管理人考察③

これまでに集められた情報を総合的にかんがみ、管理人と編集部の間でオンライン会議が行われた。以下はその会話の内容を文字にして起こしたものであり、会話以外の一切の情報は記載していない。


――――――――――


編集部「それでは、これまでに集められたお話や情報を改めて整理していこうと思います。管理人様、よろしくお願いいたします」

管理人「こちらこそよろしくお願いいたします」

編集部「それでは早速本題に。我々編集部は管理人様から依頼された通り、過去の新聞記事の収集や関係者へのインタビューを行ってきましたが、率直にそれらを見てどう思われましたか?」

管理人「そうですね、やはりそれぞれの話や情報は非常に密接に関係しているように思われます。順番に話していきますね」

編集部「お願いします」

管理人「まず、私のサイトに掲載した『何かを集める男』からいきましょうか。このエピソードをかつて私がサイト上に掲載した時、サイトの視聴者からDMにてメッセージが送られてきました」

編集部「我々も見させていただきました。「自分は実際にその男を見た」というものですよね?」

管理人「そうです、それです。その方から送られてきた話と『フォー・トライアングル』に掲載されたものを総合的に考えていくと、床に伏せて何かを集める行動をとる男には共通点があるようです」

編集部「共通点ですか?」

管理人「まぁ、共通点というほどのものでもないのすが…。その不気味な行動をとっているのはいずれも男性、それも年齢が40代の男性であるという事です」

編集部「ちょっと待ってください、DMにて連絡があったBさんなる人物はそれよりもお若いようですが、同じような症状になったと書かれていませんが?」

管理人「よくご覧になってください。何かを集めるしぐさを始めたのがAさんで、Bさんはその症状は見せなかったと書かれています」

編集部「なるほど、確かにそうですね」

管理人「そして最後の共通点が、時折登場する「さくらを集める」という言葉。私はこの点がなにか大きなヒントになるのではないかと思い、一人でいろいろと考えを巡らせていたんです。過去の事件を調べてみたり、行方不明者が関係していたりなどしないか、と。しかし結局私一人の力だけではどうにもならず、編集部の皆様のお力をお借りすることとなってしまいましたね、本当にありがとうございます」

編集部「とんでもないです、一緒に真実を追っているのですから」

管理人「おかげさまで、一つ真実に迫ることができました」

編集部「矢野遥人さんに関するあのメールですよね?正直我々としてもどう扱ったらいいものか分からず困っていたメールでしたので、まさかこのような形で繋がりが出てくるとは思ってもいませんでした」

管理人「あの話は、『何かを集める男』の謎を解明するうえで非常に重要な情報を持っていると思われます。というよりも、あの話はもはやそれらに対する”解答”と言ってもいいのではないかと思います。その事に初めて気づいた時は、それはそれは背筋が凍る思いを感じさせられましたが…」

編集部「管理人様のお考えをお聞かせいただきますか?」

管理人「おそらく『何かを集める男』の根源にあるものは、矢野遥人さんなのでしょう。地面一帯に広がる何かを血まみれになりながら集めすその姿は、事故当時の矢野さんの状況と非常に重なって見えます。しかしどう考えても、各エピソードに登場する男性たちは矢野遥人さん本人ではない。であるならおそらく、矢野さんはもうすでに亡くなってしまっているのだと思われます。しかし娘を亡くした彼の無念さだけはこの世に残り続け、何かの拍子に同年代の男性に憑りついてしまい、矢野さんのとった行動を再現させたのではないかと、私には思われます」

編集部「さくらを集める、というのは花の桜の事ではなく、矢野氏の娘の咲来さくらちゃんの事だと考えれば、この上なく合理的な説明であると言えますね。道路上にその体が散ってしまったというのは非常にショッキングな話ですが、それゆえに矢野氏の思いもまたすさまじいものがあったことでしょう」

管理人「その通りです。その点を考えても、やはり男の正体は矢野さんからきているものだと考えられるわけです。そしてさらにここでも、XXという名字に関する奇妙な性質が共通します。この名字の人物には何の直接的影響もなく、その周りの人に奇怪な現象が起こされている」

編集部「それで言うと、県警内部資料を流出させた真中氏にも同じことが起こっていますね。彼もまた年齢が同じ40代、その最期は『何かを集める男』と同じ言動が見られ、彼の近くにはXXという名字の人間が存在している」

管理人「もうここまで情報が揃ってしまうと。とても偶然だとは思えないですよね?正直最初はそれっぽい説をそれっぽい話で終えることができ、読者がそれを呼んで喜んでくれればいいとしか思っていなかったのですが、これはもう私自身も調べられる限り調べてみたいと思っています」

編集部「我々も同じ思いですよ。XXなんて名字、たぶん聞いたことがないって人はいないと思います。それがこれほど奇怪な現象を引き起こしているのですから、そこにはきっとなにか理由があるはずですよ」

管理人「あぁ、そういえばXXに関するもう一つの資料がありましたね。スーパーのブラックリストの奴です。私も見てびっくりしましたが、あんなものよく手に入りましたね」

編集部「我々も驚いています。あれは迷惑客の実態に関して記事を書こうと思って寝かせていたものだったのですが、よく見てみれば店長の名字がXXだというではありませんか。これはもしかしたら、と思ったんです」

