第12話 コラボ配信スタート 視点:ネゴみん
「ネゴ民のみんなこんネゴ~! ネゴみんだよ!」
:こんネゴ~
:こんネゴ~
:昨日の今日で配信やるんだ
:あのおじさんは?
:こんネゴってなに
:おじさんを見に来ました
よしよし、開始時点でかなりの人が集まってる。しかも、私の固定層だけじゃなくて色んな界隈の視聴者が集まっている感じがする。昨日の勢いはまだまだ収まってないな。
「今日も楽しくダンジョン探索! 昨日に引き続き新宿ダンジョンに来ております! 早速探索に……と行きたいとこなんですが、本日はなんと!ゲストをお呼びしております!」
:ゲスト?
:ネゴみんに配信出てくれる友達なんているわけないだろ!
:はやくおじさん出せ
:媚売りキッショ
:かわいい
:もしかしてあのおじさん来るー?
:ネゴみんはもういいよ
:おじさんまだー?
:誰この女
おーおー荒れておる荒れておる。昨日バズり散らかしたせいでコメント欄の治安が普段より数段悪い。だが、荒れた視聴者たちよ、今に見てな! こっちにはあの人がいるんだから!
正直あの人を見つけた瞬間は心が舞い上がった。今生の運を使い果たしたかってくらいラッキーだった。まさか、まさか本当にあの人に会えるなんて。
しかも、まさか私の配信に出てくれるなんて……! 嬉しすぎる、嬉しすぎて爆発してしまいそう。
「というわけでゲストさん、こちらです!」
私はうきうきでハンディカメラをその人、芝崎一郎さんに向けた。
「あ……どうも初めまして、芝崎クリーンの、芝崎一郎です。本日はよろしくお願いします」
:固
:なにこのおじさん
:おじさん出てきたじゃん
:だれ
:かった
:彼氏?
:もしかして昨日の人
:なんか違くないか?
:別人じゃんwやったなネゴみん
……あれ? コメントの反応が微妙だ。もしかして偽物だと思ってる? いやまあ確かに昨日とは服の色とか違うけど……。
「えっと、この人は私を昨日助けてくれた人です。今すごーく話題になってるのでみんな知ってると思うけど。それで、さっき一階層で偶然お会いしちゃって! 思わず話しかけたところ、今回芝崎さんのお仕事を見学させていただくことになりました! やったね!」
:よかったね
:本物?
:名前芝崎っていうんだ
:偶然ねえ
:誰
:適当にサクラ連れてきただけでしょ
:おじさんの顔って全部同じに見える
:でも背格好は似てる気がする
:芝崎クリーンはマジであるっぽいな
:見損なったよネゴみん…
:もうええでしょ
:これホンマに本物か?
説明しても未だ懐疑的な視聴者が多い。そんなに昨日と違うかな……? 確かに昨日の戦闘中みたいに殺気立った雰囲気は無いけど、芝崎さんに流れる魔力の感じとか特徴的だと思うけどな。
でも、芝崎さんの仕事を見たらきっとみんな簡単に手のひらを反すはず。
:ネゴみん売れたくて必死じゃんww
:本物のおじさんを出せ
:くだらんコメントやめろ。ネゴみんの配信なんだからおじさんおじさん連呼するな
:こんな配信誰が見るの
:ちょっとみんな落ち着こう
:自治厨やめてねー
:よっす!✋😎
:静観しろ
荒れたコメントとそれを何とかしようとするコメント、そしてそのコメントに対して反応するなというコメントやまるで無関係なコメントが混ざって混沌を極めてしまっている。
ああもう、一旦コメントは全部無視しよう。
とにもかくにも話を進めないと。このまま立っていたって本人の証明なんかできるわけないし、私のファンも増えない。
横目でちらりと芝崎さんの方を見るが、この荒れ具合芝崎さんは気にしていないようだ。この人にもコメントは見えているはずなんだけど、無反応なんだ。慣れてるのかなこういうの。
「えーと、私たちは現在ちょっと上がって中層上部の11階層に来てます」
:うわほんとだ
:もう?
:はや
:今日新宿ダンジョン死ぬほど人多かったよ
:入場の待機列に並びながら見てます
今日の新宿ダンジョンは死ぬほど人で溢れかえっていた。理由は一つで、私の配信に映った芝崎さんを探しにだ。何故探すかは野次馬だったりパーティ勧誘だったり人それぞれだろうけど、この状況で芝崎さんと配信するのはリスクのある行為だ。
下手な場所で配信すれば大勢の人が押し寄せて野次馬やらパーティ勧誘やらで配信どころではない。
そこで選んだのが中層上部である11階層の洞窟部。
中層上部にはC級以上しか入れない。数の多いE級とD級は来れず、それ以上に強い人たちはもっと上の21階層以降の中層下部とか31階層以降の深層に探しに行くだろうから穴場だと予想したが、案の定11階層は周辺に人の気配はしない。さらに、そこそこ入り組んでいるため簡単には見つからないだろう。
我ながらグッド判断だ。
静かなところで撮りたいという申し出に快く了承してくれた芝崎さんには感謝しないと。
……感謝することいっぱいだな私は。これでもしトラブルが起こっても、まあ配信的にはおいしい範囲で納められると思う。でも、芝崎さんに迷惑がかかることだけは絶対に阻止しないと。
あと、SNSでサンダイレンが捜索のために動いているとかいう投稿があったけど、実際どうなんだろう。サンダイ様を一目見たいという欲は少しだけある。
「というわけなんですけど、そもそも私ってダンジョンの清掃業者って何をされてるのか全く知らないんですよね。普段どういったお仕事内容なんですか?」
:確かに、それは良く知らない
:そんな仕事あんの?
