清水せんせい

心沢 みうら

報復性夜更かし

 今日も一日、気だるさに身を任せて、ベッドの中で終わらせてしまった。九月のカレンダーにどんどんと赤いバツがついていく現実に、目を背けたままでいる。

 スマホの充電が切れて、充電器に繋いで、代わりにゲーム機を出してキャラクターを育成し、充電が切れたらまたスマホをいじる。そんな怠惰な生活は、夜になって後悔しても翌朝には忘れてしまうので、やめられない。

 学生として生きる最後の夏。ラスト・サマー。

 SNSの投稿によると、同級生たちは「夢の国」を掲げたテーマパークなんかに行っているらしい。楽しそうでいいと思う。わたしとは、まったく別の世界にいる人達。

 わたしの方が優れている。そう見下し、距離をとっていた彼女らは、持ち前のコミュ力というやつで一流企業から内定を勝ち取っていた。

 対するわたしは一向に成果が出ない就活を諦め、あれだけなりたくないと思っていた教員になるための採用二次試験を一週間後に控えている。けれど対策する気にはなれなくて、どこかで落ちてしまいたいとすら思っていた。

 微塵も興味を持てないブラックな職に就くのってどんな感じなんだろうな。いつから、わたしが下になってしまったんだろう。


 「日本で一番偏差値が高い大学に入る」。それがわたしの人生の最大目標であった。中学受験をしていないわたしにとっては、ライバルたちから大幅に遅れをとってのスタート。

 だから高校一年生の時から狂ったように勉強して、勉強して、勉強した。わたしの青春は、どこをとっても勉強である。


 スマホの中で、高学歴配信者の男が幸せそうに話している。届かなかった夢を叶えた人間を見続けるという行為は自傷に近しい。だのに、少しの快楽を伴う。

 確率漸化式、蟻鼻銭、ひがひがし、orphanは孤児を意味する英単語。エトセトラエトセトラ。

 わたしはかつての志望校への執着心は忘れられないくせに、浪人してもう一度頑張ろうと思えない意気地なしだった。一向に上がらない成績に植え付けられた負け犬精神。もう一度落ちてしまったらどうしようとしか、考えられなくて。

 だけど。だけど! あんなに頑張ったんだ。わたしが上に決まっているじゃないか。あんな努力も知らない馬鹿どもの下なわけがないだろう。ふざけるな。


 だめだ、と思った。一日中横たわっているわたしの時計はずっとゼロを指している。ネガティブが出ていってくれない。わたし本当に、何やってるんだろう。

 気づけばつーと頬を流れていた液体を、わたしは慌てて喉の奥に閉じ込めようとした。

 喉が痛くなっただけで、止まらなかった。

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