百合少女はVTuberになれない。 〜いつか私も、あなたのように輝けますか?〜

夕白颯汰

第1話 私はあなたになりたくて

「――こんひな〜〜っ! みんなおはよう、今日も笑顔が眩しい日向空ひなそらツキミです!」


 :お、始まったぞ

 :遅刻だよひなたん

 :遅刻記録、また更新したな

 :まったくこの子ったら朝が弱いんだから……

 :母親ムーブかますなww

 :遅刻とは、食パン咥えて配信かな?

 :ご飯食べたの?


「ごめんごめんっ、ちょっと寝坊しちゃって……気づいたら開始五分前になってたんだよー! 急いで着替えて準備したから、もう……ふ、ふぁぁぁあっ……」


 :あくび可愛すぎだろ

 :猫かと

 :朝からこの声が聞けるなんて

 :やばい、いろいろ充電されたわ

 :ちょっと待て、俺は騙されないぞ。遅刻したからには誠意を見せてもらわないと

 :せ、誠意だと?

 :たしかに↑

 :遅刻魔ですもんね……


「ええぇっ、もうみんな勘弁してよー……!」


 :あのあくびをもう一回

 :くしゃみをマイクの側でしてくれたら許すぞ

 :あまあまボイスでおはようが欲しい!

 :こうなったらASMR

 :もう後には退けぬぞひなたん!


「うぅーん……もう、みんなしょうがないなぁー……」


 :お、やってくれる?

 :ノリ👍

 :なにすんのー

 :全員、音量を二倍にしましょう


「よーし、日向空ツキミ、とっておきのやついきまーすっ!」


 :来い、耳に焼き付けてやる

 :とっておき?

 :わくわく

 :ドキがムネムネしちゃうぞ


「…………」


 :あれ、なんも言わない

 :唐突なもじもじタイム


「…………」


 :どした、俺はどんなひなたんでも受け止めるぞ

 :勝手に父親になるな、その役目は俺のもの

 :お腹がdecrease?

 :おや、ひなたんの様子がおかしい……

 :進化しちゃう?

 :……いや、お前ら待て! まずいぞ、これはもしかして――


「……ごめんね、待った……?」


 :ぐはぁぁああっっっ

 :ぷしゅぅぅぅぅ←何かが抜ける音

 :いま来たところだよ(キリッ)

 :ああいきててよかったぁぁぁ

 :来世でまた会おう……

 :リスナーを尊死させる気ですか??

 :反則。上目遣い✕震え声は自我が崩壊します


「もー、恥ずかしーっ! ツキミ、二度とこんなことはしないよ!」


 :ええええ(泣)

 ;それは困る、生死に関わる

 :[¥2000]あ、思わずスパチャしてしまった

 :めっちゃ可愛かったのに!

 :人類史上最も尊い声だった


「え、そ、そうかな……? えへへっ……」


 :……うん、チョロ

 :むしろ罪悪感が湧いてくる

 :ひなたん、悪い大人には気をつけようね。ところでこのあとウチに来ない?

 :おまわりさーん、ここでーす↑


「うーん……なんかよくわかんないけど、許してくれたみたいだからいっか!」 


 :純情なままのひなたんでいてくれ

 :俺はきっと、この日を忘れないよ


「じゃ、配信やってくよー! みんないくよ、せーのっ」


「「ひなすた!」」


 ◆ ◆ ◆


 三時間にも及ぶ配信を見終わって、私はイヤホンを外した。

 流石に耳も腰も痛い。扉を開けて押し入れから出る。

 スマホの中では、まだ熱狂の覚めやらない視聴者たちが感想を述べている。


 :あぁー、今日はいろいろ問題発言あっておもろかったわ

 :最初のひなたんが忘れられん

 :今度寝坊したらASMRで

 :もう三時間かぁ、時間経つの早すぎ

 :うそだろ……明日締め切りの報告書がまっさらだ

 :次の配信あさってか。重大発表てなに

 :神回の予感

 :今日のも神回だろ


 ほんとうに……充実した時間だった。自分がどこにいるのかわからなくなるほどに、画面の中へ没入してしまっていた。

 おかげで少々まぶたが重い。フラフラ歩いて、ぼふっとベッドに倒れ込む。


「ふうっ……」


 四肢が重力から解放され、どこからともなく声が漏れる。

 仰向けのままスマホを見ると、もうコメントは止まっていた。これで今日の配信も完全に終了したというわけだ。

 私は少し悩んで、誰も見ていないであろうコメント欄にひとこと残した。


「ひなたん、好き」


 電源を切ってスマホをどこかに投げやると、私は腕に顔を埋めた。

 すぐに意識はまどろんでいく。私はそれに抗わず、ただ睡魔に従って深い闇の中へと落ちていった。

 こうして私は二度寝をした。八月十四日水曜日――


 ◆ ◆ ◆


 VTuber――それは二次元と三次元をつなぎ人々に「癒やし」「笑い」「恋」「感動」を与える人間。

 2024年現在、VTuber業界は莫大な利益と人員を抱え、もはや新たな日本文化となりつつある。

 おそらくその要因としては、社会全体が人間というものに対して寛容になったからではないかと、どこかのテレビでなにかの専門家が言っていた。

 2000年代になって、人々は性別や個性といったあらゆる「違い」に数倍も敏感になったんだとか。

 日本ではそれらを起因として人権問題が起こるたびに個人の意思だの少数派の尊重だの叫ばれるが、その考え方が具体的な形を持ったのがVTuberなのではないか、とも語っていた。

