九十五話 お手紙着いた

 昨日は、よくもまあ遅くまで中身の無いことをぺちゃくちゃと。

 結局、夜の十時くらいまで帰らなかったというね……。


 今日は、九の月一週三日、合格発表は、九の月一週五日だ。

 こちらの世界の合格発表は、驚くほど早い。

 俺の知っている現代とは人口も違うから比較は難しいが、サクサク進んでくれることはありがたい。


 ひとまず、二日の休養日が出来てしまったわけで、どう過ごそうかと考えている。

 このまま部屋にこもっていては、テリアたちがいつ来てしまうか分かったもんじゃない。


 どうするか……。


 音信不通のロディに会いに行くか……いや、去年の今頃ってアレス様が忙しい感じじゃなかったかな? 落ち着いてから、近況報告がてらに行くのが良さそうだ。

 

 だったら、ポルタ……は無理か、俺と同じ九の月は商科学園の試験中だな。


 ウェノさんは、どこに滞在しているか分かんないし……。


 よし、ブルさんたちの宿に行ってみよう!

 場所は知らないが、確か、冒険者組合の近くだったはず。



 早速準備して、宿を出ようとしたところ、受付のおばちゃんに呼び止められた。


「君、イロハ君だったね?」


「はい、そうですが。何かありましたか?」


「これ、今朝届けられたものなんだけど、今渡してもいいかな?」


 手紙? 誰からだろう。


「はい、預かります」


 おばちゃんから、俺宛の手紙を受け取った。

 

 早速、開けてみると……モーセスさんからだ。

 意外な名前に驚いてしまった。

 二枚組か、どれどれ……。

 


 遊戯指南役 イロハ殿へ

 

『突然の手紙で失礼します。遊技場コンコロの森は、無事に九の月一週一日より新装開店しました。開店一日目の夜に、状況をお知らせしたくこの手紙を書いております。結果から言えば、コンコロールという新遊戯が大当たり、初日より大盛況となり、とんでもない売り上げになりそうです。つきましては、ささやかながら企画料を送金しましたので滞在費の足しにでもして下さい』


 おお!

 コンコロール、当たったか。

 よかったー、少し心配ではあったが、この世界でも通用したようだ。

 それにしても、企画料? なーんか、モーセスさんのことだ、裏がありそう……。


 二枚目を見るのが怖い……。


『私は、今後も、お客様を飽きさせない遊戯を提供したいと考えておりますので、是非、近いうちに新たなる遊戯案の話し合いの場を設けたいと考えております。場所は、王都で構いませんので、都合のいい日程をお知らせください。イロハ君のことですから、試験の方は問題ないでしょう、敢えて何も言いません。では、連絡をお待ちしております』

 

 遊戯場『コンコロの森』

 総責任者 モーセス


 

 出たよ。

 やっぱりね、あのモーセスさんが、ただでボーナスをくれるとは思えなかったんだよね。


 新たなる遊戯か、何かサイコロで出来るやつあったかな?

 まあ、試験が終わるまでは何もできんし、返事は合格発表後でもいいだろう。


 じゃ、改めてブルさんの所へ行こう!




 冒険者協会を目指して徒歩で三十分ほど行くと、大通りへ出た。

 確か、この通りをまっすぐに行けば、冒険者協会だったはずだ。


 王都は、碁盤の目のような街の作りになっていて、全てが舗装まではされていない。

 王城という大きな目印があるから、角の建物さえ覚えていたら、だいたいの位置は分かる。

 しかし、便利な現代の記憶がある俺にとっては、どこへ行くにも異常なほど歩くということに……。


 結局、冒険者協会に着いたのは、トクトク亭を出てから約五十分ほどだった。


 協会で聞いたところ、宿の特徴から大きくて比較的価格が安く、夜は食堂が居酒屋風になるという所が怪しいと感じたので、早速お邪魔してみる。


 冒険者協会から徒歩で十分程度の場所にある『ノムノム亭』へ到着。

 中へ入ると、いかにも酒飲みの荒くれ冒険者が泊まる宿っぽい雰囲気を醸し出している。

 

