九十三話 入学試験:探索競技 その三
ふわふわを堪能中の二人。
やがて、ロザはリスイタチの首輪から外してプレートを取得。
俺も触らせてもらおうと近寄るが、役目を終えたとばかりにサッと走り去ってしまった。
ふわふわが……。
「あーあ、行っちゃった。十分触ったからいっか。あれ? どうしたの、イロハ」
「いや……まあ、なんでもないよ」
「ふーん、もしかして……イロハも、なでなでしたかったりして。なーんて、そんな柄じゃないもんね」
「確かに、イロハ君は、そんなことしないように見えますね」
「あ、ああ、そんなもん、ねえ。て、手が汚れるし……もう、いいだろ」
こらこら、なに二人で勝手に俺の人物像を作り上げてんだよ!
俺だって、ふわふわしたかったさ……。
「汚れないってー! すっごくふわふわしていたよ」
もう、分かったって。
はい、本当はふわふわしたかったです。
「さ、試験、試験。あとは僕だけだね。ところで、テリアとロザは何番プレート?」
「ウチは、六番だね」
「私は、九番です」
やはり、番号に高評価のヒントがありそうだ。
「ふむ。これは、若い番号が高評価かもしれないな。まあ、リスイタチが五匹もいたし、二十番までとかはありえそうだ」
周りを見渡してみるが……難易度の高そうなプレートは見当たらないなあ。
パッと見でわかるなら苦労しないか。
時間もあと二十分程度。
うーん、硬い石はまだ割れていない……時間も無いしやってみるしかないか。
「ちょっと、道具取ってくるよ。ここで待ってて」
えーっと、確か、
お! これこれ。
後は、鉄板もそのまま持って行こう。
「おまたせ。じゃ、行こうか」
「行こうかって、どこへ?」
「ん? そりゃ、あの石の所だろう」
「え? あれをやるの? 今まで誰も壊せていないよ?」
「残り時間もあんまりないし、他の高難易度らしきものも残ってなさそうだし、あの石に賭けるしかないだろう」
「イロハ君、大丈夫ですか? 私たちに時間がかかったから……すみません」
大体わかった、ロザはネガティブ、テリアはポジティブ。
お似合いの友達だな。
「気にすんなって。大丈夫、身体強化もあるし、絶対に壊れないなんてものは試験に出さないはずだよ」
硬い石に到着。
いまだにプレートを取得していない組で、探す当てもない人たちが頑張っているみたいだ。
三人くらいが並んでいて、つるはしやハンマーを使って叩いたりしている。
「私たちは、他の所を探してみましょうか?」
「うーん、それはやめておくよ。自力で取得が基本だからね。じゃ行ってくる」
「じゃ、ウチらはここで見守ってるよ! 頑張ってきて」
「おーい! 僕にも石砕きを試させてくれないか?」
「おい、お前! ここは俺たちの場所だぞ! 向こうへ行け!」
またかよ、なんでこんなに意地悪な奴が多いんだ?
「いや、俺たちのって……ここは一人三回までじゃなかったか? 終わったなら交代だろう?」
「……まだ、二回だ」
「じゃ、早くやってくれ。時間が無くなるじゃないか」
「今、位置や角度を計算しているんだ! まだ時間がかかるから、お前の順番は来ないぞ」
計算って何だよ!
単純に道連れ狙いの嫌がらせじゃないか。
そっちがその気なら……。
「へー、そんなこと言うんだ。じゃ、先にやっていいよね?」
「だめだ。順番は守るように書いてあるだろ? 別の所へ行けよ」
「ふーん、じゃ、君たちは遅延行為をやっているってことでいいな? 試験官もそこにいるようだし、報告を……」
「待て、待て、そんなことしていないじゃないか! 勝手なこと言いやがって」
「もういいよ、君たちみたいな奴らはうんざりだ。しっかり反省してくれ」
「ちょ! 待てよ!」
そんなカッコ良く言っても、待たねーよ!
