六話 こども会議一〇〇五

「こんにちはー!」


 玄関先から子供の声がする。

 そーっとのぞいてみると、子供が二人で俺を呼んでいる。


「イロハ君いますかー?」


「あら、こんにちは。ちょっと待ってて、呼んでくるね」


 母さんが対応して、こっちに戻ってくる。


 あれはたしか……ロディと、レジーか。


 そういえば、なんか約束してたような気もする、なんだったかな?

 剣の訓練で頭打ってから、あんまり覚えてないなあ……先週だったか、遊ぶ約束してたような、いないような。


「イロハ、お友達が呼んでるわよ」


「はーい、行ってきます」


「日が暮れる前には帰りなさいね」


「はーい」


 とりあえず、行ってみるかな。



 ◇◇



「おまたせー!」


「おせーぞ、イロハ。もうみんな待ってんぞ」


「ロディ、ごめん、ごめん」


 ふぅ、これは、約束してた感じだな。

 やばい、記憶があやふやだ……。


「レジーも待たせちゃったね」


「イロハおそいの」


「ごめんねっ」


 ロディは、開拓団のカラックさんとカルネさんの子供だったな。

 開拓村の子供たちのリーダー的存在で、まとめ役っぽい立ち位置のしっかり者だ。

 紺色の髪をツンツン立てたような髪型で目鼻立ちもキリッとしている。

 確か、今年で六歳になったと言っていたので、俺の一つ上になるな。


 レジーは、開拓団の裏ボスであるラミィさんの娘で、まだ三歳だったと思う。

 金髪ショートボブで非常にかわいらしい。

 だいたいロディが面倒みているみたいなのでくっついているところをよく目撃する。


 三人で、五彩樹の木陰まで歩いていく。

 ……と言っても、家の裏側になるのですぐ着いてしまうんだけどね。

 

 歩いて向かう間にロディから話しかけられた。


「イロハ、約束忘れたのか?」


「えーっと、剣の訓練の時に頭打って寝てしまったので記憶が曖昧で……ゴメン」


 地球の記憶がよみがえってしまって、直近の事などすっ飛んでしまった……なんて言えない。


「まあ、いいんだけどさ。調子悪いんだったら言うんだぞ」


「わかった。特に問題ないよ、ありがとうロディ」


「さ、みんな待ってんだ。行こうぜ」


 軽い雑談をしながら五彩樹に向かう。



「みんな、遅くなってごめん」


 ペコリと頭を下げる。


「何やってんのよ、イロハ」


「おそーーい!」


「き、気にしてないよお」


 トリファ、ミルメ、ポルタの順に返事が返ってきた。


 トリファは、王都の商会のゴサイ村支店長ルブラインさんのお子さんで、歳はこの集まりで一番上の七歳。

 髪は明るい茶色で、肩までのストレート、子供たちのお姉さん的存在で、言動も大人っぽく面倒見が良い。

 主にミルメの面倒をよく見ている感じだな。


 ミルメは、ゴサイ村で農業をやっているランベルトさんの子供で、俺の一つ下の四歳。

 快活な感じで赤茶髪のベリーショート、小麦色に焼けた肌が健康的で、結構やんちゃなお子さんだ。

 この集まりの元気印。


 ポルタは、ゴサイ村のハンターをやっているトッカーさんのお子さんで、俺と同い年の五歳。

 トッカーさんは、狩猟に出るとしばらく帰ってこない事も多いらしい。

 引っ込み思案で、ぽっちゃり体形、こげ茶色の髪で坊ちゃん刈り。

 のんびり屋さんで、焦って話すときは、ちょっとカミがちなところもあるけど、意外と周りをよく見ている。

 

 ロディ、レジー、トリファ、ミルメ、ポルタに俺を加えた六人がゴサイ村の歳が近い世代。

 

「みんな集まったことだし、前に話していた学校の事をみんなで語ろうぜ」


 ロディがおもむろに話題を振ってきた。

 うーむ……そんな話してたっけ?

