短編戯曲「すいか、甘いか」

@fukken_gicho

短編戯曲「すいか、甘いか」(議長)

登場人物

 浩明  高校生

 由美子 浩明の母


    浩明が縁側にたたずんでいる。

    横には皿に載った二切れのスイカ。


浩明  (食べながら)うっまー。

由美子 そりゃ美味しいでしょ


    浩明は手に持ったスイカをじっと見つめる。


浩明  なんかスイカ食べると・・・夏って感じがする

由美子 当たり前じゃない。8月中旬だからね

浩明  蝉も鳴いていてうるさいくらいだし

由美子 蝉は短い命だから必死なのよ

浩明  必死に鳴いているけど、何蝉かは知らないな

由美子 それくらい調べなさいって(笑)

浩明  ・・・にしても日差し強っ!

由美子 そうね。部活の時に熱中症にならないようにね

浩明  部活やばそう。めっちゃ暑い

由美子 暑いからこそスイカ食べるのがいいのよぉ

浩明  これは冷えてて甘い

由美子 冷えてると美味しさ増すわねえ

浩明  春に出たばっかりのスイカ、母さんよく食べてたな

由美子 だって好きだから

浩明  去年も出てすぐのやつ買ってきてた

由美子 見ると欲しくなっちゃうし

浩明  まだそんなに甘くないのに

由美子 甘くないかもしれないけど、酸いことはないでしょ

浩明  さすがに酸っぱくはないけど、16分の1くらいの大きさで二千円以上とかよく買うわぁ

由美子 好きなものへの投資は惜しまないものよ

浩明  いつも買ってきて『これだけは息子にもあげない』とか言っていたっけ

由美子 高い物とか買うよりいいでしょ

浩明  宝石やアクセサリーに興味がなくて買わなかったから、スイカだけは譲れないとか言うし

由美子 プチ贅沢よ

浩明  毎日スイカ食べてた。母さん=スイカだな

由美子 夏は冷蔵庫内に一つはないと

浩明  普段ほとんど怒らないのに冷蔵庫にあったのを勝手に食べたら、めっちゃ怒られたな

由美子 あれはあなたが悪い

浩明  スイカへの執着がすごすぎて怖かった

由美子 好きな物への執着は誰にでもあるものよ

浩明  代わりのを買いに行かされたし

由美子 当然の罰だわ

浩明  スイカを勝手に食べて小遣い減らされたのって、おそらく日本で僕だけだろうな

由美子 いや、きっと日本中だったらほかにもいるはずよ。それに食べた代金を徴収しただけだからね

浩明  あの時の母さんの目、本気の怒りの目だった

由美子 食べ物の恨みは恐ろしいものなのよ


    浩明、口の中にたまった種を庭に飛ばす。


浩明  スイカって種飛ばしたくなる

由美子 気持ちはわかるわ

浩明  でも、種は絶対にこのままだと育たないよな

由美子 いつもそうやっても、まったく生えてこないしね

浩明  そう簡単に命は生まれないってことか

由美子 そうね

浩明  なくなるのはすぐなのに

由美子 ・・・

浩明 でも、食べる時って、なんか、種が邪魔な        んだよねえ

由美子 食べながら取るのが面倒だしね

浩明  見えている範囲の種を全部取ってからじゃないと食べるの嫌だし

由美子 そういや、いつも先に必死にとっていたわね

浩明  だから食べながら出てきたら、また取り除こうとしてしまう

由美子 よく食べるの中断していたわね

浩明  腫瘍のように一つ取り除いてもまた出てくる

由美子 ・・・

浩明  (食べながら)・・・にしても、このスイカは甘い

由美子 良かったわ

浩明  (スイカを見つめながら)『最後の晩餐は絶対にスイカで』って普段からよく言っていたよね

由美子 覚えていてくれたのね


    浩明は皿を手に取り、そのまま部屋の奥へ。

    そこには仏壇があった。皿をそこに供える。


浩明  じゃ、母さん、食べたいって言ってたスイカ、置いとく(手を合わせる)・・・部活行ってくるよ

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