第4話 すぐそこにある実家に、
すぐそこにある実家に、夜会用のドレスを手配して欲しいと手紙を出しました。当日はフィルップラ侯爵家の皆様に、夜会に向けて体を磨かれ、軽食を取って着付けをいたします。
ダーヴィド様は昨日出仕した際、お父様に会われたと夕食の席で教えて下さった。今のところ、毎日一緒に夕食は取れている。いえまだ二日目ですけれどね。
ダーヴィド様はお父様にお会いした際に、わたくしを夜会でエスコートすることと、お母様が一人になってしまうことをお伝えくださったそう。
久しぶりにお父様がお母様をエスコートすることになり、お母様から喜びにあふれたカードが今朝届きました。後でダーヴィド様にはお礼をお伝えしなければね。
それとも夜会で、お母様がご自身でお礼をお伝えになるのかしら。いいえ、わたくしも言っても問題はないわね。
今日袖を通すドレスも、ヨハンナお姉さまがデザインされたドレス。一昨日こちらに伺った時にメイドたちが盛り上がっていたのと同じ染料で作ってあるけれど、ドレスの方は胸元は白に近い青、足元が黒いような青に染められています。十七歳のわたくしには少し大人っぽいデザインだと思うのですけれど、ユリアをはじめメイドたちは似合っていると言ってくれたので、それを信じるのみです。
「お任せください。髪型とお化粧でどうとでもできます」
「そう? ならお任せするわね」
フィルップラ侯爵家には、女児はいません。ダーヴィド様のお母さまくらいしか女性はおらず、それも今は領地にいらっしゃるから、わたくしを着飾れるのがとても楽しいそう。喜んでいただけているのなら、悪い気はしないものです。
ヨハンナお姉さまの贈ってくださったドレスも、どうやら彼女たちを奮起させる一因になっている様子。ありがたいことだわ。
そうして整えてもらうと、ユリアがハッリにわたくしの準備が出来たことを伝えてにいってくれた。
ダーヴィド様のご準備は恐らくすでに整っていて、あとは出発するのみになっていることと思います。
ダーヴィド様にエスコートされ、フィルップラ侯爵家の馬車で王城へと向かいます。我が家からもそれほど遠いとは感じなかったけれど、侯爵家からだと本当に近いのね、というのが感想です。
本日の夜会はクリスタ第二王女様主催のもので、それほど多くの貴族に招待状が配られてはいません。
第二王女殿下はわたくしより年下で、これは、完全に社交のシーズンが始まる前の、練習。だから大体若くて同じように練習が必要な世代か、陛下に親しい家の人のみが呼ばれております。
それでも、わたくしの実家で執り行う夜会の規模よりは大きいのですけれど。
「ダーヴィド様」
「ビルギッタ嬢、どうされました?」
ダーヴィド様にエスコートされて、会場内へ。わたくしとダーヴィド様を見て驚く人々に、笑顔を返しているところです。
「わたくし、まだ夜会の主催をしたことがないのですけれど」
「はい」
「フィルップラ侯爵家の夜会の規模は、どのようなものかしら?」
お母様やお姉さま方が夜会やお茶会を主宰するのを見ておりますし、そのお手伝いもしておりますから、おそらく自分でも主催は出来ると思います。練習はしたいですけれど。
けれどそれは、伯爵家の規模のお話。正直、侯爵家に嫁ぐ予定はありませんでしたので、想定もしておりませんでした。お茶会ももしかして、わたくしが思っているよりも規模が大きいのでは?