 あんまり覚えてないなあ。


「みんなさ、十歳までにはどの学校に行くか決めることを分かってるだろ? 俺は、王国騎士を目標にしているから、王都の騎士学校に行こうと思っている」


 ロディは騎士になりたいらしい。

 まあ、両親ともに騎士学校だったらしいからそうなるんだろうね。


「私は、王都の商業学園ね。父が大手の商会に所属しているし、私も手伝っているわ」


 トリファは商人か……なんでも王都に本店があり、結構有名な商会らしい。


「あたしも商業を勉強するー! そんで、とうちゃんの作物売るー!」


 ハハハ、ミルメは元気いっぱいだ。

 トリファと一緒がいいんだろうな。

 

「レジーは、かわいいお嫁さんになる」


 レジーは、お嫁さんか。

 うんうん、なんかいいんじゃないか? 子供らしくて。


 しかし、みんなガンガン意見を言うなー、会議で意見出さないヤツは見習ってほしいよ……。

 後は、ポルタと俺か。


「「お」」


 あらら、ポルタとかぶってしまったよ。

 しかも、俺っていう所だった……あぶない、あぶない。


「ポルタが先でいいよ」


「あ、わかった。おらは、のようなハンターになりたい。そしてみんなにいっぱいおいしい物をご馳走したい」


 ポルタは両親のことを『おとう、おかあ』と呼んでいる、どっかの方言かな?

 父親に憧れているの知っていたし、腹ペコ坊ちゃんだからな。

 さしずめ、ハンター兼料理人ってところか。


 さて、次は俺だな。

 

「僕は、まだ決まっていないんだ。今は、父さんに剣の訓練をしてもらっているけれど、なんとなくしっくりこないところもあって迷ってる」


 正直に言ってみたけど、みんなどう思ったのかな?

 何かの学校には行くことになるだろうけど、俺にはやらなければならないことがあるので、できるだけこの世界での情報を集めやすい環境に進みたい。


「なんだよ、イロハは優柔不断だな~。もう、俺と一緒で騎士学校にしとけって! まだ、十歳までに時間はあるかもしれないけど、ある程度は考えといたほうがいいと思うぜ」


 ロディから、まっとうな意見を言われてしまった……本当に六歳なのか?

 こちらの世界は、早熟な気がするよ……まったく。

 

「わかってるよ、ちょっと色々とやりたいことが多すぎて迷っているだけだから」


 本当はやりたいことではなく、やらなければならない事……なんだけどね。


「イロハは好奇心旺盛だからね~、お父さんは確か王国騎士団じゃなかった?」


 いきなりトリファから質問が来た。


「そうだよ、父さんは王国騎士団にいたって言ってた。なんか、騎士団でも有名だったって」


 赤槍のなんちゃらとかカッコつけて言ってたっけ。


「俺はてっきり、俺と同じ王国騎士を目指すものと思ってたんだけどな……まさか、もう何か特殊なスキルに目覚めたとかねーよな?」


 ん? 今、ロディが特殊なスキルって言ったか?

 スキル……能力?

 

「ロディ、ちょっといい?」


「ん? なんだイロハ」


「その、さっき言った特殊スキルって……何?」


「えっ? イロハ、おまえスキルを知らないのか?」


「えっ? スキル……何かの能力的な感じか?」


「おいおい、この前集まった時も話しただろうが。イロハお前、本当に頭打って記憶が飛んでったんじゃないか?」


「あーははは……」


「この前話していた時、わかってなくて頷いていたんだな、お前ってやつは」


「……ごめん」


 やばい、全然記憶にないぞ。

 前回集まった覚えもない気がする。

 どうやら、記憶を取り戻す少し前の記憶が飛んでいるようだ。


「やっぱり、思い出せないみたい。頭を打ったせいでちょっと記憶が曖昧になっているかも……」


「あーわかった、もう一回説明する」


 ロディが残念な感じでこちらを見て目を伏せる。

 なんか申し訳ないなあ。


「ああ、お願いするよ、ロディ」


「俺たちヒュームは、生まれつき心臓のところにコアってのがあるんだ。そのコアには、ひとりひとりに特性っていうのがあって……ええっと、それがスキルになる? だったかな」