管理人「すばらしい観察眼をお持ちです!」

編集部「ありがとうございます。…そしてさらにもう一つ、新しい情報を手に入れることができました。ここで共有させていただきたく思います」

管理人「なんですか?」

編集部「少し話は戻るのですが、娘様が飛び降り自殺をしてしまったその矢野氏に関する新しい話を得ることができたのです。これは知り合いの記者から教えてもらったのですが、これはかなりショッキングな内容ですので当時、記事にすることをためらったのだというのです。…というのも、実は矢野氏、咲来ちゃんの遺体を見て錯乱状態になってしまったのか、路上にひざまずいてかき集めた彼女の肉片を、なんとそのまま自分の口の中に入れてしまったというのです。それを偶然近くにいた人が目撃していたそうなのですが、矢野氏は咲来ちゃんの内臓を口に入れながら「にがい!!にがい!!でもこれがさくらの味だ!!」などと奇声をあげていたのだと…」

管理人「…なるほど、非常にショッキングですね…。しかしそれはもしかして…?」

編集部「はい、おそらくそれが『漬物女』につながるのではないかと我々は考えています」

管理人「ということは…ひたすら漬物を口にしていた女性たちは、その時の矢野さんの感じた味や感触をそのまま味わされている、と?…。確かに漬物ってすごく味が濃いいですし、一般的に清めに使われるイメージの強い”塩”が入ってるから、何かそういう悪い気を払うには向いているのかもしれないですね…」

編集部「矢野氏の無念の思いは、我々が想像もできないほどに強いものだったのでしょう」

管理人「いや、もしかしたら逆なのかも…?」

編集部「逆、といいますと?」

管理人「これは完全に推測ですけれど、飛び降りた時の状況がそれほどにひどいものであったなら、もしかしたら咲来ちゃんも死の直前に同じ思いを抱いていたかもしれませんよね?口の中に内臓の触感や味が感じられ、そこに深い絶望感を抱きながら死んでいったのかも…。それなら、漬物に関するエピソードが女性を中心に展開されていくことにも説明がつきそうです」

編集部「なるほど…。つまりこれらに関連するエピソード群は、矢野氏とその娘である咲来ちゃんを中心に展開されていると…。確かに、それならいけそうです」


管理人「あともうひとつ、交差点に関する話ですね。先ほど話にあった、真中さんが資料を流出させたっていう…」

編集部「そうですね。それに関してもぜひお考えをお聞かせください」

管理人「私のサイトに寄せられた投稿エピソード①、これって加奈ちゃんのひき逃げ事件に関連しているとは思えませんか?」

編集部「と、言いますと?」

管理人「このひき逃げ事件の記事を見て思ったのですが、発見された加奈ちゃんの両親の遺書を見るに、二人は事故に遭ってケガを負った加奈ちゃんを見て見ぬふりをした通行人たちの事を非常に恨んでいるように思われます」

編集部「そうですね、当時もその点が非常に話題となりました」

管理人「で、投稿エピソード①で出てきた例のメール。あのメールの文面は、「気づいていたか?」だけでした。それになんらかの返事をすれば軽いけが、スルーすれば不気味な最期を遂げることになったわけですが、これって…」

編集部「…なるほど、管理人様がご自身のサイト上で考察されておられた通り、あのメールは”無関心”な人間をあぶりだすためのメールであったと…?」

管理人「両親がその事を恨みながら死んでいったのなら、有りうる話かと…」

編集部「ならもしかしたら、加奈ちゃんの事故原因である”ながらスマホ”も両親は激しく憎悪していたのではないですか?これはもしかしたら…」

管理人「…謎のカウンター…」

編集部「既定の数を超えると死を迎えるというあのカウンター、あれはもしかして、”ながらスマホ”の回数をカウントしていたのでは?」

管理人「であるなら…。設定された既定の数とは、加奈ちゃんをひいたドライバーがながらスマホを行った回数がその上限…?」

編集部「……!」

管理人「いけそうです……いけそうですよこれ!多少強引な推理ですけれど、これなら辻褄がはっきり合いそうです!読者の皆さんも面白がってくれることでしょう!」

編集部「お、面白いかどうかは別にして…。少しずつ真実に近づいているような気がします。あの交差点でひかれて死亡するのは交差点から遠くに住む人が多いと例の内部資料には記載されていましたから、上限を迎えた人があの交差点に集められたってことなんでしょうか…?」

管理人「たぶん……。しかし分からないのは、北大正交差点で事故者の前に現れるナンバー33の白い車ですね…。XXさんの話によれば2度とも同じ車だったそうですから、ここで事故に遭った他の方もおそらく同じ車にひかれている可能性があります。ただ、加奈ちゃんを引いた車は黒い車なんですよね…。そこがどうにも腑に落ちない…」

編集部「あぁそうだ!ついさっきの事なんですが、編集部の方でその車に関する新しい情報が判明したんです!みんなで当時の新聞記事やネットニュースをしらみつぶしに調べてみたら、見つかったんですよ!」

管理人「見つかった、とは?」

編集部「覚えておられますか?加奈ちゃんのご両親は自分たちの所有する車の中で練炭自殺を行ったんです」

管理人「ええ、当時の記事で見ました」

編集部「…自殺に使われたその車、色が白だったんだそうです。しかもナンバーは【○○/な/1433】。…どう思われますか…?」

管理人「…じゃあ、あの交差点で人をひいていたのは…」

編集部「……」

管理人「……」

編集部「…今日はここまでにしておきますか?」

管理人「そうですね…。頭がパンクしてしまいそうですし…」

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