:ゴミ拾いとかするんじゃね
「そうですね。清掃業者といってもそのほとんどが探索者が倒して素材を剥ぎ取った後のモンスターを処理することですね」
:へー
:偽物用意してまで目立ちたいの?
:それって仕事になるのか
:俺でもできそうじゃん
「死体処理、ですか。それって何か特別な器具を使ったりするんですか?」
「ああ、うちはこれでいつもやってますね」
:出た
:草
:デッキブラシまで用意している
:本人確認完了
:清 掃 完 了 だ
:こっちが本体まである
芝崎さんは持っていたデッキブラシを前に出す。なんか当然のように持っていたから逆に気づかなかった。
死体処理もデッキブラシでやるの? 掃除屋って言ってたから来る前に気になってダンジョン清掃についてちょっとだけ調べたけど、もっとなんていうか……専門的な装備を付けていた。
疑う訳じゃないけれど、本当に芝崎さんってダンジョン清掃の人なの?
「その、デッキブラシでどんな感じに仕事をするんですか? なんというかあまり想像がつかなくて……」
「そうですね……近くに管理局に報告されてるモンスターの死体があるんで、一回やってみますね」
そう言って芝崎さんは洞窟の奥へとずんずん進んでいく。すると、前方にモンスターの死体が落ちていた。肉や皮はなく骨だけになっている状態なので、種類まではわからない。
「これは何のモンスターですか?」
「この辺に出るならランスタイガーかな。かなり丁寧に剝ぎ取ってあってほとんど残ってないからわかりにくいですけど」
:本当にあった
:うわー死体ってこんな感じなんだ
:やっぱ普通の生き物と違う構造してんだなモンスターって
:みんな見入ってて草。偽物なのに
:ランスタイガーなんだ。てっきりアサルトジャガーかと
ランスタイガーといえば頭にでっかい角が付いたトラ型のモンスターだ。助走しての重たい突進突きはC級上がりたての探索者にとってトラウマ級の一撃だ。私も昔はかなり悩まされたのを覚えている。
「今コメントで『なんでアサルトジャガーじゃなくてランスタイガーってわかったの』って来たんですけど、芝崎さんは何を見て判断されたんですか?」
コメントの指摘もわかる。この11階層には似た体躯の別のモンスターが存在するのだ。それが、アサルトジャガー。
素早い動きで影に潜み、連続攻撃を仕掛けてくるなど攻撃方法はランスタイガーの真逆であり、色や見た目もランスタイガーが黄色でアサルトジャガーが黒とかなり違ってくる。しかし、一方で両者とも4足歩行の獣型モンスタなので骨格が非常に似ている。
私だったら、骨の状態じゃ全然見分けがつかない。というかこの骨に角みたいなの無いし、やっぱりアサルトジャガーじゃないの?
「それはですね……ほらここ、頭蓋骨にあたる部分を見てください」
「……ちょっとへこんでる?」
「そうです。ランスタイガーの角って鹿の角みたいに意外と簡単に取れるんですよね。それで、ここの部分が取れた痕なんです。これはアサルトジャガーには無い特徴です」
「そうなんですね! 知らなかった……」
:へぇ
:ためになる
:そうなんだ
:専門の人ではあるんだ
「ランスタイガーの固い角は比較的高く売れます。皮も防刃性に優れて素材として重宝するので剥いだのでしょう。肉は……付近に火を使った痕跡がまだ残っているので、恐らく加工して食料にしたのかな。そうして、使用用途が少なく売りにくい骨だけがここに残った……って感じですかね」
「へー、死体一つでそこまでわかるもんなんですね。」
「といっても、処理するだけならいらない知識なんですけどね」
:なんでそこまでスラスラ話せるの
:おじさんの解説めっちゃおもろい
:ネゴみん圧倒されてるやん
:まあいうて所詮11階層のモンスターだしな。知らなくてもって感じ
:聞き入ってたくせに
:こんな逸材どこで見つけたのネゴみんは
おお、コメントの流れが芝崎さんの話を聞いてなんだかいい方向へ行ってる気がする。流石専門家、やっぱり本当に業者の人なんだ。
「話が長くなりましたね。じゃあやりますか」
と、芝崎さんはデッキブラシを地面に横たわっている骨に向かって構える。
……やばい。重大なことに気づいてしまった。興奮のあまり勢いでここまでやってしまったが、今回の配信流石にノープランが過ぎる。芝崎さんの昨日の戦闘はすさまじかったが、その仕事風景が同じようにすさまじいかはわからない。
もしこれで死ぬほど地味だったらどうしよう。私にアンチが増える分には構わないけど、変なことでキレた視聴者が芝崎さんに迷惑とかかけたりしたら……。
「見ててください」
緊張の瞬間、芝崎さんはそのデッキブラシのブラシ部分をそっと骨へ降ろす。
スオオオン! さあっ……
謎の音が鳴ったかと思うと、骨があった場所から砂塵のようなものが舞い上がっていた。
「…………?」
:???
:え
:砂じゃん
:えーっと?
:一瞬で粉になったが
:骨どこ行ったの
:デッキブラシで砕いた?
:w
:この人、本物です
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