160.音楽隊がやってくる

 お父様やエルヴィンは双子に文字を教え、その隣で私はレオンと絵を描く。街に音楽隊が来たと連絡があり、演奏会が開かれるらしい。管理人夫婦によれば、ほぼ毎年立ち寄るのだとか。街の住人達のよい息抜きになっていそうね。


「どんな音楽かな」


「私、古典音楽は嫌い」


「管理人さんに聞いたらわかるんじゃね?」


 楽しみだと話を盛り上げるエルヴィンに、双子の返し方ときたら。もう! ユリアーナはまず好き嫌いを口にしたけれど、好きはともかく嫌いを表明するのはやめた方がいいわ。喧嘩になる可能性があるもの。


 ユリアンは内容は問題ないけれど、口調がダメよ。貧乏伯爵家の次男であっても、どこかの貴族家に勤めたり婿に入ったりする可能性があるわ。そんな言葉遣いでは、誰も雇ってくれないわよ。


 ぴしっと言い聞かせる横で、お父様が「まったくだ」と同意した。


「お父様も同じです。きちんとご自分の言葉で叱ってください。父親なのですよ!」


「すまない」


 しょんぼりしないで。悪いことを言ったみたいになったわ。叱る役から逃げるお父様に、やれやれと苦笑いする。そこへレオンが声を上げた。


「おかぁしゃま、じぃじはだめ?」


「今のはダメね。でも普段はいいじぃじでしょう?」


「うん」


「じゃあ、レオンはいいじぃじを覚えていてね」


 元気に手を挙げて「はい」と返事をする。風邪をひかないよう、しっかり防寒してから出発した。勉強も一段落したし、街の中で食事をする予定よ。私が歩けないこともあり、馬車数台に分かれて出発した。もちろん、車椅子も運んでもらう。


 街の中は賑わい、まるでお祭りのようだった。毎年こんな感じのようだ。各店舗や家の前には造花が飾られ、鮮やかな衣服に身を包んだ人々が集まっている。演奏会は屋内ではなく、街の広場で行われるのが通例だった。


 石畳の道に到着したところで、馬車から降りる。ヘンリック様に抱えられ、車椅子に移動した。押すのは侍女リリーの仕事だが、今日はヘンリック様が代わるらしい。レオンも駆け寄り、一緒に押すと言い出した。


 危なくないかしら……。


「レオンはアマーリアの手を握って、支えてやるのが仕事だ」


「し、ご、と? ぼくもしぎょ、とする!」


 区切らないと崩れちゃうのね。いつもの癖を見つけて、口元を緩めた。この可愛い言葉遣い、直したい義務感よりこのままにしたい思いが強いのよね。


「では、お願いできる? レオン」


 右手を差し出せば、にこにことその手を繋いだ。隣を堂々と歩く姿は、立派なエスコートの紳士よ。少し先から、楽器の音が聞こえる、まだ調整段階のようで、雑音に近かった。近づくにつれて、レオンの目が輝きだす。音の出どころが楽器だと気付いたのね。


 街の人が気を利かせて、正面より少し左側の一角を譲ってくれた。お礼を言って、リリー経由でお店へ買い出しに出てもらう。お祭り騒ぎなら、このくらいの支出は必要よね。


 スパイスたっぷりのホットワインに、蜂蜜を垂らして。甘くて温かい飲み物を振る舞った。当然、私達も頂いたわ。とても温まるし、可愛い天使がはふっと言いながら口をつける姿に癒されたの。

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