第20話 罪業武器

 耳をつんざく高音が倉庫内の人間を襲う。

 先日、紗雪が倒したモンスター「獅雀シジャク」。

 発達した声帯から発せられる音で防御不可の攻撃を繰り出すモンスターだが、「獅雀」の持つ空気を貯めて大音波を出す袋状の声帯――「鳴き袋」を加工し、本来大量の空気を必要とするはずの物を少量の空気と強い衝撃で爆音を鳴らす魔道具に加工して使用したのだろう。


 ほぼ密閉された空間で使用されたこともあり、肉体強度の低い学府生達が耳から血を流して昏倒する。


 「チッ……!」


 彼等が倒れる中耳も塞がず平然としたマイが爆音にかき消されながらも舌打ちを鳴らす。

 次いで、紗雪が釘で固定された木箱の蓋を片手でこじ開ける。

 勢いが強すぎてあらぬ方向へと砕けた木箱の木片と釘が飛散する中、急いで紗雪が木箱を確認するとその中身は紗雪の予想が的中した。

 

 「……やっぱり」


 ある程度伸縮するぬいぐるみを詰める木箱とは違う横に広く人が足を延ばして入れそうな程の大きな木箱。

 卵を入れていた箱とは違い釘で厳重に保管されていたのは彼等からすれば卵は雑に扱える物。

 敢えて管理を甘くすることで落とす、何処かに無くすような流出でもしたとして、それでも卵は広がる可能性があるのだから。

 そんな連中が大事に扱う物と言えば――二人にするば案の定というべきか、入っていたのは彼等反勇士が使用する為の武具――怖気も走る呪われた知識の忌物いぶつ


 「「罪業武器ウィルバー・ウェポン」……やっぱり作ってたわねッ!」

 

 大昔、ウィルバー・タールという現代では名を呼ぶことも嫌悪され、鍛冶師等のあらゆる生産職人に忌み嫌われる男がいた。

 幅広い学問に精通しながら、疫病や呪いをまき散らすモンスターや寄生能力を持つモンスター、人間、若しくはそれらを掛け合わせて人為的に創った化け物を素材に悍ましいモノばかりを造り続けた彼は後世にある物を残した。

 使用した者、された者の両方を視界に入れることすら憚られる凄惨な結末を迎えさせる、凡そ人道や倫理観というものが完全に欠如し、罪人の中でも嫌悪する者が多いウィルバーの業を孕んだ武具オリジナル

 若しくは彼が遺し、後継者が裏社会に広めた武具の正しい製法。

 その手順に沿って製作された武具廉価版はウィルバーの死後から永い時を経た現在でも惨たらしい被害を産む災いの武具。

 それらを忌み名として『罪業武器(ウィルバー・ウェポン)』と呼び、大きな社会問題の一つとなり、反勇士達が勇士に対抗する切り札の一つでもある代物だ。

 

 最悪を齎す武具がそれぞれの箱に一本ずつ……計三本を紗雪達は発見した。


「"原本オリジナル"じゃない……粗悪品ね」

「……それでも最悪」


 言葉を交わしながら警報を鳴らしたガタイの良い男と二人は対峙する。

 

「チッ……テメェ等娼婦じゃねぇな! 邪魔しやがって!!」

「……貴方は学府生じゃなかったのね。 彼等を騙してた反勇士だったなんて……油断した」

「餓鬼が……俺達の邪魔をして生きて帰れると思うなよ! テメェ等は飽きるまで使った後に武器にしてやるよ!」

「あっそ。そっちは安心しなよ。手足へし折って「セリフォス」にぶち込むだけで許してあげるから」

「死ねアバズレがッ!」


 怒りで声を荒げ、唾を飛ばす男が傍に合った空の木箱をマイへ投げる。

 速さはそこそこ。ある程度・・・・肉体強度を上げた反勇士なのだろう。


(中級勇士か、その辺りね)


 しかし、迷宮の深層で極限環境下に身を置き、凶悪な反勇士やモンスターと戦い肉体強度を上げて来た最上級勇士であるマイの敵では無い。

 彼女に取っては笑ってしまう程遅く飛んでくる木箱を軽く避けたマイだったが、マイのすぐにある別の木箱の山にぶつかった瞬間――


「【心音スクリーム】!」


 男が能力を発動する。

 音を増幅させ、超高音を発生させる能力が木箱同士がぶつかっただけでは鳴るはずの無いけたたましい爆音を起こし、再び倉庫内に大きな音が反響する。


「うるっさ!」


 生徒達を昏倒させるに至った音の攻撃に近いものを耳元の至近距離で鳴らされたにも関わらずマイは平然としたものだ。

 顔を顰めてはいるが、これはダメージを受けたからでは無い。

 耳元で音を鳴らされて鬱陶しい、程度の軽いイラつきが分かりやすく表に出て来ただけだろう。


(……!? この女、このナリで俺より遥かに強い!!)


