第4話

エリスは本の中の幻想的な風景を歩きながら、次第に心が落ち着いていくのを感じていた。森林の木々が緑のカーテンを作り、柔らかな光が葉を透過して、地面に揺らめく影を落としている。彼女はその中で深呼吸し、自然の息吹に包まれる感覚に浸っていた。風が木々の間を吹き抜け、穏やかな音楽のように耳に心地よく響く。


泉のほとりに立ち止まり、エリスは清らかな水面をじっと見つめた。水面には、彼女が本の中に入ってから感じてきた夢幻的な景色が映し出されている。ここでの時間の流れは、現実世界とはまるで違うようだ。彼女はその静けさに心が癒されると同時に、ふと現実世界の喧騒や人々の顔が思い浮かんできた。


「こんなにも美しい世界があるのに…」と、彼女は自分に言い聞かせた。「でも、これは現実じゃない。」彼女の胸に、現実世界で待つ家族や友人たちの顔が浮かんでくる。彼らとの時間や、共に過ごした小さな喜びが心に蘇り、エリスの中に強い感情が湧き上がってきた。


「この世界も素晴らしいけれど、私は帰らなければならない。」エリスは深く息を吸い込み、泉の水に手を浸した。冷たい水が彼女の手をすり抜ける感触は、現実世界の温かさや身近なものとの繋がりを思い起こさせた。彼女はこの自然の美しさに感謝しつつも、心の奥底で待つ現実の大切さに気づいた。


泉の水面に映る自分の姿を見つめながら、エリスは心から現実世界への帰還を望む気持ちが強くなっていく。水の中で輝く光が、彼女の中に新たな希望と決意を灯していた。エリスは、これからの冒険の終わりを迎えるために、この幻想の世界での時間を締めくくる決意を固めた。

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