全て上手くいく
人子ルネ
第1話 どうにかなれ
どうにかなってくれと思い続けて、もう半年が経った。未だに人生の見通しはついていない。慢性的に風邪のような気怠さだけが体に纏わりついて、僕の体は水の中のように重い。
何をするのにも、何十倍の元気が必要で、人間として最低限の生活をするだけで、元気が底を尽きる。体力がないわけではない。体力を運用するための元気がないのだ。
働いて、飯を食って、風呂入って、歯磨いて、排泄したら一日が終わっている。その癖、寝るまでの間も有意義に使えていないのだから、タチが悪い。
「あぁ、」
また、朝が始まってしまった。可能性が閉ざされた古臭い朝が来た。目的もなく動き続ける向上心のない時計の針を見ると、いつもと変わらない朝を示している。
起きたら現実が始まってしまう気がして、体が動かない。と言うよりも動かしたくない。少し気合いを入れるだけで解決する問題だが、その気合いを入れるだけで元気がどっと持っていかれる。八方塞がりだ。
もう、こんな人生は嫌だ。だけど、死ぬ勇気はない。ただ、惰性でダラダラと人生を遅延している。思ってみれば、僕が死ぬタイミングなんていくらでもあった。人生が歪んでいると自覚した駅のホーム、全てを失った日の窓際。あの時に、道路際で一歩踏み出していれば、この責め苦の万華鏡から抜け出すことが出来ていたのだ。
「あ〜」
眠い、思考が落ちていく。最悪のフラクタルに突入している。これ以上、考え続けても悪い方にしか行かないことはわかっているが、止められるほど強い理性は持っていない。徹底的に何も持っていない。
枕元に転がっていたタブレットを手に取った。最後に開いていた作画アプリを開かれて、描きかけの漫画が表示された。この漫画を完成させる気力もない。
どれだけ漫画を頑張っても、どれだけ趣向を凝らしても、賞を取ることすら出来ない。自惚れだけで、箸にも棒にもかからない作品を作れるほど、僕は強くない。
何もかもが上手くいかない。漫画も、生活も、就職も、恋愛も、何もかも、全てが、人生が、上手くいかない。
「バイト休もう」
もちろんバイトも上手くいかない。何にもない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます