188.ねっとりと甘い

 口の中がもそもそする、レオンは半分ほどで食べるのをやめた。おやつの量としてはちょうどいい。それ以上食べたら、夕飯が入らないもの。残った半分を、ヘンリック様が食べ始めた。


「こうするのよ」


 得意げにユリアーナに教えられ、素直にバターを載せて味わう。気に入ったのか、残っていた芋に手を伸ばし、割ってバター載せを作り始めた。


「アマーリアもどうだ?」


「頂きます」


 ふわりと甘い湯気の立つ芋を齧り、甘さに驚く。実家で焼いた芋はこんなに甘くなかったわ。マーサに尋ねると、一度蒸して焼けば甘くなるとか。私やヘンリック様が食べているのをみて、レオンが「ちょーらい」と手を伸ばした。人が食べていると美味しそうに見えるのよね。


 芋の中央に近い部分を一口に割り、溶かしバターを塗して口に入れる。気に入った様子のレオンは、両手で頬を押さえて美味しいと示す。ほっぺが落ちちゃうって教えたら、本当に落ちると信じたみたい。可愛いわ。


 じっと見つめるヘンリック様に、イタズラ心が湧いた。同じように一口に割った芋にバターをつけて、差し出す仕草をする。素直に口を開けたヘンリック様に食べさせ……指がぬるりと舐められた。引こうとした指先を丁寧に舐め、バターをすべて拭う。


 驚きすぎて、反対の手で持つ芋が傾いた。バターがぽたりと膝に落ちる。


「え、あ……えぇえ?」


 なんとも言えない間抜けな声が漏れ、マーサの手がさっとバターを回収する。見守っていたリリーが汚れを拭った。その間も混乱した私は、妙な声をあげ続ける。


「美味しかった」


 平然と告げるヘンリック様に、ベルントが大きく頷く。私と目が合った途端、逸らされたけれど。誰がこんな入知恵したのよ。


「お、粗末様……でした?」


 思わず漏れた言葉に、ヘンリック様は満面の笑みを浮かべる。元が整いすぎた顔は、笑みを浮かべるだけで見惚れた。それが満面の笑みで、私には眩しすぎる。


「おかぁしゃま、ぼくの、は?」


 もっとお芋を食べる。催促されて、舐められた指先で芋を割った。バターをつけて口に運んだ。にこにこ笑うレオンは、ヘンリック様によく似ているわ。もし将来……同じように令嬢へ笑いかけたら。絶対に惚れられちゃうわね。


 どきどきしながら、レオンに食べさせた私に、ヘンリック様が口を開ける。反射的に食べさせながら、またねっとりと指を舐める夫を見つめた。


 これは犬、毛並みのいい大型犬よ。少し躾が甘い大きな黒い犬……うん、平気そう。


 平常心を保とうと、繰り返し暗示をかけた。絨毯に座るヘンリック様は満足げだ。毛繕いでもしそうなご機嫌さに、もしかして犬ではなくて猫かも? と現実逃避した。指を舐めないよう、教えるべきかしら。

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