十四話 特性


 コア:強化

 ■□□□□□

 スキル:真強化

 

 

 ……。

 ………………。

 

 えっと……強化? スキルが真強化? すごく期待してたのに……なんか普通な感じだ。

 確か、アレス様が『剣を扱うと思われる特性』とか言ってたけど、これでそんなことが分かるのか?

 強化……強化……うーん強化かぁ。


 まあ、何かを強くしたりするスキルかな……なんとなく。

 とりあえず、学校で教えてくれるんだろう、凄そうなスキルではなさそうだし、あんまり期待はできそうにないなぁ。

 だって、父さんは『炎の槍』、母さんは『水の浄化』だったし、もっとこう、雷撃の剣とか真空波とかさ……結構期待してたのに。


 まあ、決まってしまったものはしょうがない。

 己を磨いて精進すれば、いろいろなスキルとか覚えるかもってアレス様も言ってたし、やるだけやってみよう!


「父さん、スキルを確認できました!」


「お、おらもスキル確認できた」


「そうか、そうか。特性は、これから変わることが無い。スキルはこれからいろいろと覚えていくだろう。いい職や属性とかは出たか?」


 ん? 職や属性……何のことかな、そんなもの無さそうだけど。


「お、おら、いい職がもらえた! これからスキルを磨いてがんばる!」


 はぁ? なんでポルタは職がわかるんだよ。

 俺にあるのは、強化……強化職? そんなこと、ある?


「よかったな、ポルタ。トッカーにもいい報告ができるじゃないか」


「うんっ!」


「ちょっと! ちょっと待って、父さん」


「どうした、イロハ?」


「さっきから、職とか属性? とか言ってるけど、それってどこを見てるの?」


「どこってお前……コアプレートにちゃんと書いてあるだろう?」


「職とか属性とか判断つかないよ、こんなの……」


「そんなに分かりにくい内容なのか、イロハ?」


「いや、分かりやすいと言えば分かりやすいんだけど……」


「わかった、その話は外でするもんじゃない。帰ってから父さんが聞こう」


「……はい」


「おらもいいスキルがもらえたんだ。イロハはおらよりも頭がいいし、稽古もやってる。きっとそれは凄いスキルだよ、おらはそう思ってる」


「あ、ありがとう、ポルタ」


 ポルタがほっこりさせてはくれたが、自分のせいで客車の中は微妙な空気になってしまい、そのまま途中の宿泊する町へと歩みを進めていく。

 

 時間にしてお昼過ぎくらいかな? 昼食をとって、宿に籠ってダラダラと過ごした。

 その間、ポルタとはスキルの話を一切しなかった……お互い、どこまで言っていいのか分からないってのが本音だ。

 特に何事もなく過ごし、帰りのお泊りは、みんな疲れていたのか、早めに寝てしまった。



 翌朝、早い時間から出発。

 また、サウロ酔いが始まる……。

 帰りの行程では、全くと言っていいほど話に花が咲かなかった……乗り物酔いが最大の敵だ。



 まもなく、開拓村へ着いた。

 夕暮れ時だったので、ポルタはそのまま家に帰って行き、父さんと二人で家路についた。


「ただいま」


「おかえり、二人共疲れたでしょう? 夕飯は作ってあるから先に食べてちょうだい。私は、リアムを見てるから」


「うっぷ……はーい」


 父さんと二人で夕飯を食べ、その後スキルの話をすることになった……。


 サウロ酔いがひどく、あんまり食が進まなかったが、何とか食べ終えた。


「イロハ、帰りの客車で言っていたスキル……いや特性の話だが、職も属性も分からないような特性だったのか?」


 夕食を終えて、すぐさま父さんから質問があった、よほど気になっていたようだ。

 しかし……これは、どう答えれば良いのだろうか。


「うーん、みんながどんな特性か分からないから答えようがないよ……」


「聞き方が悪かったな。父さんの特性はな、槍と炎という言葉が入っているんだ。だから、槍や炎のスキルが獲得できた」


「二つの言葉が入るの? 特性って」


「人それぞれではあるが、だいたい『◯◯の◯◯の◯◯』みたいになっているはずだぞ」


 はぁ?

 普通はそんなに長いのかよ……俺、二文字だよ? 強化て。

 前後に言葉を入れ忘れているのでは?


「そんなに長くない……です」


「……おお! あまり見ないレアな特性かもしれんな。『◯◯の◯◯』みたいな短い特性は少ないけど存在するらしい。この国の初代国王様もそうらしいぞ? 聞いた話だと強力なスキルを得て国の要職についた人もいるらしい……あまりいないから参考にはならんかもしれんが」


 おおお! 短い特性は良いのかな?

 俺の特性、すごーーく短いんですけど……どうですかね?