「すみませーん、試験官さん! あの人たち三人が、プレートのある石の所で遅延行為をしています」
「ん? 君は、あの不思議なスキルを使う子だったか?」
げ……重持久走最終関門の三人部屋のロン毛のおっさんだ。
「人違いです。時間が無いんです、遅延行為を注意してください、早く」
「人違いって……わかったよ。じゃ、行こうか」
プレート石占領組は、厳重注意を受けて去っていった。
「さあ、どうぞ。えー、イロハ君……だったかな?」
このロン毛のおっさん、なんで名前まで知ってんだよ。
「ありがとうございます。じゃ、遠慮なく」
「ここで見ていても?」
「どーぞ、ご勝手に」
さて、無駄にギャラリーが増えてしまったが、あと残り五分程度……もう、この石に頼るしかなくなってしまった。
誰が妨害禁止だって言ったよ、すでに二回ほど妨害を受けたんだが?
石の溝の中心に楔をセット、その上に鉄板を乗せて、身体強化で思いっきりブッ叩く。
やり過ぎるとプレートが壊れるかもしれんから、手加減しながらやるか、チャンスは三回もあるし。
「すぅーはぁー、すぅーはぁー」
こういう場合は、身体強化で全身を底上げしたほうが良さそうな気がする。
よし、身体強化!
左手で不安定な鉄板を支えて、最初は五割くらいの鉄槌打ちでいこう。
パンチで拳を壊したくないし。
「せーのっ! せいっ!」
ドンッ!
「む……力が足りなかったか」
「イロハー! 大丈夫? もう時間が無いよー!」
「分かってるって、黙って見とけ!」
こりゃ、相当硬いぞ。
思いっきりやってみようかな……。
スキル独特のホワッとした何かが体を巡っている……全身に感じて……やるか。
「いくぞー! せーのっ……おりゃー!」
ドゴゴゴッ!
ピシッ……カラカラ……
お、ヒビが入ったか? もう少しで行けそうだ。
三回だよな、ダメ押しでもう一発!
「もういっちょ! そりゃー!」
バゴッ! ガガガ……ゴトッ!
ゴゴッ……ドンッ!
ふぅー、見事に真っ二つならぬ四つに割れて、中央にプレートが現れた。
なんつー不思議な割れ方だよ!
この石も、なんちゃら鉱石とか言う不思議なやつなんだろうな、たぶん。
「おおー! 割れた。良かったー」
「イロハ! すごーい!」
「ああ……割れてよかった」
二人も、なんだかんだと気にしてくれたんだな。
ひとまず、プレートを無事ゲット!
……おや?
なぜこんな番号なんだ? うーん、この石砕きは難易度がそんなに高くなかったのか?
誰も壊せていないのに……?
「お見事! イロハ君。三人とも、プレートを預かろうか? 一応、私も試験官なものでね」
見ていたロン毛のおっさんが、取ったばかりのプレートを預かってくれると言う。
そうか、この試験ってプレートを渡すまでとなっていたな。
「ありがとうございます。では、お願いします」
三人で、ロン毛のおっさん試験官へプレートを渡す。
「自分の受付番号も一緒に見せてくれ。こちらで記録を取るのでな」
まもなく、実技試験の探索競技は終了した。
周りを見れば、疲れ果てた者、悔しがる者……様々だけど、今日の試験は確かに大変だったな。
プレートの放棄や再取得の質問をしたけど、想定していないってのは間違いじゃなかった。
どう考えても、ゴサイ村の子供には難しいんじゃないか? 特に、ミルメやレジーは。
まあ、今年が特別に難易度の高い試験だってどこかの誰かが言っていたから、来年以降はまた違った形かも知れないけど。
実技試験は、班ごとに説明があるようだ。
着替えが終わったら、三十分後に元の位置へ集合らしい。
木に登ったり、動物を追っかけたり、石を砕いたり……結構汚れてしまった。
「じゃ、集合時間を間違うなよー!」
「分かってるー! イロハもね!」
「はい!」
◇◇
いろいろと済ませて、集合場所へ行こうと思ったが、まだ少し時間があるな。
他のエリアでは、他の班が探索をやっていたり、重持久走から帰ってきたりと、まだ学園内は慌ただしい。
「おっ! お前は……アロハ!」
ん? 失礼な、誰だ? 人を南の島のシャツみたいに呼んでいるのは。
コイツは、食堂の正直者ことギレット……だったっけ?
「……イロハだよ!」
「あ、ああ、すまねぇ。イロハ」
「君は、正直者のギレット……かな?」
「な、なんだよ……そうだけど」
なんで顔を赤らめてモジモジしてんだよ!
