四十一話 瞑想とは

 おおー、村の中心はかなり賑わっている様子。

 空前の開拓村ブームだな。


 おや……?

 あれはウォルターさんとレジーじゃないか?

 どうしようか……なんとなくウォルターさんには会いたくないなあ。


 うん、帰るか。

 もう、商人はお腹いっぱいだ。

 裏へ回って、村の南東にある団の宿舎からミコタンドウの傍を通って帰るか。


 ……!


「イロハ、なにしているの?」


 え?

 なんでレジーが……。


「えっと、さっき向こうにいたよね? どうして僕がここにいると分かった?」


「こっちにイロハがいる感じがしたの」


 だから、なんでだよって。


「……スキル?」


「うん。たぶん瞑想なの」


 瞑想ってそんなこともできるんかい!

 気配察知とかそんな感じかもしれん。


「驚いた。すごい能力じゃないか! ちゃんと訓練していてよかったな」


「うん、レジー頑張ったの」


 あーあ、ウォルターさんが来ちゃったよ。


「おやおや、イロハ君。こんなところで……怪我は大丈夫なのかい?」


「ウォルターさん、こんにちは。そこまでの怪我ではないですから、もう大丈夫ですよ」


「娘のレジーのことを助けてくれたって聞いて、本当に感謝している」


 ウォルターさんらしからぬ雰囲気……どうやら本気のよう。


「いえ、そんな大層なことではありません。お気になさらず」


「……娘のコアプレートの情報を聞き出して、一体どういうつもりかと思っていたけど、本当にレジーを思って訓練をしてくれていたことも感謝している」


 嫌な言い方だな、おい。

 しかし、やっぱりな。

 そんなことだろうとは思っていたよ、ああ、絡まれる前に退散したい。


「えっと、聞き出したんじゃなくて、レジーが自ら話したのであって……そこのところ誤解の無きようにお願いします」


 本当にお願いします、絡まないで下さい。


「ああ、そういう話だったな、すまない。ところで、とても奇妙な話なんだが……イッカクグマに襲われた小屋へは、レジーが怪我したから行ったという話だったが、間違いないかな?」


 奇妙な話?

 今度は、怪我を材料に俺を料理したくなったんかな?

 もう、許して……。


「ん? あ、はい。そうですね。木の棒で訓練していたので、ささくれで怪我をしちゃって水で洗うために小屋へ……ごめんなさい、僕の不注意でした」


 あと何回謝れば気が済むのだろうか、もう勘弁してほしい。


「いや、行動は正しい。でも、帰ってきたレジーは怪我をしていなかったんだよ……」


 ……今度は、何?


「え? 右の手のひらに擦り傷がありましたよ。布に血が付いていませんでしたか?」


「そうなんだ、血はついていたが、傷は無かったんだ。とても奇妙なことでね、是非ともイロハ君に確認をしたかったんだ」


 傷が無かったとは?

 あの時確かに傷があったはずだし、血も出ていた。

 レジーは痛がっていたから、洗いに行った……まさか、俺が治してしまったのか?


「レジー、手を見せてくれないか?」


「レジーの手を見たいの? はいどーぞなの」


 そう言ってレジーは両手のひらをこちらに見せた。

 確かに何も傷が無い……こんな短期間で治るはずがない。


「レジー、怪我はどうした?」


「あの時、家に帰ってお母さんに怪我を見せるため布を取ったの。そしたら無かったの」


 どういうことだ……帰ったら治っている。

 俺が……いや、これは違う。

 俺の細胞活性は、あの時に自分以外にも効果はあったかは分からないが、あったとしてもうっすらと傷が残る。

 ネズミスズメもそうだったし。

 こんなに完全に治ることは無い……はず。

 

 もしかして、レジーのスキルによるものなのか?


「イロハ君、気持ちは分かるが、レジーに新しいスキルは発生していない。な、奇妙な話だろう?」


 なに?

 俺を疑っているのか? なんてタイミングが悪いんだ。

 凄くややこしいことになっている。

 

 まず、俺のせいじゃないこれは確定、でもちょうど細胞活性が自分以外にも効果があると分かったところ……あーややこしい。

 

 レジーの瞑想がなんかしているんだと思うが、詳しいことは分からない。

 いや、ミルメって線もあるのか……確か手をつないで小屋を出て行ったし。


「確かに奇妙ではありますね。でも、僕に分かることもありませんよ、本当に必死で逃がしましたから」


「分かっているさ。たぶん、レジーのスキルが何か影響しているんじゃないかとは当たりをつけている。でも、あんまり教えてくれないんだよぉぉ……」


 なんだよ、わかっているんなら意味深な質問しないで欲しいね、まったく。

 単に、レジーに聞けないから矛先をこっちに向けただけじゃんか、迷惑です、大迷惑です。


「まあ、怪我が治ったんならよかったじゃないですか。レジーにはそういう能力があるのかも知れませんね」


「そうだな、本当に感謝しているよ。これからもレジーをよろしく頼むよ、イロハ君」


「はい、こちらこそ、よろしくお願いします」


「レジーは、またイロハの家に行っていいの?」


「ああ、いつでもいいぞ。さっきミルメの所にも行ってきたんだ。怪我も治ったしいつでも遊びにおいで……と言っても、しばらくしたら王都に行くのでそこまでなら、だけどね」


「うん、行くのー!」


「では、私たちは買い物の途中なのでこれで失礼するよ」


「はい、では僕も失礼します」


「バイバイ、イロハ。またなのー」


 小さく手を振って、モンスターペアレントの帰還を見守った……嵐は去った。

 俺が「いつでもいいぞ」と言った時に、眉毛がピクッとなっていた、まさにモンペや。


 しかし、驚いた。

 レジーの瞑想って万能スキルじゃないか。

 たぶん、集中力に気配察知に治癒?