「……もっと短いです」


「は? そんなわけが無いだろう」


「いや……そんなと言われても、それしかないし」


「いったいどうなっているんだ? イロハ、お前の特性は俺の知っている特性ではないような気がしてきたぞ……」


「……」


「そうだな、俺たちは親子だ。こうなったら腹を割って話そう! ここから先の話は、二人だけの秘密だ。いいな?」


「うん……」


「イロハには特別に俺の特性を教える。俺の特性は『あかき炎の槍術士そうじゅつし』だ。職は槍術士、属性は炎と読み取れるわけよ」


 うわぁ、中二病患者さんばりのネーミングセンスやん……赤きて。


「赤き……なんかカッコいいね、父さんの特性」


「カッコいいかね……槍っていう普段使いに適していない武器には大分苦労したぞ。その分、戦闘などはかなり強いとは思うがね」


「僕なんかさ、特性が…………『強化』って、それだけだった」


「………………えっ? 本気で言っているのか? それはスキルじゃないのか?」


「特性が……たぶん『強化』になってる。スキルは…………『真強化』だって」


「いや、そんな……全部見えていないのか? そんな単語の特性なんて聞いたことないし、俺が知るどの特性にも当てはまらない。スキルも、真強化だって? 身体強化の間違いじゃ……?」


 あ……これってダメなやつじゃないか?

 父さんの顔、焦っているのかな……初めて見るよ。


「特性もスキルも今言った通りで、それ以外は何も見えない……です」


 父さんは、焦り顔からだんだんと真剣な顔つきになって、何か考えているような素振りを見せる。


「……本当なんだな?」


 真剣な声で聞かれた……そんなに良くないのかな。


「はい……」


 この真剣な空気、嫌だなぁ……圧が凄い。


「イロハ、この事は絶対に他人に話してはいけない。スキルのこともな」


「う、うん」


「もう一度言う。イロハの特性、スキルは絶対に話してはいけない、しっかり約束してくれ」

 

「はい。約束します」


 はぁ……これは、ダメなやつだ。

 周りに言ったら恥をかく的な感じか……むぅ。


「よし、約束だ。俺も、良いのか悪いのか分からない。だが、聞いたことがない特性やスキルなどは、確実に調べようとする者が出てくる。我が息子を研究対象などには絶対にさせん!」


 ああ、そういう事か。

 俺の特性は、よほど珍しいようだ。

 父さんがここまで言うってことは……いるんだろうな、研究者が。


 よかった、父さんにとって恥ずかしい息子的な感じでとらえられたらどうしようかと焦ったよ。


 なんか、言えない事が増えていく。

 しかし、そうなると、学校とかにはバレるんじゃないかな?

 

「あの、学校へ行ったら多かれ少なかれ知られることになったりしない?」


「もちろん、一定の情報は伝える必要があるだろう。差しあたって……イロハは、格闘系の強化を持っていることにすればどうだ? 剣とかでもいいが、スキルが厳しいだろう」


「ああ……ごまかすってことか。調べるすべもないようだし、当分うまくごまかすしかないのかな」


「お前はどことなく抜け目がないし、頭も切れる。うまく乗り切って卒業することだな。困ったことがあったら、力になるからな」


 おや? 随分高く買われてる……アレス様もそんな感じだったなあ。

 

 俺は、これまで情報は武器だと信じてきた。

 この世界でも、それは同じということだろう。

 強化という特性や、もたらすスキルがどこまで使えるのか分からないけど、この世界である程度の立場を得ないと何も知ることはできないだろう……よし、決めた。

 

「わかったよ、父さん。特性の事、話してくれてありがとう。僕も、将来に迷いがあったけどやるべきことができた気がする」


 これまで、どこか腰掛け仕事のような感じで過ごしてきたけど、気を取り直して、この世界をもっと真剣に生きてみようと思う。


「おいおい、もう将来の話か? まあ、俺も結構好きなことやってきたつもりだ。イロハにはイロハの人生がある、やるべきことが何なのかは知らんが、精いっぱいやればいい」


「あ……そういえば、特性やスキルの事、母さんには言うの?」


「そうだな、言わなきゃ大変なことになるだろう…………俺が」


「そうだと思った。母さん、仲間外れにされるとすごく怖いよね……父さんから言ってね」


「ああ、俺とイロハと母さんの秘密だ」


「あと、リアムもね」


「おう、そうだったな。リアムも妙な特性にならなけりゃいいが……」


「父さん、妙なって……僕の特性が妙なって思ってたんだ……母さんに言いつけようかな」


「ま、まて、悪かった。凄い特性ってことだ。ほら、短けりゃ強力らしいだろ? イロハのは二文字じゃないか、最短だ最短。つまり最強ってことだ、スキルだって真だぞ、真。本当のみたいな意味にも取れるだろ? 凄いじゃあないか! ハハハー! なあ、イロハ。だから母さんにその件は黙ろうな」


 必至だなあ、父さんよ。

 さっきまでのカッコいい父はどこへやら。


「えー、ほんとにそう思ってる? ……そうだね、確かに父さんの話にも一理ある。ちょっとだけ期待してみようかな」


「そうだ、その調子だぞイロハ!」


 


 はぁ、現金な父さんだ。

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