第10話 怨恨による悔恨

 燃え盛る家の熱気。そこに膝を突き涙を大量に流し続ける彼氏、それを害そうとする元カレを見た未奈は怒り、何故か1人でいる小谷を射殺しようとするがブランに止められる。


「んむっ......な、なんで?早く殺さないと朔が......」


「何か話しているからまだダメ!ただ弾を込めたかは確認して、確実に......」

 最後の一言は冷たい声だった。2人は影に隠れ雑音の中から聞き分けて2人の会話だけを聞いた、バレない様に隠れた為に目視による彼らの様子は見えない。


「何度聞いても意味がわからないっ!何でこれが忠誠を示す事なんだっ!俺の首だけでも良かっただろうがアッ!俺の両親と仲間はどうしやがったッ!」


「だからよぉ、俺もこんな事するのは本当に心苦しいんだ。それに、もうお前の両親に彼女と俺が捨てた女はもう潰れて燃えちまっているからな。だがこれが俺の安寧の未来のための礎となるんだ、上官?の人の信用を獲得するには前の仲間を皆殺しにするのが最適と言われてな、外から爆弾でドカンして崩壊した所に放火したわけよ。まあ〜死んだだろうな、それも即死はできないだろう」

 朔が単独で外出したと嘘をついたのか2人の生存には気がついていない小谷。淡々と話す小谷。こんな世界になる前は親友だったのに何故こんな事を簡単にしてしまえるか朔は問う。


「チッ......ワケがテメェと浮気相手の幸せってのはわかる。だから何で親友の俺とかを簡単に殺せるっ......あの中で燃えているんだぞ、俺の両親もっ!人の心とか無いのか?」


「いや人の心だよ、これは。自分の幸せを願うほど人らしい心は無いんだ。そうだろ?それに、これは俺の正式入隊の最後のテストだ、恨みはないからお前との思い出は別でたまに思い出して懐かしむよ。じゃあな、あば......」

 そう言いかける瞬間に2人はサイコ野郎を殺害するべく飛び出し撃とうとするが衝撃的な光景が更に広がる。朔が銃口付近を掴み頭から横に退けたのだ。小谷は圧倒的な優位さに心が高揚して、慣れない重いアサルトライフルを片手で持って朔の頭をグリグリしていて不安定であった為である。


「バカヤローーッ‼︎‼︎」

 朔はそう泣き叫び89式小銃(※簡単に説明 最新の20式小銃の一つ前の世代の主力銃)をなんとか弾き飛ばして、紐に繋がった銃は小谷の身体にぶら下がった。この事に激しく動揺し拳銃を引き抜こうとするが訓練をろくにしていない為にもたつき、その隙で小谷の装備していたナイフを奪い取り首に思い切り突き刺す。ゾンビ作品の知識ではなく暇つぶしに見ていたアメリカの護身術動画が役に立ってしまった。それにオタクの妄想によくある銃に打ち勝つ俺tueeeを成功させても残るは悲しみと憎しみだけだった。かつて学生時代の授業中で妄想していた時の様な高揚感は無かった。なんせ親の仇であり親友相手であったからだ。


「ごおッぐぼっさ、さく......ずまなびびっ......ぶふっぶぶっっ............」

 口と首から大量に血を出しよろめき倒れ動かなくなる小谷。咄嗟に殺してしまった朔は泣き叫ぶ訳も無く血塗れのナイフを握り立ち尽くす。その背中を見て2人は急いで駆け寄り顔を見た。


「朔............っ!......ごめんね、私本当に謝ってばかりだね......朔に......親友だったのにこんな事をさせてしまって......私が殺していれば......」


「大丈夫かさ......朔......ああ......泣かないでよ。これは自衛なんだから気にするなって......私はもうこいつの事はどうでも良いからさ。落ち着いて、深呼吸を......」


 2人が見た朔の顔に怒りの様に歪む様子は無かった、無表情とも取れる顔でひたすら涙を零していた。親友をこの手で首の肉を刺す感触を味わいながら討ち取った事、その親友に両親を殺された事、己が殺されかけた事。自分は何をしたら正解だったのか、何をすればこんな事にならなかったのかわからない。ゾンビゲームだったらこのルートは正解だったのか。精神病の朔にはまともに思考できず耐え難い苦しみの津波が押し寄せキャパオーバーでいたがナイフを落とし口を開く。


「俺はまだこいつを親友と思っていた。裏切られた後もな。なのに、こいつと同じく躊躇いなく親友を殺した。いつかこんな世界だから手を汚す日は来ると思ったよ。それが両親の仇で親友だったなんてね、ははっ。はははは!!!」

