第2話 最後の召喚
……え?
思わず彼女を凝視する。
「本気ですか? いえ、冗談でも悪魔は私たちよりも高位の存在です。それをそんなものみたいに言うなんーー」
言葉は、最後まで言えなかった。
乾いた音が響き、右頬が熱を持った。
「ーーちょっと優しい言葉をかけてあげただけなのに、すぐ、つけ上がって! だから、魔力や知識があってもあなたの喚びかけに悪魔が応えないのよ!!」
呆然と右頬を押さえた私を一瞥して、彼女は走り去っていった。
その後に彼女が召喚した悪魔たちも続く。
「……」
ーーだから、魔力や知識があってもあなたの喚びかけに悪魔が応えないのよ!!
彼女に言われた言葉がぐるぐると頭の中を回る。
悪魔が召喚に応じてくれないのは、私の性格のせいなのかしら……。
……そうじゃない、と思いたいけれど。
でも。
ーーだったら、なぜ?
なぜ、誰も喚びかけに応えてくれないの。
理由はわからないけれど、召喚できていないことは事実だ。
私は孤児で、この学園を追い出されたら行くあてもない。
だからこそなんとしてでも、悪魔を召喚しなければならない。
「そのためには……」
魔力と知識しか取り柄がないとはよく言われているけれど。もう一度、召喚陣の勉強をしよう。
◇◇◇
アザグリール学園の召喚部屋の窓から月が見える。
今日は、特別な月夜。
月に一度の赤い月の日だ。
悪魔を喚びだせるのは、赤月の日だけ。
私たち人間の魔力の回路と、魔界の悪魔の回路が繋がるのが、この日だからだ。
私の最後になるかもしれない悪魔召喚。
一度も来てくれたことがないけれど。
今日こそ、喚びかけに応えてくれるかしら。
周囲には、学園長を始めとした学園の教師陣が立っている。
普段は、悪魔召喚師が悪魔を喚びだす際は、召喚師本人だけなのだけれど、今日に限って教師陣がいるのは、見届けるためらしい。
私の退学が決まる瞬間を。
退学が決まれば即、この学園から追い出せるようにだと、親切な女子学生が教えてくれた。
「……」
はぁ、と大きく息を吐き出す。
一度も成功したことがないのに、今日に限って成功するはずがないのは、自分が一番わかっているわ。
でも、こうもあからさまに否定されると腹が立つ。
床に敷いた布に杖で召喚陣を描いていく。
今日はいつもと違う召喚陣にしてみよう。
先日、図書室の古ぼけた本でみた召喚陣だ。
いつもの召喚陣のほうが描き慣れているのはそうだけれど、どうせ今までダメだったのだ。
それならいっそのこと、初めての召喚陣のほうがまだましだろう。
……なんて、やけくそになっているのは否定できないけれど。
記憶を頼りに九重に文字が連なる魔法陣を描いていると、教師の話し声が聞こえた。
「あの召喚陣は……」
「何も見ずに描いているのはさすが特待生だが……」
「ただの欠陥陣を描いたところで、意味もない」
欠陥陣?
その言葉で最後の集中力が途切れた。
最後の文字を書き間違えたのだ。
「ーーあ」
一人の悪魔召喚師が、赤月の日に描ける召喚陣は、一つだけ。
そして、召喚陣は一発書きだ。
間違えても後戻りはできない。
欠陥陣のことはわからないけれど、少なくとも描き間違えた召喚陣に悪魔が応えてくれるはずがない。
ぽたり、と雫が召喚陣に落ちる。
汗か涙かはわからなかった。
「……ナツ」
学園長が、静かな声で私を呼んだ。
私の退学を告げるためだろう。
のろのろと頭をあげて、召喚陣から目を離そうとした、そのとき。
尋常じゃない光が、部屋を、満たした。
「ほう、俺を喚ぶとは」
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