「どうした? 僕に何か用?」
「いや、知っている顔だったから、声をかけた。イロハ、試験は、どうだったんだ?」
「んーまあ、ある程度は上手くいったかな。ギレットは?」
「おう、バッチリよ! 最後の探索競技なんか開始五分で決めたぜ!」
五分て……難易度低めじゃないの?
「へー、すごいな。僕は時間ギリギリだったよ」
「そうか。でも、探索競技は速さではないって言ってたから、大丈夫なんじゃねーか?」
「かもね。お互い、合格してたらいいな。そういえば、緑髪の連れがいなかったか?」
「ああ、バルは、幼なじみを迎えに行ったみたいだ」
「ふーん、ギレット達は、王都から来たのか?」
「そうだぞ? という事は、イロハは違うのか?」
「僕は、ネイブ領の山の中から来たんだ。田舎の村だね」
「ネイブ……ネイブって言ったら、南のマジスンガルドの所か! 遠すぎるだろ!」
はい、すっごく遠かったです。
「まーね。田舎者だけどよろしく頼むよ、正直者のギレット」
「照れるじゃねーか。もちろん、俺こそよろしくな、イロハ!」
「そろそろ、時間みたいだ。行こうか」
「ああ」
集合時間五分前に到着。
テリアとロザも先に来ていたようだ。
「おまたせ、二人とも。先に来ていたようだね」
「イロハ君。見当たらないので探しに行くところでしたよ」
「イロハー! 遅い! ギリギリじゃん」
「あー、そりゃゴメンな。コイツと立ち話をしていたんだ」
「えっと……ギ、ギレットといいます。よ、よろしくお願いします……」
なんだ? どうした、ギレットよ。
お前は、女の子に弱いとか……そんなタイプの奴なのか?
「なに? この人。緊張しているの?」
「おい、テリア。お前、失礼だぞ! 自己紹介をしているんだから、ちゃんと答えなよ」
「あー、ウチは、テリアーナ。仲がいい人はテリアって呼んでる」
「私は、ロザエネといいます。イロハ君のお知り合いですか?」
「は、はい! イロハ君とは、仲良くさせていただいています」
どうしたんだ、ギレット……ん?
ははーん、これは……惚れたな? 相手は、ロザ。
確かに、ロザは顔立ちもいいし、知的で真面目そうだもんな……誰かさんとは違って。
「なによ、イロハ。なんか言いたいことでもあるわけ?」
「あはは、テリアに言いたいことなんて、なーんもないよ。ほら、三人とも、試験官が話すみたいだよ」
今回は、ロン毛おっさん試験官が壇上に上がった。
「第一班の皆さん、本日の実技試験、ご苦労様でした。副学園長のオセロットです。今年は、私が試験内容を決めたので、例年より少々難易度が高かったかもしれません。試験官として参加し、皆さんの活躍を拝見させて頂きました。活気のある学園の生徒候補の皆さんに出会えて、大変光栄に思います……」
ぶっ! 副学園長かよ!
おや? 横から若い試験官が、耳打ちしているようだ。
「えー、少し前置きが長くなりましたが、これにて実技試験を終了いたします。一次試験の合格者については、学園正門前に案内板でお知らせいたします。発表は、三日後の九の月一週五日に受付番号で行います。ご自分の番号が分からなくなった方は、学園の方へご確認ください。二次試験の面談は、九の月二週一日に行います。合格者は忘れないようにお願いします。以上になります。では、解散」
偉い人だったのか、あのロン毛おっさん改め副学園長。
変な印象を与えたりしていないよな……?
「それじゃ、またな! ギレット」
「あ、ああ。またな、イロハ、テリアーナさん……ロザエネさん」
その、ロザの時の妙な間は何だよっ!
テリアが、ん? って顔をしているじゃないか。
「帰ろうか。テリア、ロザ」
その場でギレットとは別れた……そんな置いて行かれたような顔すんなよ。
「うん! そういえば、イロハのプレートの番号って何番だったの?」
「あ、私もそれ気になりました!」
「あー、僕のはね…………百十一番だった」
「「ええーっ!?」」
所要時間およそ六十分、三人とも探索プレートの取得、返還完了。
受付番号二番、テリアの探索プレート番号『六番』。
受付番号五十四番、ロザの探索プレートの番号『九番』。
受付番号一番、俺の探索プレートの番号『百十一番』。
合格発表の日程。
発表は、九の月一週五日、学園正門にて。
二次試験の面談は、九の月二週一日。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます