五十三話 パーティの一員
振り向きざまに見たのは、野盗を捕まえたウェノさんだった。
まるで、猫がネズミを捕らえたかの如く。
「よし、これで全部だな」
「クソッ……グググ」
リーダー格が逃げ出していたのか。
確か……コノート? だったかな。
「さて、野盗リーダー君、逃げ出すなんていい度胸をしているじゃないか?」
「クソッ!」
「……癖の悪い手や逃げる足があるからいけない。切り落とすか」
おお、本当にやりそうだ。
こっちも命がかかってんだし、優しいこと言っていられない。
「やめろっ! いや、やめてください」
「でもな、逃げたろ? ダメだ。諦めろ」
「そ、そんな……」
ああ、コノートは絶望的表情だ。
「そうだな、お前ら野盗の情報を提供してくれたら、考え直すかもしれんぞ?」
「くっ…………話すから、頼む」
「お前が知っていること全部だ。嘘が分かったら、死ぬよりつらい目にあうことを覚悟しろよ」
「わ……分かりました」
「さっさと言え、気が変わるぞ?」
「は、はい。俺たち『森の暴風』は全部で十人。ウエンズ側の領境に近い森の中を拠点にしている。二人は、街へ買い出しに行って、二人は負傷している」
も、森の暴風? プッ……森に暴風吹いても効果ないやん。
ヤバい、笑ってしまいそ……あ! ウェノさんも我慢してる!
それに、ミネさん……笑顔が漏れてるって。
「ック……なぜ、子供が乗っていると知っていた?」
「うちの御者が、顔を出した子供を見ていた」
あの時見られたもんな、ウェノさん、ごめんなさい。
「あの少女は、どこで攫って来たんだ?」
「昨日、客車を襲った時に攫った」
やっぱり、ブルさんが予想した通りか。
子供を攫ってどうするんだろ?
「コリトーもか?」
「そうだ」
「……その客車の他の者はどうした? 殺したのか?」
「物資と子供を頂く代わりに、もう一台の客車で帰した……」
「本当か? 街へ着けば分かるぞ?」
「本当だ! 俺たちは、無駄な殺しはしない。交渉でも、子供を渡せば何もしないと言ったじゃないか!」
確かに言ったが、殺すとも言ったな? 暴風さんよ。
「そうだったな。だが、それを信じるかは別だが」
「た、ただ、怪我は負ったはずだから……その後、どうなったかまでは保証しないぜ」
この言い方だと、負傷者はかなりの重症じゃないだろうか?
「どうだろうと、お前たち野盗は警備隊に引き渡して終わりだ。逃げたいなら寿命が縮む覚悟をしろ」
「そ、そんな、約束が違う! ちゃんと話したじゃないか!」
「手足を切らない約束はしたが、見逃すとは言っていないぞ?」
「ぐ……」
ウェノさん、容赦がない。
先が無いわけだし、死にもの狂いで逃げようとするんじゃない?
なにか良い方法を考えないと、ずっと気になってしまう……。
あっ! そうだ、俺には無生物強化がある。
今のところ、付与スキルの親和性は上がってきたけど、上手くいったとしても着くまでの持続効果は無い。
休憩ごとならいけると思うが、その場合は、能力を説明して協力してもらう必要がある。
……話すか。
逃げられたら厄介だし、ウェノさんも青の盾の皆も信用できそうだし。
「あの、ウェノさん。ちょっと相談が」
「なんだ? 今、話すことか?」
そんなに、面倒くさそうにこっちを向かなくても……。
「うん」
「ミネ、ちょっとこいつらを見といてくれ」
「じゃ、紐を縛りなおしておくわ」
ウェノさんは、野盗をミネさんに任せてこっちへ来る。
「それで、どうした?」
「野盗の拘束をしている紐が外れなくなると、負担は減る?」
「そりゃあ、さっきみたいに自力で逃げられる事が無いなら、気にしなくてもよくなるな。でも、そんな拘束具は持ってきていないぞ?」
「うん。僕ができるかもしれないんで……」
「あー、そのな、悪く思わんで欲しいんだが、結び方の問題ならミネの方が上手いぞ」
うわぁ、申し訳なさそうな顔で諭すように言われた。
結び方の話ではないわい!
「そうじゃなくて、スキルで硬くできる」
「はあ? 紐をか?」
やっぱり、自分以外の物そのものの強度を上げることは珍しいのかもしれない。
武器に火とか纏わせることができるくせに、強化は無理という理屈が分からん。
「できると思う。紐を貸して?」
「これでいいか? どうやるんだ?」
疑いの目とはこれだ! という目をしている。
あれだ、もう子供が手を欲しがってあやしている感じに近いな。
「今から、ウェノさんを後ろ手に紐で拘束するね」
借りた紐で、ウェノさんの手首を後ろの方で縛る。
無生物強化の付与は、王都出発前の一か月間みっちり訓練したので、発動も確実にできるし、効果時間もかなり長くなった。
いくぞ、無生物強化ッ、付与!
「……見たところ、普通に縛っただけのようだけど?」
また、そんな目を……もう、外してやらないゾ。
さあ、思い知るがいい!
「いいよ、外してみて」
「こんなの簡単に……! なんだこれはっ! む……外せない。 身体強化ッ! ぐぉー! 切れん、なんで切れない……っぐ、いだだだ…………ダメだ」
うわー、紐がギシギシ鳴っている、大丈夫か?
身体強化まで使って、大人げないなぁ……切れるかと思ったが、勝ちは勝ちだ!
「ウェノさんでも外せないんじゃ、野盗には無理だよね?」
「これ以上やったら、俺の手首が千切れちまう……外してくれ、降参だ」
解除っ!