 ん? 心臓のコア……なにそれ、特性がスキル……よう分からんな。

 しかも途中の説明が飛んで意味がわからなくなっている。

 おいおい、しっかりしてくれよ。


「ロディ、それじゃ説明不足だわ」


 お、トリファが突っ込んできた。

 なんか、ロディもあんまり詳しくなさそうだなあ、バツが悪そうな顔している。


「ああ、ちょっと説明が悪かったかな……トリファ、お願い」


「わかったわ。いーい? イロハ」


「ああ、トリファ先生、よろしく」


 先生と呼んだらまんざらでもない顔しながら、説明をしだした。


「まず、コアは分かるわね。そのコアに、一人ひとりに特性というものが備わっているの」


 まず、コアが分かんないんです……と思いつつも、頷いとこう。


「それで、その特性に沿ったスキルを覚えるの」


「なるほど、コアにはそれぞれ特性というもの備わっているわけね」


「そうそう、それでね、だいたい五歳くらいでコアの特性が定まると言われているの」


「ほ~、そうなんだ」


「その後、十歳くらいまでには特性に基づいたスキルを取得できると言われているわ」


「なるほど、そのコアの特性は個人によるもので、それによって取得したものがスキルって言うのか?」


「まあね、その通りよ。なによ、思い出したの?」


 ええー! なんか初めて聞く感じがするんだけど、普通に五歳くらいの子供は知っていることなのか?

 みんなは、そのコアの特性だったかな? もう分かってる感じなんだろうか。

 トリファは七歳だったと思うけど、スキルを取得しているんだろうか。

 疑問が尽きねえー!


「いや、思い出せないな……そんなことより、トリファはスキルとか持ってたりするの?」


「えっ? そこかぁ~」


 なんだ? おかしな質問でもしたのかな……トリファに呆れられた感じがする。


「あのね、イロハ。コアの特性やスキルについては、コアプレートを作らないと普通は分からないわよ」


 なにかまた知らない単語が出ておるぞ……コアプレートですか。

 

「コアプレート? 僕は初めて聞いたんだけど、みんな持っているの?」


「そうね、子供のうちは少ないと思うけど、だいたい十歳までにはみんな作ることになるわ」


 ああ、そういうことか。

 つまりは、十歳までにそのスキルとやらを取得して、コアプレートで確認すれば、自分の将来の方向性の目安になる……ってところか。


「なるほどね、だから十歳で学校なのか」


「そうそう、みんなもそのうち作ることになるんだから、心構えもしとかなきゃね。それに、環境や性格がコアに影響するって言われているわ。やりたいことがあるならその勉強をするのもいいかもね」


「早く知りたいな、自分のスキル」


「早くて八歳くらいで作る人ともいるみたいよ、私も来年作るし」


「おおー! いいな、トリファ。作ったらどんな感じか教えてよ」


「まぁ、いいけど。でも、特性やスキルは言わないわよ」


「うん!」


 いやー、この世界は早熟だなあ。

 十歳とか、外で遊んでばっかだったよ。

 それにしても、将来の方向性か、気になることがどんどん増えていくな。


「分かったか? イロハ」


 おお、突然ロディがドヤってる。

 説明はほとんどトリファがやってくれたというのに……お兄さんぶりたいんやな。

 

 そういえば、やけに周りが静かだと思ったら、レジーはロディの横でウトウトしてるし、ミルメは五彩樹に上って枝に座っている。

 ポルタは……これは聞いているのか? 一点を見つめてるぞ。


「ああ、大丈夫。おかげでよくわかったよ。ロディ、トリファ、ありがとう」


「おう」


「どういたしまして~」


 その後は、寝ている者も起こして、みんなであーでもないこーでもないと将来について語り合った。

 ロディはよくわからんが、トリファはお父さんが商人なだけに情報通だなと感心したよ。

 コアの特性、特にスキルについては安易に聞かない、話さないというのが常識らしい。

 

 結局、今日の集まりは、子供特有の将来何になりたい? のお話でした。


 しばらくして、日が傾いてきたので解散となった。


 

 それにしても、貴重な話を聞いてますます知識欲と好奇心に火が付いてしまった。

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