「あのー、こんにちは。こちらに、ブルーシスという冒険者は宿泊していませんか?」


「こんにちは。ごめんね、宿泊客の情報は話せないのよ。もし、探している人が冒険者だったら、夜まで戻ってこないかもしれないわね。夜は、酒の席で盛り上がるけど、子供が来るところじゃないし……」


「そうですか。それじゃあ、お昼の食事をここで取らせてもらいますね。そこで会えなかったら、次の機会にします」


「そうね、もしかしたら、冒険者協会の方が見つかりやすいかもしれないわね」


「後で行ってみます。ありがとうございました」


 さすが王都と言うべきか、個人情報はしっかりと保護されている。

 いや、冒険者って何かとトラブルも多そうだし、面倒事を嫌っている線もあるか。


 ノムノム亭の昼食は、いわゆる焼き系が多くて、焼き豚野菜炒めのようなものを食べて冒険者協会へ再び向かった。


 冒険者協会へ戻り、中をウロウロしてみるが、偶然知り合いに出会うなんて都合のいい展開もない。

 

 こうなったら、冒険者ってやつを調べてみよう!

 まずは、案内所で聞いてみるか。


「すみません、冒険者協会の施設案内をお願いしたいんですけど」


「はい。どういったご要件ですか?」


 うーん、じゃ、冒険者登録から。


「冒険者の登録は、どうすればよいですか?」


「冒険者登録は、隣の建物で行っております。そのまま案内所へお尋ね下さい」


「隣なんだ。では、ここの建物は何をするところですか?」


「こちらの建物は、正式には冒険者協会管理部と言います。主な業務は、冒険者の管理、ソラスオーダーの管理、契約業務などになります」


 なるほど、ブルさんたちは護衛契約があったから最初にこっちへ来たのか。


「分かりました。では、隣の建物の方へ行ってきます。ありがとうございました」




 隣の建物を見ると、確かにゴツい人の出入りが多い気がする。

 まあ、入ってみるか。


 入り口は二つ、西入口から入りすぐ右手前中央が案内所、東入口と挟む形になっている。

 左手が待合室、正面がカウンター、両サイドの壁は、掲示板のような状況。


「あの、すみません。冒険者の登録はどこで行うんでしょうか?」


「はい。冒険者登録は、正面の五番受付で行っております。失礼ですが、あなたの年齢はおいくつでしょうか?」


 年齢か……偽ってもしょうがない。

 

「今年、十歳になります。年齢制限などがあるのでしょうか?」


「はい、ございます。冒険者登録は、十二歳からとなっております。仮登録でも、十一歳からで、同行する冒険者が必要になります」


 二年後からってことね。

 すべての学校で最初の一年は基礎教育が共通だったはずだから、この世界では最短で十二歳から働けることになる。

 そういう意味で十二歳からの登録だろうな。

 仮登録については、なんか偉い人とかのイレギュラーなやつでしょ、どうせ。


「そうなんですね、ありがとうございました。では、知り合いの冒険者を探したい場合はどうすればいいでしょうか?」


「対象の冒険者が、情報の公開を許可していない場合は、こちらでお伝えすることが難しいかと思います。限定公開という形で、親族のみという方もいらっしゃいますが、ご親族様でしょうか?」


 意外と、個人情報はしっかり管理するんだな。

 限定公開ね、考えたくもないけど……まあ、死んだ時とかにはいるよね。


「いえ、違いますね。一度、護衛を引き受けてくれたパーティなんですけど、護衛任務は終了しています。ただ、僕の試験の結果が出るまでは王都にいるという約束をしています」


「そうですか。対象がパーティであれば、過去の契約を理由にお伝えすることはできます。どうしますか?」


 お! パーティなら探してくれるのか。

 うーん、察するに、瑕疵かしなどに必要な措置とも思えるが、いい意味では再指名とかにも使えるしな。


 あれだ、個人事業主を管理している団体ってイメージか?


