右丞相の事を侮っていなかった。彼の派閥が暗殺などをするときに失敗すると考えていなかった。それに加えて、仕方ないがアルフェルト=ロイを甘く見ていた。

だから、アンドリューにとって今の問題は、右丞相にどのようにダメージを与えるかであり、彼は、その証拠をどんな手でも持ってくることを要求していた。だから、それにそぐわない、レトをクビにすることにした。


「不当です……お言葉ですが、アンドリュー様、もし仮にロイ様が生きていたらどうなさるおつもりですか?」

レトは、目を見開いた。


「ははは。まあ、その時は、お前の望むものを一つ与えよう。」


「では、ロイ様を保護できた時には私のクビを取り消してください。」


「はは、それどころか2階級でも3階級でも特進させてやるは」

アンドリューは、バカにするように笑った。それから、レトに出ていくように促した。


レトは、それに応じて頭を下げて

「では、失礼しました。」

左丞相の部屋を出た。






同時刻、右丞相オルレ=ライの部屋オルレ=ライとその付き人が小さな声で話していた。

「どうなさいますか?アンドリューは恐らく、気が付いていますよ。オルレ様」


「まあ、その点はどうにかなるだろう。陛下に適当に機嫌を取ればよい。」


「……ですが、犯人が見つかれば流石に不味いのでは?」


「はあ、どうして今回に限って、しっかりと使用人は買収したのだろ。無駄に血を流す必要はない。それに、使用人は他の場所で使用できる。がしかし、はぁ。」

オルレ=ライはそう言って頭を抱えていた。オルレ=ライの買収は成功していた。実際にロイが暗殺されたと風潮したのは、ロイ自身であり、彼の失策では無かった。


「ええ、ロイの使用人のメイドを全て噓の罪で捕えますか?」


「いや、むしろ見つけてきて厚遇しろ。いや、この際、誰でもよい偽物でもなんでも、忠臣として。我々が、そうすれば、陛下は騙せるだろう。」

ライは、メイドを厚く待遇することで、暗殺の黒幕であることをカモフラージュする手を打った。


「承知しました。では厳しいですが、暗殺者の方は捕らえてしまいますか?」


「あれは、そう簡単に捕まらないのだろ、お前が言っていたではないか。並みの強さではないと、ならばあちらも捕まえる事は出来ない。お前の見立てを信用しよう。」


「ええ、私が見た感じは。では、どうなさいますか?」


「無視しろ。唯一の証拠を消し去ればよい。そもそも、あんなもの確認が取れたらすぐに処分するべきだ。間違えなく、あの目は、皇族の血筋のものだ。」

ライは、そういうとロイの暗殺をした証拠としてメイが持ってきた、ロイの右眼を処分するように促した。


それは、本物のロイの右眼であった。彼が契約魔法の代償として右眼を捧げた。

彼の身体から右眼が永遠に消えた。

その時の右目をロイは再利用したのだ。それに右目を捧げた契約として一時的に得た力で魔法を付与して、メイに証拠として運ばせていた。


「それが……その、処分しても燃やしても何をしても必ず戻ってきて、まるで生きているかのように、呪っているかのように。」


「……そんなことはあるか。言い訳は良い、処分しておけよ。」

ライがそう叫び、話は終わった。


ロイの眼はそれを見ていた。

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