一家離散に追い込んでおいて、なぜ好きだなんて言うの

無限大

第1話

 高級住宅街、南青山。

 豪邸が建ち並ぶなか、みなもと葉月はづきは真っ白な一軒家の敷地に入っていった。ハウスキーパーによって手入れされた花壇には大輪の薔薇が咲き誇り、一輪一輪が強い香りを放っている。


「ただいま」


 施錠された玄関ドアに鍵をかざしてパスワードを入力し、葉月はドアを開けた。


「おかえりなさいませ、お嬢様」


 玄関の奥では、トレイを持った家政婦があわただしく歩いている。葉月が声をかけると家政婦は足をとめ、葉月に対し頭を下げた。しかしその表情は何かに動揺しているようで、葉月は違和感を覚える。


「そのお水は、なあに?」

「奥様が召し上がりたいとおっしゃいましたので、お持ちしました」

「あら、お母様はもう帰ってきているの? ちょうど良かったわ。文化祭の主役に決まったって、早く話したかったの!」


 葉月は家政婦と共にリビングへ向かう事にした。家政婦は葉月を見て目を細めている。


「さすがはお嬢様でございます。今年も主役の座を射止められて、奥様もご主人様もお喜びになると思います」

「そうね。おかげで私、幼稚園から高校3年生までずっと主役なのよ! 白薔薇学院はじまって以来の快挙なんですって」


 頑張ってきた甲斐がある。勉強もスポーツも交友関係も、すべて完璧にこなしてきたからこそ射止めた主役だった。

 意気揚々と葉月はリビングのドアを開ける。


「お母様、聞いてください! 私、今年も文化祭で」


 勢いよく話し始めた葉月だったが、部屋の雰囲気を察してすぐに口をつぐんだ。

 広いリビングの中央では、大きなソファーに腰かけた母が髪を振り乱し頭を抱えている。


「お、お母様? どうしたのですか」


 葉月は恐る恐る母に近づいて、ソファーの前方が見えたところで足を止めた。

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