21.美味しいものは少しだけ
もぐもぐと口を閉じて咀嚼するレオンが、顔を上げて口を開ける。食べ終わった雛鳥みたいね。バランスよく準備したサラダを運んだ。小さなレタスとミニトマト、生ハムで巻いておいたわ。口にぽんと入ったトマトに苦戦する姿に、大きすぎたかと心配になる。
「レオン、苦しかったら出してもいいのよ」
「んんん」
平気みたい。ゆっくり大きく口を動かし、ごくりと喉が動いた。ほっとする。次からはミニトマトも半分にカットしましょう。子供のうちは誤嚥も多いから。
「お姉様、これ美味しいわ」
「薄いけどうまい」
双子が目を輝かせて絶賛するのは、生ハムだった。貧乏な我が家では出たことない食べ物よね。普通のハムは保存食として食べたけれど、透き通った生ハムに感動している。
「奥様、もう少しご用意しましょうか」
気を利かせてベルントが提案すると、双子は目を輝かせた。でも私は笑顔で首を横に振った。
「いいえ。美味しいものは分け合って少しずつ頂くの。我が家の方針です」
貧乏だった頃の心構えの一つね。独り占めしないで、皆で分けるの意味が強かったけれど。がっかりした双子に、きちんと説明した。
「これは旦那様が稼いだ公爵家のお金で買った生ハムよ。これからお父様が働いてお金を稼ぐから、そのお金で買ってもらうなら何も言わないわ」
公爵夫人として割り当てられたお金は、私の自由に使える。それも旦那様が稼いでいるの。豪遊していいわけじゃないのよ。言い聞かせれば理解できる年齢の二人は、こくんと頷いた。
ベルントが驚いた顔で私を見るけれど、何か変なこと言ったかしら?
「おかぁ、さま……あーん」
くいっと袖を引っ張るレオンに、今度は小さく切った鶏肉を与える。まだたくさんは食べられないから、少しずつバランスよく食べないと。幸いにして好き嫌いはなさそう。
豆のスープを染み込ませたパンも食べさせ、レオンの様子を窺う。お腹が満ちてきたのか、口を開けるペースが遅くなった。これが合図ね。満腹の手前で終わりにしましょう。
「レオン、もう少ししたら果物を食べるわ。ご飯はもう終わりね」
「うん」
素直に頷いたレオンは、ほんのり膨らんだお腹を撫でる。小さい頃って、食べた分だけお腹が膨らむわよね。でもすぐにペタンと平らになるの。
まだ食事にさほど興味のないレオンのため、大皿で並べるよう指示している。今までは二人だったので少なかったが、これからはこの量が並ぶのね。食べ盛りの男の子がいるから、多めに用意してくれたみたい。
お父様の説明通り、頑張ってカトラリーで食べる三人は、記憶の中より食べるペースが遅かった。早食いは体に良くないから、丁度いいわ。
「ご馳走様でした。美味しかったです」
大人ぶった妹ユリアーナが、控える侍女にお礼を言った。続いて満足したユリアンも挨拶をする。父がカトラリーを皿に並べてベルントに声をかけ、最後まで食べていたエルヴィンがナプキンを置いた。
「では居間へ移動するわ」
この一言で、ぞろぞろと別の部屋に移動する。レオンと二人の時は使っていない居間だけど、これから大活躍しそう。分厚い絨毯が敷かれ、ソファーがいくつも用意された部屋は広かった。
抱っこしてきたレオンを下ろし、靴を脱がせてしまう。すでに入り口では、エルヴィンの指示で双子も靴を脱いでいた。
「奥様、なぜ……靴を?」
「ふふっ、この部屋は土足禁止にします。よろしくね」
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