ESCAPE①〜最後の一押し〜
鷹山トシキ
第1話 最後の一押し
☠犠牲者3人
高槻市に住む**結城誠**は、退職代行サービスを運営するカリスマ的なリーダーである。彼の会社「エスケーププラン」は、厳しい上司や劣悪な労働環境に苦しむ人々の退職を成功させることを使命としている。結城は過去に自身が過酷なブラック企業で働いていた経験から、同じ苦しみを味わっている人々を救いたいと強く願っている。
ある日、結城は特に困難な案件を依頼される。依頼者は、超大手企業に勤める若手エリート、**斉藤智樹**。彼は表向きには成功を収めているが、内実は社内での激しい競争や上司からのパワハラで精神的に追い詰められていた。しかし、家庭の事情や自身のプライドから退職を決断できずにいる。斉藤はついに限界に達し、結城に助けを求める。
斉藤の会社は非常に保守的で、退職者には強い圧力をかけることで有名だ。結城は慎重に作戦を練り、斉藤の退職を成功させるためにチームを総動員する。チームメンバーには、法律のエキスパート、心理カウンセラー、ITの専門家が揃っており、それぞれが持つスキルを駆使して、退職のプロセスを進める。
結城たちはまず、斉藤の精神的負担を軽減するためにカウンセリングを行い、彼にとって最適な退職方法を一緒に考える。そして、法律的な知識を駆使して、会社が反撃してきても対応できるように準備を進める。また、IT担当は会社のセキュリティを抜け、円滑に退職が進むようサポートする。
斉藤智樹が勤める会社の名前は「**トリニティ・コンサルティング株式会社**」だ。これは、国内外に広がる影響力を持つ、業界をリードするコンサルティングファームで、特に金融や戦略コンサルティングに強みを持っている。表向きには、厳格で優れたプロフェッショナリズムが求められる職場として高い評価を受けており、社員にはエリート意識が強い人々が集まっている。
### トリニティ・コンサルティング株式会社の社員プロフィール
1. **斉藤智樹**
- **役職:** シニアアナリスト
- **年齢:** 30歳
- **経歴:** 名門大学を卒業後、トリニティ・コンサルティングに入社。入社直後から頭角を現し、短期間でシニアアナリストのポジションに昇進。社内での競争が激しい中、クライアントからも上司からも高い評価を受けているが、その分精神的なプレッシャーも大きくなり、パワハラを受けている。
- **性格:** 真面目で責任感が強いが、プライドが高く、弱みを見せることを極度に嫌う。家族への責任感も強く、退職を決断できずに苦しんでいる。
2. **田村誠一**
- **役職:** チーフコンサルタント
- **年齢:** 45歳
- **経歴:** トリニティ・コンサルティングに20年以上在籍し、数々の大規模プロジェクトを成功に導いてきた。会社内での権力を握るベテラン社員で、若手に対して厳しく当たり、特に斉藤には期待とプレッシャーを押し付けている。
- **性格:** 冷徹で結果主義者。部下に対して厳しい指導を行う一方で、自身の評価を高めるために手段を選ばない。
3. **三島真紀**
- **役職:** 人事部長
- **年齢:** 38歳
- **経歴:** 外資系企業での人事経験を持ち、トリニティ・コンサルティングにヘッドハンティングされた。冷静で理論的な思考を持ち、社員の採用や配置、評価制度において重要な役割を担っている。斉藤の能力を高く評価し、彼の退職を食い止めようとしているが、同時に会社の利益を最優先に考えている。
- **性格:** 知的で計算高く、社内での権力争いにも積極的に関わっている。部下には公平だが、感情よりも合理性を重視する。
4. **中村翔太**
- **役職:** ジュニアコンサルタント
- **年齢:** 28歳
- **経歴:** 斉藤の直属の部下で、トリニティ・コンサルティングに入社してから3年目。斉藤を尊敬しており、彼の影響を強く受けている。斉藤の負担を少しでも減らすために奔走するが、自身もまた厳しい労働環境に苦しんでいる。
- **性格:** 熱心で忠実だが、やや自信に欠ける面がある。上司や同僚との関係を大切にしようと努力している。
斉藤智樹は、もともと医師としてキャリアを積んでいた。彼は大学を卒業後、名門の総合病院で外科医として勤務を始め、患者の命を救うという崇高な使命感を胸に、日々忙殺されるように手術室に立ち続けていた。彼の技術は評判が高く、同僚や上司からの信頼も厚かった。特に斉藤が担当する手術は、難易度が高いものが多く、その成功率も非常に高かった。しかし、ある日、彼の人生を一変させる出来事が起こった。
それは、ある若い女性患者の手術だった。手術の準備は万全で、チームも経験豊富なメンバーばかりだった。手術は予定通り進行し、誰もが成功を疑わなかった。しかし、手術中にわずかなミスが発生し、そのミスが致命的な結果を招いた。斉藤はその瞬間、何が起こったのかを理解したが、すでに手遅れだった。彼女はそのまま命を落としてしまった。
その出来事は、斉藤にとって大きなトラウマとなった。彼は何度もその日のことを思い返し、自分の判断や行動が間違っていなかったかを考え続けた。しかし、どれだけ考えても答えは見つからず、自責の念だけが募るばかりだった。その結果、斉藤は医師としての自信を失い、日々の業務に支障をきたすようになった。
彼は最終的に、医師としてのキャリアを続けることができなくなり、病院を辞める決断をした。医師として働いていた自分が、患者を救うどころか命を奪ってしまったという事実が、彼の心を深く傷つけていた。斉藤は、自分にはもう医師としての資格がないと感じ、新しい道を模索し始めた。
そんな中で彼が出会ったのが、「トリニティ・コンサルティング株式会社」だった。国内外に広がる影響力を持つこのコンサルティングファームは、特に金融や戦略コンサルティングに強みを持ち、業界をリードする存在であった。斉藤は、医師としての過去を捨て去り、全く異なる分野で新たなキャリアを築こうと考えた。
トリニティ・コンサルティングは、エリート意識の強い社員たちが集まり、厳格で高いプロフェッショナリズムが求められる職場であった。斉藤はこの環境に飛び込むことで、過去の自分から逃れ、再出発できるのではないかと期待していた。医療の現場から一転、ビジネスの最前線で新しい挑戦に挑む斉藤。しかし、彼はすぐに気づくことになる。どれだけ環境を変えても、心の中に残る傷は消えることがないということを。
トリニティ・コンサルティングでの業務は苛烈を極め、常に高い成果を求められる日々が続いた。斉藤はそのプレッシャーに押しつぶされそうになりながらも、なんとか食らいついていった。だが、その裏では、彼の心の中で医師としての過去のトラウマが再び頭をもたげ始めていた。特に、厳しいプロジェクトの締め切りや、クライアントからの過度な要求に直面するたびに、斉藤はあの手術の記憶がフラッシュバックすることが多くなっていった。
斉藤は自問した。「このままでは自分は再び壊れてしまうのではないか」と。彼は医師として患者を救うことができなかった自分を許せず、そして今もまた自分を追い詰めている。そんな時、彼の中で結城誠というカウンセラーの存在が大きくなり始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます