まほうつかいのマホロちゃん!〜マホロ、人間界にやってくる!〜
文屋りさ
第1話:マホロ、まほう界から追放される!?
「──マホロ、あなたをこのまほう界から追放します」
ひんやりと冷たい空気が流れる大広間に、グッと突き刺さるような言葉が響き渡った。
「つ、追放!?」
「そうです。まほうアカデミーのお友達を石やカエルに変身させるなど、断じて許されることではありません」
目の前には、まほうの国『フェアリス王国』の女王様が険しい顔をして私を見ている。
……あぁ、最悪だ。ほんの少し前に起こったできごとが、もう女王様の耳にまで届いてるなんて!
「で、でも先に私をからかってきたのはエリスとパーラです!私のことを悪い魔女だとか、黒まほうつかいだとか、そんなことばっかり言うから……っ」
「だから、二人に向かって危険な変身まほうを使ったというのですか?」
「それは……」
それ以上なにも言えなくて、くちびるをギュッと噛み締めた。
だって、悔しかったんだもん。
この真っ黒な髪の毛の色をバカにされたことも、私は女王様になれないって言われたことも、ぜんぶ、ぜんぶ。
私には、大きくなったら叶えたい夢がある。
それは、みんながうらやましいって思うくらいの最強のまほうつかいになって、このフェアリス王国の女王様に選ばれること。
だから、毎日まほうの勉強をして、つかい鳥の訓練だって欠かしたことはない。
テストの成績はいつも一番だし、まほうのホウキだって一年生のころから誰よりも上手に乗りこなしてきたんだから。
私はまほうアカデミーの中でトップなんだから。
それってつまり、“最強”ってことなんだから!
それなのに、そんな私が……この国を追放される!?
「マホロ、あなたを──……人間界へ降ろします」
「に、にに、人間界!?」
女王様が放った言葉を聞いた瞬間、頭の中が真っ白になった。
「い、嫌だ嫌だ!それだけは嫌です!許してください、女王様!」
人間界といえば、まほうも、まほうのホウキも使うことが禁止されているところなんだってアカデミーの授業で教わった。
まほうが使えないから、どこへ行くにも自分たちの足を使って移動しなくちゃいけないらしいし、ごはんを作るのだって、一からぜんぶ手を使って作らなくちゃいけないそうだ。
「ま、まほうが使えないところへなんて行きたくないよぉ!」
「いいえ、なりません。あなたがお友達にしたことは、そのくらい重大なオキテ違反なのです」
女王様は淡々とそう言って、手に持っていたまほうのスティックをクルリと振りかざす。
すると、私の杖とマント、それからまほうアカデミーの生徒手帳がスッと浮かび上がって、瞬く間に女王様に奪われてしまった。
「あ、ちょっと!」
まほうつかいは、杖がないと十分なまほうが使えない。
あれを奪われちゃったら、私、本当にまほうが使えなくなっちゃうじゃない!
フェアリス王国では、まほうつかいの子供が生まれたとき、最初にお父さんとお母さんからプレゼントされるのが、まほうの杖だ。
「それは私の大事なものです、返してください!」
思いきり走って取り返そうとしたけれど、女王様に敵うはずもなく、私の杖やマントは見る見るうちに小さくなって、目の前からパッと消えてしまった。
ダメ、待って、やめてよ!
私からまほうを取り上げないで……!
だいたい、今回のケンカだって私一人が悪いわけじゃないのに!!エリスとパーラだって、私をからかって楽しんでいたくせに!
どうしていつも、私だけ悪者にならなくちゃいけないのよ!
「さぁ、お行きなさい。あの『七色の扉』を開けば、人間界へと続く階段があります。そこを通って、この国から出てお行きなさい」
女王様が指をさしたのは、大広間の一番奥にある七色に光り輝いている扉。
まほう界と人間界の唯一のつながりであるその扉の前には、鎧を身にまとったまほう騎士が二人も立っている。
あの扉を抜けると、私は本当に人間界へ追放されてしまう。
「マホロは人間界へ行って、もう少し人の心というものを学んできなさい」
「……らい」
「今のままでは、決してマホロの夢であるこの国の女王になることなんてできないわよ?」
目の前にいる女王様は、このフェアリス王国をおさめる女王様である前に、私のお母さんだ。
お母さんはいつだって私に厳しくする。
きっと、私のことなんて好きじゃないんだ。そうに違いないよ。
だから人間界へ追放だなんて、そんな罰を簡単に下せちゃうんだ。
「女王様なんて……っ、ううん、お母さんなんて大嫌いなんだから!」
あふれ出てきた涙をこぼさないように、ギュッと歯を食いしばった。
そしてまほうが使えなくなった今、自分の足で一歩ずつ七色の扉へと向かっていく。
この扉は、外側からは決して開けることができない。
それはつまり、私がこのフェアリス王国に戻ってくることはできないということ。
震える手で、そっと扉の取手を握った。
「……マホロ、よくお聞きなさい?」
「ふんっ、ヤダね!この国も、お母さんも、アカデミーのみんなも、全員大っ嫌いなんだから!」
震える手を誤魔化すように大きな声でそう言って、いきおいよく扉を開け放った。
ぶわっと激しい風が吹き込んできて、思わず息をのんだ。
目の前に広がる光景は、無数に下へと続いている七色に光っている階段だった。
「階段がキラキラしてる……って、うわああああ!」
きれいに輝く階段に見惚れていたそのとき、突然体がふわりと浮かび上がった。そして、扉の中へゆっくりと吸い込まれていく。
「ちょっと、なによこれ!まほう!?」
「マホロ、またあなたがこの国に戻って来られるよう祈っています」
「も、戻ってくる?フェアリス王国へ戻れる方法があるの!?」
「それは──」
お母さんがなにかを言おうとしたとき、宙に浮いていた私の体は真っ逆さまに急降下していった。
「きゃああああああ!」
あまりの速さに、私はギュッと目をつむることしかできない!
なんのために階段があるのよ!このポンコツ扉!
でも、まほうのホウキが使えない今、あの長い階段を自分の足を使って降りていくのも大変なのかもしれないけどさぁ!?
「あぁ、もう!やだやだ!本当に何もかも、ぜーんぶ大嫌いなんだからぁ!」
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