第10話 ほとんどの席が埋まり、照明が落ちます。

 ほとんどの席が埋まり、照明が落ちます。照明はロウソクで、係の方が一つずつ蓋を被せて消していっているのが見えます。どんどんと薄暗くなり、それにあわせて客席のざわめきも減っていきます。

 緞帳は降りたまま。

 客席の最前列を占めている楽団の指揮者の手がすい、と上がりました。


 それは、開幕の音楽ではありませんでした。

 劇場や劇団によっては、自分たちの楽曲を持っています。それを開幕の合図にしているのです。

 ヨエンパロ劇場もヒュリライネン歌劇団も開幕の合図たる楽曲を持っていたはずなのですが。

 流れたのは、それではなく。


あなたを愛しています

あなたを愛していました

あなたを愛してしまいました

この想いに名前を付けてはならないと

この想いは秘めて殺さなければならないと

そう思っていた私を愛してくれたのもあなたでした

あなた

あなた

わたくしのあなた


あなたの大切な人を愛してしまったわたくしを

愛してくれた愛しいあなた

あなた

あなた

わたくしの愛しい棘ある赤き薔薇


わたくしは

あなたを


 それはいきなりの、看板女優エイヤの独唱でした。

 それは発表されている詩集の中身とは少し違い、いえわたくしもすべての舞台を拝見しているわけではないのですけれど。この独唱は書き下ろされたものだと思われるのです。

 ああ、新作、なのですね。


 描かれた物語は、これまでと同じです。すでに描かれて長く経っているのですから、逸脱するのは野暮というもの。そういうのは新規作品でお願いいたします。それはそれで伺いますので。

 けれど今作は、愛は愛でも、アーダとアーダの愛しい赤い薔薇、ヒルダ様のお話のようです。そういえばあまり、このお二人の主従愛について語られることはなかったように記憶しています。

 舞台は、間に休憩を挟んでの二部構成でした。第一部はさらっとアーダとヒルダの関係性が描かれました。

 アーダはヒルダの遠縁で、両親が流行り病で亡くなったのをきっかけに、アーダの母親がヒルダの乳母だったことを縁として、ヒルダの家に引き取られたのです。ヒルダの両親は、アーダを侍女にとは思っておらず、ヒルダの友人に、と思っていたのですが。アーダが自分の意思で、ヒルダの侍女となりました。

 もちろん、二人は両親の期待通りに友人関係も維持しておりました。

 第一部のクライマックスは、ヒルダに縁談が来たこと。そしてその、初めて二人が会うシーンでした。

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