 その能力から警報役を任されていた男の顔に焦りが産まれる。


「どう、いうことだよ、クダル……っ」


 今の騒音で目を覚ましていたのだろう。

 破れた鼓膜を治癒させたのか空になったポーションボトルを片手に持ったユクッドがふらつきながら身を起こす。

 詰まりながらも吐かれた言葉は強い困惑を孕んでいた。


「お前……学府生だって、鍛冶師になりたいって言ってたじゃないか……!」

 

 ユクッドの言葉を男――クダルは鼻で笑う。


 「嘘に決まってんだろ能無し……卵を撒くには人手がいるからオメー等にやらせてただけだ。馬鹿も使いようだろうが」

 

 クダルを除いた七人は全員が本当に学府の卒業、もしくは卒業間近の生徒だ。

 互いに夢を叶えられず、それでも諦めない者同士の彼等は互いに強い仲間意識のようなものを持っていた。

 共感していると、思っていた。

 作業中の暇な時間はクダルも一緒になって夢を語り決意を固めていた……はずだったのだ。


「……クランを紹介してくれるってのは……」

「お前等も反勇士になれば俺達の仲間入りだぜ? ま、紹介するつもりだったのは勇士組合じゃなくて反勇士組合犯罪組織だけどな! ダハハ!!」


 反勇士の本性を剝き出しにするクダルが黄ばんだ歯を剝き出して嗤う。

 "愚"直にも信じてしまっていたユクッドの、その裏切られた怒りと絶望を前に、眼前の反勇士はそれはもう楽しそうに、ユクッドに嗤い掛ける

 

「まっ、十年掛けてもゴミみてーな力しか目覚めないお前も『第三原則』を犯して一角の人物に成れたじゃねぇかよ!」

「――――畜生……畜生……ッ!」

 

 良かったなァ! と、他者の未来を汚すことに楽しさを覚えているか、涙を流しユクッドの口から洩れる思いをクダルの不快な笑い声が押し流す。

 自身の悪性を満たし満足したのだろうクダルがユクッドから目を離し、マイと紗雪に意識を向けようとする。

 そんな、胸糞悪い光景を見せられた『翡翠白兎ペレスバニー』は声を掛けず、戦う心構えが整うことすら許さず、目にも止まらぬ速さで男の顎を蹴り抜いた。


「――――――――――」

 

 顎先に伝わる耐え難い激痛が襲うことを自覚したクダルが手で顎を抑えようとして遅れて気付いた。

 自分の身体が一切動かなくなっていることを。

 指先すら動かせなくないことを悟ったクダルは傷みを忘れて心底不思議な表情をする。

 どうして手も、足も動かないのか、どうして自分が倒れ始めているのか、どうして視界の天地が逆転しているのか……。

 何も理解が追いつかないまま思考が急速に鈍り、"顔の上下が反転した"クダルの体が床へうつ伏せに倒れる。

 そんなクダルだが、本能だけは自身の状態を把握していたのだろう。

 

「ころさない……って……」


 自分の発した言葉の意味すら理解出来ていないクダルへ、消えかけの薄い翡翠の光を脚から出したマイが背中を向けてまま答える。

 

「んー、お前は死んだ方が良いって思っちゃったから。使う気無かったけどムカついて能力漏れちゃった」


 踵の高いヒール特有の靴音がクダルから離れていく。

 もはや思考力も消え、意識が昏い底に沈んで行く中で鼓膜を叩いた言葉を、最後までクダルが理解することは無くその人生は終わりを告げた。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 ウィルバー・タール

 迷宮がまだ見つかったばかりの時代に生まれた彼は理性を持たず、常識が著しく欠如した利己的にして排他的な人物だったと言われている。

 親、友人、知人、他人――繋がりの一切を嫌悪していたウィルバーだが、迷宮から持ち帰られたモンスターの死骸を初めて見た時に心を奪われた。

 一人誰にも告げずに迷宮に入った彼はその日から十年……彼が当時の勇士達の手で殺されるまでの間に悍ましいモノを作り、迷宮の奥から世に放ち続けた。


 と歴史書に残ってるやべー奴です。

 作った物の広め方は迷宮内に箱を置き中に制作物を入れる。拾った相手がそれを使う → Let's凄惨。

 の流れがめっちゃ起きて一躍危険人物として名を轟かせます。製法書を何度も作り同様に広めた為、現代でも製法を知っている人が居ます。

 反勇士、勇士問わず素材に良さそうな人間を迷宮内で捕らえては数々の実験や素材にしていた為、人類史で初めて反勇士と勇士が手を組む事態が発生。

 予想外だったウィルバーが逃走を図ったものの結局見つかって殺されました。

 勧善懲悪。


 一説には、獣人族であり、なんだか恐ろしい獣の特徴を持ってたらしいですよ^^


 クダル

 クズ。反勇士って大体こんな感じからこれより性悪なゴミばっかです。

 本当に不愉快な奴ばっかなんでそれが嫌な人は拙作を読むの注意してください。

(クズが好き放題出来るとは限りませんが)

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