 何故か笑ってしまうが涙は止まらず、2人は何もかける言葉も出ず何もできなかった。そして突然、何故かナイフを拾ったと思うと自分の首に突き立てようとした。それを見ていた2人はアスリートの持ち前の反射神経で反応し、必死に2人がかりでその腕を止めた。ただのチビニートだったとは思えない程の腕力で己の首を刺し、親友と同じ末路を辿ろうとする中で止めていた2人も泣きながら言う。


「よしてっ......我儘なのはわかっているけど失いたくない......これ以上家族が減りたくない、失ったばかりの貴方に言うのは酷だろうけどッ!まだ私貴方がいないとていや、ずーっと居てくれないと苦しいの、お願いだから......」

 とブランは本気で止めるが狂って火事場の馬鹿力を出した朔の方が力が上だが未奈もいる為に拮抗するなか未奈も言う。


「私の代わりに復讐させてごめん、あの時は不可抗力とは言え殺させてしまって本当に申し訳ないと思っている。でも朔の自殺は違うっ!身勝手だけど貴方の事を必要としている人はいる!それが私達だよ、くどいと言われても言い続けるからね......だから............本当に............死なないで......」

 そう言われてナイフを落とし崩れて哀叫する返り血で血塗れの朔。


「家もだ、家も失った。つまり、思い出もだ、家族旅行写真に学校のアルバムも、色々な写真も卒業の寄せ書きも全部燃えちまった......その思い出も一緒に作った肉親2人も死んじまった......うぅ............しかも、必死に集めた役に立つデータに寝ずに作った武具に便利装置も......俺のくだらなくも大切な人生が殆ど燃えちまったんだよぉおおおお!!!!うわあぁぁあぁああ!!!!」

 泣き叫びコンクリートの地面を殴る、その手は段々と血が滲んでくる。発散させた方が良いと思ったブランは流石にと止める。朔は抜け殻の様になってしまった、だがこれで彼はようやくブランの苦しみが本当に理解できた瞬間でもある。

 2人はその場にいると小谷のテストの確認に人が来ると思い、小谷の使える装備全てを引っ剥がして鹵獲する。そしてその小谷の遺体は燃え盛る家々の中に投げ捨てた。血は水でできる限り隠蔽し小谷が車で失踪した様に偽装し、フラフラで虚な目でまともに動けない朔の汚れ落として無理矢理車に乗せて走り去るのであった。運転はもちろん未奈。後部座席に2人を乗せた、朔が突発的に自殺しない様に見張る為だ。暫く走らせてガソリンスタンドに停まる。


「......」

 ブランは朔を抱きしめていた、彼の涙で服が濡れても気にせず。


「ここは災害時に停電しても使える所だから入れるだけ入れよう......一緒にくっついているコンビニからお金盗んでくる」

 そう言いながらエコバッグをついでに持って入っていく。


「はぁ......考える事は同じか............朔が好きな腐ってないの持ってこ......」

 もう既に荒らされていたが、飲食は足りていた頃に荒らされた為かそこそこ残っていた。それを入るだけ袋に詰め戻り所持金でガソリンを入れ出て行く。


「なあ......朔の好きなアルコール入りのチョコだよ。食べて......」

 と酒と甘い物が好きな朔に手渡す。


「ん......」

 受け取り食べ始めたがまた泣き始める。


「これ......父さんが俺が本当にガキの時に食べさせて法律違反でお前は捕まるぞって冗談言っていたなぁ......ううぅ......最後に家族となんて会話したっけな......覚えてないや、こんなになるなら抱き締めれば良かった............ああ、母さんがノック何回とか言っていたな、それを適当にあしらった......最後の会話がこれか?思いを話したい伝えたい、まだ別れる時だなんて............こんな事言ってサーシャごめんなぁ、サーシャの方が先にもっと辛い思いしたもんな。やっと本当に理解したよ」

 徐々に正気に戻ってきたのかブランに謝罪し始める。


「貴方にまでこんな思いはさせたく無かった、謝らないで。謝り続けたいのは私の方よ......」

 話なんか聞かずあいつを射殺すれば良かったと、その時から何度後悔したかわからないブラン。首を刎ねたり彼氏の親友を射殺する事に躊躇いがないブランはやはり異常とも言える。そして黙って運転する未奈の頬には涙、良かれと思って渡した物で余計な事を思い出させた事に対する自責の念であった。苦しんでも泣いても謝罪しても時間は進む、これから3人の命懸けの流浪の旅が始まる。

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