フフフ、ウェノさんでも無理だったか。
これはいいぞ、前の時は草だったから、頑張れば短剣で切れそうな針金って感じだった。
今度は丈夫な紐だ、しっかりしている分強度を上げれば太めのワイヤーみたいになっていると見た。
「もう、外せると思うけど……」
言った瞬間に「バチンッ!」って紐がはじけた……そんなに紐に恨みが。
あーあ、手首に赤い痣ができてる。
「……イロハ。お前、とんでもないスキルを持っているな。これは、強度を上げた感じか? それとも材質を鉄かなんかに変えたか? 聞いたことがないぞ、そんなスキル」
鋭いなー、でも俺もよくわかんないのです。
強化より硬化に近いかな?
「使えそうでしょ? 今回の護送に」
「確かにな。でも、良かったのか? 俺に話して」
「うん。ウェノさんや青の盾は仲間だし、守ってもらっているからそのくらいはね。ちゃんと信用もしているよ」
「お、おう。わかった、その能力はどのくらい続く? まさか永久にって訳じゃないだろう?」
時間の説明か、単位が無いと非常に難しいぞ。
だいたい、朝の訓練場で使って、お昼ご飯時に切れたことから、五時間くらいはあるかな。
説明か、伝わるかな?
「だいたい、丸一日拘束するなら、
「ほう、こんなに強力なスキルが五時間ほども効果が切れないのか、凄いな」
そうそう、五時……えっ、今何つった?
五時間て……この世界に時間の単位があるんかーい!
「ちょっと、ウェノさん。五時間って、もしかして王都では時間の単位を使うんですか?」
「何言ってんだ、使う決まっているだろう。イロハは時計も知らないのか?」
「知ってる……けど、誰も使っていなかったし、村にも一個だけしか無いし。あの、一日って何時間なの?」
「一日? 二十四時間だろ。六十秒で一分、六十分で一時間。時計の一周は十二時間、それが二周するんだよ……ったく、ルーセントはそんなことも教えていないとはね。そういや、あいつが時間を守った事なんてなかったか。ブッハハハー」
知ってます……村が田舎なだけっす。
ちゃんと六十進法で良かったよ。
「ええ……。じゃあ、スキルの効果はだいたい五時間で合っています。だから、休憩所の度にかけなおしていけば、街まで行けるんじゃないかと。ちなみに、効果は上書きするので、かけなおしたらそこから五時間です」
「お、おう。わかった、イロハの作戦で行こう。みんなとは朝共有するが、すぐに一回目をかけておいてくれ」
「はーい!」
その後、ミネさんにも共有し、野盗の紐を硬くして回った。
ミネさんは、短くした紐を出して「これにもお願い」と言われたのでかけてやった。
何しているのかな? と思って、そぉーっと見たら、思いっきり短剣で切り付けて頑張っている姿を……見なかったことにして、戻って寝た。
◇◇
「イロハ、起きろ。そろそろ出発だぞ準備しろ!」
ウェノさんに起こされた。
準備ってなんだよ、と思いながらも外に出るよう促され、回りを見たら全員集合していた。
ブルさんに向かって四人が横に並んだ状態、朝礼みたいになっている。
ブルさんからのお話ってところか。
「昨日は、野盗騒ぎとかあったが、今日も警戒を怠らないように集中して進もう。おそらく今日中にベガへと到着する。それからイロハ、スキルの件はすでに全員で共有済みだ。先にかけ直しをしておいてくれ。あとは、適当な休憩地点で、かけなおしを頼む」
「はい」
「捕えた野盗は、十人程度の少数と分かった。また、少女については、引き続きミネに任せる」
「分かったわ。私からも一つ。少女は、野盗襲撃後に捕えられているが、父親の方が深手を負っていたようで心配していたみたい。おそらくこの先のベガに滞在していると思われる。そして、少女の名前はラムと言うわ。まだ怖がっているので、不用意に近づかない方がよいかも……」
少女も話してくれるようになったか。
そりゃ、両親と無理やり離されたら取り乱すよな。
父親が無事だといいなラムちゃん。
「では、それぞれ準備をして出発だ」
諸々が、片付けや客車の確認をしたり、走獣に水を飲ませたりと、出発前の独特な雰囲気。
俺はというと、ミネさんと一緒に野盗の詰め合わせ客車へ。
かけ直しが終わると、そのまま自分の客車へ乗って出発。
途中で数回の休憩地点にも止まり、かけ直しとトイレを済ませていく。
今までは乗っているだけだったが、かけ直しという役割を持ったことで、やっとパーティの一員になった気分だ。
無生物強化の付与は、今のところ余裕を持ってかけ直しができる程度には使えるので問題ない。
ただし、スキルの事が野盗にバレないように、結び直しとそのチェックという名目で、ちょいちょいと触れては発動、ってな感じでごまかしている。
使用回数の問題で、ベガまで持つかな? という心配があったが、二人ずつを一本の丈夫な紐で拘束し直してあったので、三回で済むやん! と感心してしまった。
ブルさん曰く、スキルの節約は冒険者の基本だそうだ。
これで親和性も上がってくれれば一石二鳥だな。
道中の野盗は、日中に襲ってくることもなく、各駅停車のごとく全ての休憩所に寄り、順調に進んでいく。
昨日とは違って、特にトラブルもなくベガへ到着した。
【移動経路】
ゴサイ村⇒ネイブ領モサ⇒ネイブ⇒ネイブ領ペイジ⇒ウエンズ領ベガ
次の経由地:ウエンズ領フレズ
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