「どうだろうか。その辺り私は詳しくなくて」
事実、夜会やお茶会などを取り仕切るのは女主人の仕事であり、ダーヴィド様はいまだフィルップラ侯爵家のご子息にすぎませんから、規模を聞かれても困ってしまうでしょう。
「披露目の式には母が来るから、婚約期間中に習い覚えてもらうことになるかと」
「そうなりますわよねぇ……」
でもできれば、今日のこの夜会と比べて規模の違いを教えていただきたかったのです。だってほら、わたくしには心の準備というものが必要なのですもの。
主催されているクリスタ第二王女殿下にご挨拶を。やはり緊張されている面持ちでした。彼女の場合は少なくてこの程度。伯爵家にもしも降嫁されるならとても気楽になるでしょうけれど、近隣の王家に嫁がれるのでしたら、この程度できなくてはいけない規模でしょうし。
いえ、比較対象は以前に参加したことのある王城での夜会ですから、なんとなく、なのですけれど。
それからにこにこというよりはにやにやと表現したくなってしまうような表情の陛下に軽く会釈をする。わたくしからお声がけをすることは出来ませんので、仕方ありません。いえ別に、知り合いのおじ様に対して、ちょっと視線が冷たかったかな、とか思っておりませんわ。
王妃様が陛下を見る視線は、ちょっと冷たいようでしたけれど。わたくしよく存じ上げませんわ。
お母様と王妃様がお友達、というだけですもの。
その後は、わたくしの両親とご挨拶。お父様もお母様も表向きはいつも通りの笑顔ですけれど。
「お父様、お母様がこんなに喜んでいるのですから、これからももうちょっとはエスコートして差し上げてくださいな」
「そうだな」
社交の場ではありますけれど、会話の相手がわたくしだから、言葉は少なく。それでも、二人との仲睦まじいご様子なのが喜ばしいところです。
その後は、王太子殿下の側近の皆様にご挨拶をする予定でしたが、まだわたくしは婚約者に決定をしていないため、わたくしは両親のもとに残り、ダーヴィド様お一人で挨拶に向かわれました。
「ビルギッタ、説明を!」
「ええ、ええ。どうしてそうなったのか教えて頂戴! お手紙は読みましたけれど!!」
ダーヴィド様がわたくしから離れたのを見て、ご友人のフローラ様とヘイディ様がわたくしの所に訪れました。お父様とお母様にご挨拶をして、それから笑顔でわたくしを壁際にある立食コーナーへと引きずっていきます。
傍目には、仲良く甘味を摘まもうとしているように見えるでしょう。
いくつかのケーキをサーブしてもらって、本題です。お気持ちはよくわかりますわ。わたくしでもきっと同じようにしたことでしょうし。
アルコール度数が少なめのシャンパンを片手に、壁の花になります。
「わたくしも混ぜてくださいな!」
そこに飛び入り参加されるのは、主催のクリスタ第二王女殿下。そこまでとても親しいお友達ではありませんけれど、お茶会にお呼ばれすることもありますし、今日の夜会にも呼ばれる程度の友人ではあります。
「殿下、何かお父様かお兄様からお伺いでは?」
「いいえ、なにも」
きらきらとしたお目々で、お三方がわたくしを見てきます。そんなに見られましても。
「本当に、お手紙に書いただけですわ。お父様から急に、王命で婚約するように、と」
あの日の夜の事は、フローラ様とヘイディ様にはお手紙でお伝えしてあります。お茶会の予定はありませんでしたけれど、お借りしていたご本を返却する必要がありましたので。
クリスタ第二王女殿下からは現在何かをお借りしてもいないし、普段からお手紙のやり取りも発生していないし、そもそも本日の夜会を主宰する準備があるだろうからと、お手紙を書いてはいません。
それこそフローラ様が問いかけたように、陛下や王太子殿下から何かを伺っているかもしれませんでしたし。
「お父様からの命令なのよね?」
クリスタ殿下もアルコール度数が少なめのシャンパンを受け取られます。それから、一口サイズのケーキを指定してサーブされました。レモンを使ったプチケーキは料理長の新作でとてもおすすめなのだと伺ったから、わたくしたちもそれをサーブしてもらいます。
「ええ、父からはそう伺っております。これから一週間フィルップラ侯爵邸でお見合いがてら暮らしまして、双方特に問題がなければ、お披露目のお式となるそうですわ」
一番の大問題は、現在のフィルップラ侯爵邸に侯爵ご夫妻がいらっしゃらない点だとわたくしは思っているのですけれど。
「今のところはどうですの?」
「お忙しい方ですけれど、毎日朝食と夕食を共にしよう、と、あちらからご提案いただきましたわ。今のところ守られております」
「それは今のところ、になるわね」
「二日ですものね」
ふふ、と四人で笑いあう。
恋愛結婚をしても、政略結婚であっても、そこに愛があってもなくても、いずれともに出来ない日は来るものですもの。それは、そう。
「でもこの二日は守ってくださるなんて、愛を感じますわ!」
「そうかしら?」
「恋愛の愛ではないかもしれませんけれど、自ら言い出して即反故にする男もおりますわ。うちの父なのですけれど」
「確かにそれと比べれば愛されてますわね」
「尊重する形の愛もいいのですわ」
「何のお話をなさってるの? 混ぜて下さらない?」
クリスタ王女殿下のお茶会に、よく参加されるご令嬢方がわたくしたちの輪に入って参ります。一人増え、二人増え、わたくしがダーヴィド様にエスコートされて入場した件について聞かれて答えて。
気が付けば、壁の花は一大勢力になっていて、その外側を男性陣が取り囲むほどになっておりました。
その中央付近にクリスタ第二王女殿下がいらっしゃるのは、いけないのでは?
ダンスの時間になって解散するまで、皆で語り合ってしまいました。
それをクリスタ第二王女殿下が王妃様から叱責されたかどうかは存じ上げません。
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