158.我が侭な猫は誰かに似てる

 夜、レオンを寝かしつけてから尋ねたら、あっさりと教えてくれた。王妃殿下から今後のご相談ですって。仕事が滞って大変なのかしら。


「いや、王妃殿下が瑣末ごとを片付ける過程で、少し相談されているだけだ」


 政に関わってきたマルレーネ様だから、ヘンリック様と難しい話をしたのかも。なるほどと納得し、横になった。手を貸してくれたヘンリック様にお礼を伝え、深呼吸する。うとうとし始めたところで、レオンが体の向きを変えた。


 寝返りを打ったレオンが腕の中に転がり込む。自然と抱き込む形になり、温もりに表情が和らいだ。そこへ新しい温もりが加わる。ヘンリック様の手、大きくて温かいわ。レオンごと抱きしめられ、でも引き寄せる動きはなかった。心地よさに包まれながら、眠りの底へ落ちていく。


 夢の中で何かに追われ、忙しく立ち回った気がする。ぐっすり眠れたのに、夢見が悪い印象は残った。


「おはよう、アマーリア」


「おはようございます……あら、レオンは?」


 間に眠るはずのレオンが見当たらない。抜け出したのかしら? 首を傾げて身を起こす。このくらいは自分一人でこなせるようになった。車椅子への移動や、立ち上がる際は手を借りるけれど。ベッドに座った私の目に、何かと遊ぶレオンが映る。


「あれは……」


「迷い猫だ」


 子猫ではなく、ぽっちゃりした大型の猫だった。野良ではないのか、毛並みはいいし太っている。しっかり食事をもらっている証拠だろう。


「どこの子かしらね」


 飼い主がいる猫なら、確かに迷い猫だ。入り込んだ猫は、やがて元の家に帰る。少しの間ならレオンの遊び相手になってくれるかも。レオンは寝着のまま、小さな手で猫を撫でていた。慣れているのか、猫に嫌がる様子はない。


 まるで部屋の主人のように堂々と振る舞う猫は、茶トラ模様だった。寝転がって腹を撫でさせ、一回転して頭や背中も撫でろと訴える。あの我が侭な感じ、誰かに似ているわ。脳裏に浮かんだ人物を、口に出せば不敬になるだろう。口を噤んでも、頬が緩んだ。


「レオン、おはよう」


「おかぁしゃま、ねこしゃん」


 だいぶ流暢に喋るようになったわ。あとは言葉を繋いで文章にできたら完璧ね。


 んにゃぁ。撫でる手が止まったのが不満なのか、猫は大きな声を出した。きょとんとしたレオンは、すぐに笑顔で猫に向き合う。


「あのね、おかぁしゃまのとこ、いっ、しょ……いこ?」


 私のところへ行こうと誘うが、猫に通じるはずもなく。あふっと大きな欠伸をした猫は丸くなる。


「猫さんは眠いのよ。レオンだけ来てくれる?」


「うん」


 ところでこの猫、どうやって部屋に入ったの? 寝起きの時間で侍女もいないのに。首を傾げる私に、レオンが教えてくれた。トイレに行った帰りに音がして、こっそり扉を開けたそうよ。テラスに続く扉を開いたせいで、猫が入り込んだ。


 ここ数日寒さが増したから、暖かい家で休んでいくつもりね? したたかな猫の背中は、寝息で大きく揺れていた。

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