 凄いな……もしかして、モノスキルではないのか? それでなくともマルチスキルの中でもかなり良い方だろう。


 さて、帰ろう。

 もう、走る気力もなくなったよ……歩くかな。


 こうして自宅に無事帰還した。

 ひとまず汗を流して、自室でくつろいでいるが……夕飯まで時間あるし、寝るか。


 

 ◇◇



 母さんとリアムと三人で夕飯を取って、すぐに自室へ戻ってきた。

 一応、試験前ということでこういう行動も許されている。


 本当はリアムと遊んだりしたいけど、「試験を受けるならちゃんと勉強しなさい」と注意を受けてしまったんで仕方がない。


 最近、父さんは忙しそうだ。

 開拓が始まった事もあるけど、他領からの流入が多くなってきてかなり大変なことになってきているようだ。

 

 そこへ来て、王国からの視察があるとか無いとか……権力や政治に無縁な父さんには、たまったもんじゃないだろうな。

 

 あー、後一か月くらいか、この村にいるのも。

 思えば、ここで生まれてほとんどの時間をこの村で過ごしてきた。

 たった数年間だったけど、ちゃんと自分の居場所があった。


 王都に行けば、たぶんすぐには帰ってこられないだろう。

 

 今なら分かる、トリファもロディもなぜ帰ってこないかを。

 学校ではやることが沢山あるだろうし、時間、お金の問題もあると思う。

 

 ……俺の場合、帰らない最大の理由は乗り物酔いです、はい。

 片道だけでもうんざりするほどなのに、往復なんてとてもとても。

 だから、父さんたちには頑張ってもらって、早く王都とネイブ間道路を開通してほしい、僕が帰ってこられるように。



 さあ、今日のお楽しみタイムだ!

 

 新しい検証ができたし、進展があったと思いたい。

 コアプレートの確認をやるぞー!


 はい、光りましたよ、と。

 グフフ……何が変わったかな?


 コア:強化

 ■■■□□□

 スキル:真強化

 身体強化(真)○

 部位強化(真)○

 無生物強化(真)

 スキル:真活性

 細胞活性(真)

 スキル:真付与

 無生物付与(真)

 生物付与(真)


 おおー!

 こりゃまた、大変なことになっているぞ。

 真付与か。


 そうか『生物付与』これは間違いなくネズミスズメのおかげだ。

 

 それに、生えている雑草とかにも結構試していたっけ、草や木の枝とかは本体から切り離さないと、強化の効果がないことを調べたりしていたからなあ。

 動物ではなく、生物だから植物も入るんだろう、ちゃんと経験になっていたわけだ。

 

 そうなると『無生物付与』は、ずっと使っていたことになるのでは?

 元々、無生物強化には数分の効果があったし、そこのところはどうなんだろうか。


 強化と付与の同時発動とかに、何かしらの効果があるのか?

 どう考えても、今回の真付与は既存のスキルのためのものと思える。

 既存スキルを付与する事で強化されるだとか。

 そうじゃないと、一体何を付与するんだ……となるから。


 今のところ、スキルの重ねがけは上書き関係にあったが、例えば、真強化グループと真付与グループの重ねがけは可能だとか。

 うん、きっとそうだ、これは……検証しがいがあるな。

 

 父さんも言っていたが、自分以外に効果を及ぼすスキルは珍しい部類らしいので、使う時には注意が必要だな。

 余程信用ができる間柄にならないと、話すことは避けよう。


 真付与を使った場合、なんの効果があるのだろうか?

 付与できる内容というのは、自分のスキルの全て可能なのだろうか?


 残りの一か月で、やることが盛りだくさんとなってしまった。

 


 ◇◇

 


 とにかく、この一か月間は、可能な限り検証と親和性を上げる努力をした。

 

 真付与は、自分のスキルを自分以外に使える可能性が見えたくらいで、自分への効果は確認できなかった。

 ただし、他人に対しての検証や、動物実験などはさすがにできていない。

 

 無生物強化を付与しまくっていたら、段々と強化時間が伸びてきたんだが……。

 付与をしないと数分の効果しかないのに対して、付与を併用すれば、約五時間ほど効果が持続するというとんでもないブーストスキルだということが分かった。

 他には、植物はどこからが無生物との境目なのかを見極めるために、根が張った状態と切った物を比べたりと、まあ、いろいろやってみた結果……。


 お陰で、無生物付与の方に親和性が上昇したであろう丸印を頂いた。

 



 そして、あっという間に一か月が過ぎた。

 

 いよいよ、王都へ出発だ。

 ゴサイ村のみんなともしばらくお別れだな。

 


 王都出発直前のコアプレート情報。


 コア:強化

 ■■■□□□

 スキル:真強化

 身体強化(真)○

 部位強化(真)○

 無生物強化(真)

 スキル:真活性

 細胞活性(真)

 スキル:真付与

 無生物付与(真)○

 生物付与(真)




―― 第一章 ゴサイ村編 完 ――

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