第5話

 拓実の事を好きになったのは、小学生の頃だった。


 そこから振り向いて欲しくて、ひたすらに優しく接した。中学になると、他の子より成長が著しい私のこの身体をチラチラと見てくることがあって、嬉しくも恥ずかしくて、スキンシップを控えていった。


 拓実は朗らかで優しくて、大人しくて、でも心に強い芯があって、それは成長しても変わらなくて、そこが私の大好きなポイントだった。


 赤子の母親が一番に願う「優しい子になって欲しい」をそのまま叶えているような素敵な男の子だった。


 知識欲がすごくて、知らないことをよく知っていて、でもひけらかすわけでもなく、寂しそうな豪志といつも一緒にいようとしていた。


 だから多分優しくてお淑やかな子が好きなんだろうって、メイクにしろ服装にしろ、そういう楚々としたものばかりを揃えていった。


 同じ大学を目指すって言ってくれて、二人で受験を乗り越えた。


 そして、告白してくれた。あの時の拓実の喜んだ可愛らしい笑顔は、昔のままで、想いが叶って、私は嬉しくて泣いた。


 豪志は、小さな頃から粗暴で、拓実を危ない目に合わせるかのように連れ回していて、ずっと腹を立ててたと思う。いや、拓実から近づいていたのは知っていたし、いつも嫉妬していた。


 拓実に支えられているからか、変に自信家で、中学に入ってから女の子を取っ替え引っ替えしていて、よく拓実に女子との体験を漏らして赤くさせていた。


 それが余計にムカついて、強く当たっていた。けど、拓実と一緒の三人はいつも楽しくて、結局はずっと一緒だった。


 でも中学の部活の引退頃だった。


 自分のミスでチームを負けさせてしまったって泣いていた。ちょうどその頃失恋もしたらしく、私はあのいつもの調子の豪志には全然見えなくて、拓実が慰めても全然ダメで、その様子に動揺して、求められるままに身体を許してしまった。


 終わった後、後悔で死にたくなったけど、豪志がスッキリとして立ち直った姿を見て、拓実も喜んでいて、間違えてなかったのだと思うことにした。


 それからは定期的に豪志と交わった。


 我ながら馬鹿だったと思う。


「優しい子」を勘違いしていたのだと思う。


 求められたら答えてしまった。


 多分、あの頃、いくらアピールしても答えてくれない拓実への気持ちを、豪志で晴らしていたんだと思う。今思っても馬鹿みたいな話だけど、わたしはどうやら肉食系で、そんな恥ずかしい一面を拓実には見せたくなくて、豪志だけが知っていて、知っている彼ならいいかと求められるままに許していた。


 豪志は豪志で、拓実への裏切りを、いつも終わった後に後悔を呟いていて、必ずすぐ彼女を作っていた。


 彼女がいる期間はそんな事はせず、私からも求めはしなかった。何度か責任を取りたいと豪志に告白されたけど、やっぱり彼では心が動かなかったし、豪志も本気には到底見えなかった。


 おそらくそれは、拓実から教わったことを実践してただけだった。


 拓実に、男子にまた告白されたんだ、ってふいに言ってしまった時、ようやく拓実はわたしにすごく興味を持ってくれたのか、動揺が表に出ていた。その度にわたしは嬉しくて揶揄ってしまった。


 その裏で、あんなに喘いでいるなんて、拓実には知られたくないのに、知らない私を探して欲しかったのかもしれない。


 豪志は大学は早々と諦めると言っていて、受験と恋に頑張れよって私の背中を押してくれた。


 その時初めて、豪志に依存していたことに気づいた。


 そして拓実は告白してくれた。


 その時は、嬉しくて涙が出た。


 大学時代は通い妻みたいにして、本当に楽しかった。


 でも、拓実とのセックスは豪とは違っていた。


 当たり前だけど、彼は初めてで、その時初めてわたしは後悔の涙を溢した。



『痛かった!?』


『ううん、違うの、嬉しくって…』



 それは本心だったし、本心じゃなかった。


 痛くないことが、痛かった。


 でも、だからこそ大事に思えた。彼との交わりでは満たされるものが違っていた。


 やっぱり私には拓実しかいないと、豪志との一件があったのが、逆に良かったのかもしれない。


 でも、長期の出張が私を狂わせた。

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