「お願いします。では、四番受付で対応いたします」




 ふぅ、結構時間がかかってしまった。

 冒険者協会って、かなりしっかりした組織だと思う。

 

 念のためと言いつつ、親や出身なども確認され、契約終了がひと月以内だったこと、契約書内には試験に落ちた際の対応が記載されていた事などがあって、やっと話が進んだという大変さ……。


 四番受付で得た情報によると、パーティ青の盾は、二日前より近くの迷宮までの護衛と低階層の付き添いのような仕事を受けて、今日帰ってくると言う話だった。

 

 時間は分からないから、今日会うことは難しそうだな。

 夜の酒場に行くのもなー。


 ……帰ろうかな。



 ドンッ!


「おいっ! ガキ! 前向いて歩けや! どうしてくれるんだ? 俺の服が汚れてしまったじゃないか!」


 誰とも会えなくて、がっかりしながら冒険者協会を出たところで、ガタイのいい冒険者らしき二人組に絡まれてしまった。

 なにやら、俺とぶつかったことで服が汚れたらしい……。

 俺、汚れていないんですけど。


「ごめんなさい。前を見ていませんでした……すみません」


「はぁ? おい、ガキ。謝るだけじゃ、服の汚れは取れねーぞ!」


 まあ、ごもっとも。

 はぁ、災難や、誰とも会えず、こんな変な奴に絡まれるし……。

 こんなことを考えているうちに、次々と反抗的なワードが浮かんでしまう……いや、今はダメだ、安全マージンが確保できていない。

 

「……そんなこと言われても、謝るしかできません」


「ほう、悪いって気持ちはあるんだな? 親はどこにいるんだ?」


 ふぅ、なんでこんなのばっかりなんだろう、親切な人を引き当てる確率が低すぎると思うんだよ。


「親は、南の方にいます」


「南? ということは、シンデリ出身か?」


「シンデリ? そんなところ知りません。すみませんが、帰らなければならないので、勘弁してもらえませんか?」


「何言ってんだ、お前がぶつかったんだろうが! どこか別の所で話そうか。着いてこい」


 やからか。

 冒険者っぽいが、出入り口で子供に言いがかりをつけるとか、頭悪いんじゃないのか?


「えーっと、嫌です」


「あ? 今なんて言った?」


「嫌です。ついて行きませんし、謝る以外しません」


「おい、ガキ! 人が優しく話してやってんのに、調子に乗ってんじゃねーよ! もう一回生意気なこと言ってみろよ、ただじゃおかねーからなっ!」


 ふぅ、だめだこりゃ。

 我慢したが、こんな理不尽なやりとりはやっていられない。

 どうせ、子供をダシに親からかっぱごうって腹だな……周りの大人は、この状況を見ても誰も止めないっていうね。


 言いたいことだけ言って、部位強化で逃げよう。


「はぁ……。まず、ぶつかったのはお互い様。汚れた服というのは、何で汚れているんですか? あなたの服はすでに汚れているじゃないですか。そして、どこかへ行って何を話すと言うんですか? 大人二人と子供一人、そんな危ないことはお断りします。あと、ただじゃおかないって言っていますが、暴力ですか? 通報しますよ?」


「ぐ……よくも……生意気なクソガキめ! 覚悟しろ! これは暴力ではなく制裁だ、大人をなめた罰として……」


 脚力強化!

 さて、では、バイバーイ……っと。


「はい、そこまで。やめとけ、コルサコ。このガキの言う通りだ、こんなところで騒いだらすぐに捕まるぞ」


 出遅れた、お供の人は割とまともなのね。


「…………わかったよ、ウェルニ」


「そこのガキ。生意気なのはいいが、相手を見てからイキがるんだぞ? そうじゃないと、取り返しがつかなくなる。まあ、俺らにもう出会わないことだな。今度は止めないからな?」


 前言撤回、こいつも同じ穴のムジナ野郎だった。


「はい……すいませんでした」


 何を、偉そうに。

 コルサコにウェルニだな、この名前はしっかり覚えておこう、何かに使えるかもしれんし。


 パチパチパチ


「少年! 君、面白いね」


 ん? 誰だ……?

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