75.お茶会のお誘いがありました
一家団欒も形になってきて、自然に絨毯の部屋へ移動する。それぞれの話をしながら、互いに笑い合って、用意されたお茶を楽しむ。実家で暮らしていた生活を持ち込んだようで、とても落ち着いた。可愛いレオンがいるから、さらに幸せが増したかも。
「旦那様、奥様。王室よりお茶会への招待状が届いております」
文官の一人が、奥様の焼いたお菓子を差し入れてくれた。お礼は何がいいだろうか。人間関係が良好そうでよかったわ。そんな話が一段落したところで、フランクがそっと封筒を差し出す。
朝は迎えがあるヘンリック様の時間がないし、夜の団欒でないと私達が二人揃わない。タイミングを見計らって出された封筒は、王室の封蝋が押されていた。家令の権限で開封して中身を確認したのは、手紙ではなく招待状だったからね。
受け取って目を通したヘンリック様は、眉を寄せて考え込む。二人の間で積み木で遊ぶレオンは、無邪気に作品を披露した。お家かしら? レオンは嬉しそうに説明を始めた。馬小屋なのね。決めつけなくてよかったわ。
たくさん褒めて、ヘンリック様に向き直る。レオンは双子と遊び始め、エルヴィンが上手に誘導して遊ぶ位置を変えた。
「ヘンリック様?」
「あ、ああ。すまない。これなんだが……」
声に「行きたくない」と滲ませ、ヘンリック様は招待状を見せた。渡された紙は厚みがあって、縁に銀の飾りが美しい。王室の紋章も型押しされた立派なカードだった。
三つある公爵家を集めて、お茶会? これは王家からのお誘いだから、公式行事よね。断る選択肢はないように思われた。なぜ嫌そうな顔をするのかしら。首を傾げたが、下の方の注意書きに私の表情が曇った。
レオンを連れて参加ですって?
「まだ早いと思いますわ」
「俺もそう思う」
固有名詞を出さずに、レオンの頭の上で会話を進める。もし呼んでしまったら、反応しちゃうもの。
「断れるのですか?」
「無理だろう」
ヘンリック様は唸るように絞り出した。渋々の答えは、彼が息子のことを思っての発言だった。そんな状況じゃないのに、ちょっと嬉しい。以前なら連れていくぞ、の一言で終わったでしょうね。
「困りましたね」
二人でレオンに視線を向ける。人前に出せない恥ずかしさはない。ただ、まだ人慣れしていない幼子を、社交の場に連れ出すことに躊躇いがあった。この経験が悪い方へ働いたら、次から拒否する可能性もある。
「私がレオンと一緒にいて離れなくていいよう、少し小細工をしましょうか」
にっこり笑って、提案した。まず衣装を全員お揃いにする。これで家族仲が良好であると周知し、私が常にレオンの隣にいる理由を作るの。継母でもレオンがお揃いの服で、べったり懐いていたら悪評も立てにくいはず。
「……そこまで悪意はないと思うが」
「お揃いの衣装は嫌ですか? 家族らしくて素敵かと思いましたのよ」
「そうか、俺もか」
ええ、結婚式で旦那様に放置された妻。そちらも悪い噂の温床になりますわ。指摘されて気付いたヘンリック様は、フランクに仕立て屋を呼ぶよう命じた。
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