99.秘密の共有は仲良しの証

 夕食の時間に判明したのは、双子の荷造りが終わらなかったこと。結局、明日の昼間まで延期となった。夕食後に絨毯の部屋で寛ぎ、実家の家族だけ先に退室する。待っていたように、レオンがヘンリック様の手を引いた。


「ここ」


 来てと訴える幼子に首を傾げながら、ヘンリック様が続く。窓辺のカーテンの陰に連れてきて、ちらりと私を見た。大丈夫よ、隠れてるわ……レオンはね。ヘンリック様が大きくはみ出しているけれど、そこは見ないフリをする。


 部屋にいるリリーとフランクも、さりげなく視線を逸らした。フランクはポットを磨き始めるし、リリーは壁際の棚を片付ける。二人ともわざとらしいけれど、レオンは満足そうだった。ごろんと寝転び、同じことをしてと促す。


「こう、か?」


 素直に寝転んだヘンリック様は、体のほとんどがはみ出していた。頭と肩のあたりだけ、すっぽりとカーテンの内側だ。


「あのね、ここ……ひみちゅなの。きれぇ」


 空を指さしたのか、ヘンリック様が窓の外へ向く。首だけ動かしてもいいのに、全身で動いたので私も窓の外へ目を向けた。今日は星が輝く明るい夜だ。さきほどレオンはそのことに気づいて大喜びだった。


 魔女の絵本に、星は願い事を聞いてくれるとあったから、余計にはしゃいでいるのだろう。迷信もまだ真実になる幼い頃の、温かな思い出になるはず。


「本当に綺麗だ。ありがとう」


 見せてくれたことにお礼を口にした。驚いた私の手からカップが落ちそうになり、リリーがそっと支える。が、彼女も驚き過ぎてカーテンを凝視していた。


「リリー、バレちゃうわ」


 こそっと小声で注意し、二人でひっそり笑い合った。ワゴンのある壁際に戻るリリーを目で追えば、フランクがハンカチで目元を覆っていた。軽く添えて拭く程度じゃなく、両目をがっちり覆う形だ。よほど嬉しかったのね。


 親子の交流がこんなに目と心に刺さると思わなかったわ。微笑ましい気持ちで見守り、ヘンリック様が戻ろうと動く所作で向きを変える。見ていなかったと示すため、近くにあった本を広げた。


「おかしゃま。ぼくに、よんで」


 だいぶ言葉が上達してきたレオンは、無邪気に強請る。その言葉で気づかされた。誤魔化すために手に取ったのは、昼間の絵本だ。悪い魔女が改心して良い魔女になるお話。しかも私ったら、焦って逆さまに開いていたみたい。


 軽く咳払いをして、本を畳む。それからくるりと回して開き直した。一番最初のページからよ。


 慣れた読み聞かせを始めると、レオンは絨毯に寝転がって楽しむ。ページを捲ったら、絵を覗くために近づいた。半分も読む頃には、膝の上に頭を乗せて聞いている。横向きに膝へ寝転がるから、絵本が見えるよう向きを直した。


 後ろに座ったヘンリック様が、無言だった。ちらりと視線を向ければ、真剣な顔で絵本を見つめる。ご両親の話はほとんど話さないヘンリック様。でも絵本を読んでもらえる環境じゃなかったのは、私も知っていた。


 幼い頃のヘンリック様にも届くように。そう願いながら、最後まで丁寧に読んだ。

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