第2話 実家であるアハマニエミ伯爵家の子は三姉妹です。

 実家であるアハマニエミ伯爵家の子は三姉妹です。一番上のイーネスお姉さまがガブリエル・ハーカナ様を婿養子にして家を継がれる形になりました。ガブリエル様はお父様の後を継いで国政に携わることはないのだそうだけれど、領地の切り盛りはすでに行ってくださっている。

 下のヨハンナお姉さまもすでにお嫁に行っており、すでにお子様も生まれている。クレメッティ・ヘリスト伯爵子息様の元で、色々と手広くやっていると先日お会いした時にはそれはもう楽しそうに微笑まれた。お姉さまは元々ご商売などにもご興味があったようだから、楽しそうで何よりと、お父様が呟いておりましたっけ。

 アハマニエミ伯爵領は王都からそれほど遠くはありません。ゆったりとした馬車の旅で五日ほど。ヨハンナお姉さまの嫁がれたヘリスト伯爵家も同様で、ゆったりとした馬車の旅で六日ほどの旅程になります。わたくしとダーヴィド様のお披露目のお式にはお姉さまたちも出席していただけるでしょう。だからこその、七日ほどあちらの家に滞在してお見合い、という形なのでしょうけれど。

 荷造り自体はメイドたちが行ってくれるので、わたくしが行うのは私物の整理になります。お披露目のお式の後には自宅に戻ることも出来るでしょうから、すべてを行う必要はないのですけれど。少なくとも、お借りしているご本の類は今のうちに整理して、言づけておかないと。

 王都の屋敷と領地の屋敷で、枕が変わるだけで寝つきが悪くなるから、枕も持って行くようにと指示を出しました。慣れないお家で、眠れないのはとても辛いものがありますもの。

 王都にあるアハマニエミ伯爵邸からフィルップラ侯爵邸は遠くはありません。何かあればすぐに使いを出せる距離であるし、執事のアードルフが言うには使用人なら馬車に乗るより歩く方を選択する距離だと言います。我が家よりは王城に近い位置にあり、通りも少し違う程度なのだそう。

 なので夜会のドレスなどは置いて行くことにしました。三日後に夜会があり、現時点でわたくしは出席予定だけれど、まあ実家に戻ってきて用意をしてもよろしいですし、あちらにドレスを届けさせてもよいのです。アードルフが言うには、それが問題なのない距離なのですって。


 そうして準備を整え、お父様から婚約のお話をいただいた翌日のお昼には、わたくしは慣れ親しんだアハマニエミ家の屋敷を離れ、フィルップラ侯爵家の門の中におりました。


「ご足労感謝いたします。お迎えに上がれず、申し訳ない」


 屋敷のドアの前で、ダーヴィド様が待っていてくださった。アハマニエミ家の家紋の描かれた馬車のドアを開け、手を差し伸べて下さる。


「お気に病まないでください、ダーヴィド様。わたくし昨夜急にお話を聞いたのですもの、貴方様もお代わりないのでは?」


 ダーヴィド様は王太子殿下の側近で、お父様は陛下の側近である。お話の順も、お父様の方に先に来るでしょう。嫁にやる父親の方に。もしかしたら二人とも先週の内にお話は行っていて、わたくしだけが昨日知ったのかもしれませんけれど。

 ああ、その可能性はありますわね。フィルップラ侯爵家の方でもお部屋の準備などもありますでしょうし。まあでも、お迎えに上がって頂かなかったことをどうこう言うつもりは元々ありませんから、お父様仕込みの笑顔を向けておきます。


「こちらへどうぞ」


 ダーヴィド様にエスコートされて、フィルップラ侯爵家の恐らくは執事だろう男性に案内されて屋敷へと入ります。エントランスは長方形で、メイドや従僕などが並んで出迎えてくれました。今のところわたくしはただの客人ですけれど、もしかしたら将来の女主人になるかもしれません。

 あちらの皆様も、気合が入っているように見えます。


「ビルギッタ嬢のお部屋は二階の客間をご用意いたしました。まずは荷解きをしていただいて」

「はい」


 玄関から入って右側、階段室の方へとエスコートされます。


「今後の事については、その後サロンでお茶を飲みながらお話ししましょう」

「かしこまりました。よろしくお願いいたします」


 階段を上った先、左手に客室がありました。左の奥にはテラスがあり、よい季節の時にはそこでお茶をすることも出来ると部屋に入ってからメイドのユリアに教わりました。

 部屋には大きな窓があり、重たい金糸の刺繍の施されたカーテンが下がっています。わたくしの好みではないですが、実家の客室も似たようなカーテンが下がっていますから、親世代ではこれがスタンダードなのでしょう。

 ベッドカバーも同じ、金糸の刺繍の施された金色の上品な物。

 丸いテーブルのそばにあるソファは似たような色合いではありますがもう少し小花が散っていて愛らしく。


「それではしばらくの間、お世話になります」


 ダーヴィド様の手を放し、軽くスカートのすそを掴んで、お辞儀をいたしました。

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