 その専門家が言うには、VTuberはあらゆる人間同士の確執や差別を乗り越えて活動、発言できる存在なのだ。

 つまるところ、日本ではVTuberの活動の影響で少数者を尊重する会社、集団が増えてきている、と。

 それは一見、正しいことをいっているように思えるかもしれない。

 傍から見ている人間にとっては事実なのかもしれない。

 でも。

 私はまったく、そう思わない。

 少数者、マイノリティの差別なんて、絶えを知らぬほどそこかしこに蔓延っている。

 例えば障害者。公共の場で彼らを邪険にしない人間がほとんどだろうか?

 例えば女性。本当に、「女性らしさ」というものを求めていないだろうか?

 そして、LGBTQ+――性的少数者と呼ばれる人々。男が男を、女が女を好いても受け入れられるだろうか?

 答えは絶対的に、否。



◆ ◆ ◆



「ねぇ……凜花さ、あんた女子が好きっていうの本当なの?」

「え……?」

「学年で噂になってるよ。凜花はいつも女子のことを目で追って、興奮してるんだって」

「な……なんで、誰が言ってるの!? そんな、根も葉もないこと……」

「だから噂だって。で、どうなの? 嘘なら嘘でいいんだけど」


 私の席に集まってきた三人の友達。彼女たちはあくまでも冷静だった。


「ただ正しいのなら……もう、関わるのはやめようかなって」

「だって、レズビアンって言うの? そういう人ってみんな、まともに付き合えないじゃん」

「それに、どんな目で見られてるのか……正直こわいし」

「凜花はどっち? 男が好きなの? 女が好きなの?」


 私は言葉に詰まった。

 なぜなら、彼女たちの問いは正しかったから。

 私は確かに――同性が、好きだ。

 それに気づいたのはいつだったか。

 人の目を気にし始める中学生のときかもしれないし、もっと前かもしれない。

 時期や理由はともかく、今、私は女の子をそういう目で見てしまう。

 普段の授業でも、体育の着替えでも、水泳のときも、その体が目に入っただけで体が火照って疼くのを感じるのだ。

 それがなによりの、「レズビアン」である証拠。


「わ、私は……」

「はっきり言ってよ、凜花」

「だから、私が、好きなのは」

「凜花、もうこの際みんなに言っちゃいなよ? そのほうが誤解が解けて楽だよ?」

「ほら、もっとおっきい声で」


 彼女たちは私を仲間にするつもりだ。或いはその逆、不穏な存在として排除するつもりだ。

 向けられるクラスメイトの目は、どこまでも黒く、濁って、私という存在を品定めしていた。

 気づけば私は、強く机を叩いて勢いよく立ち上がり、口にしていた。


「……わたし、私はっ!」


 声は教室を飛び出て廊下にまで響く。

 一瞬、学校全体が静まり返る。

 それでも私の言葉は止まらなかった。


「私は、ほんとうは、女の子が好きだよ! それのどこが……どこが悪いの!?」


 教室の空気が凍りつく。それと同時に、私への視線も。


「ねぇ、それって……変なことかな? 女の子は男の子を好きになるものなの? 私は違うっ、ほんとうはそうじゃない! それってよくないこと!? 間違ってるの!?」


 彼女たちの顔は、もはや小揺るぎもしない。


「どうして……私は別に悪くないのに、どうして気持ち悪いって噂されなきゃいけないの!?」


 私の問い――叫びに応える者はおらず。


「私はそうなんだから、仕方ない、どうしようもないよっ!」


 また、私の言葉を受け入れる者もいない。


「別に……おかしなことじゃないよ。そういう人だって確かにいるし……!」


 だからどうか、そんな目で私を見ないでほしい。


「ぜんぜん、普通のことで……どうして、みんなそれを――」

「わかった」

「……え」

「わかったから、凜花がどういう人間なのか」


 もうその目は私を見ていなかった。彼女の視界から、私は消えたのだ。


「だからもう、話しかけないでね」


 あのとき、笑ってやり過ごすのがただ正しかったのかもしれない。

 でも今となっては――何が正解かなんて、私にはわからないよ。



◆ ◆ ◆



 日向空ツキミ――通称「ひなたん」は、大手芸能事務所〈スターサイン〉に所属するVTuberだ。

 おととし四月、スターサイン新人VTuber募集にて約三千人の中から素質を見出され、同年夏に鮮烈なデビューを果たした。

 オレンジの長く明るい髪に対し、蒼碧の瞳と夜空をイメージした美麗な衣装が特徴的だ。「みんなを照らす太陽と月」と宣言している。


「ひなたんの魅力は、なんと言ってもその天然っぷり……」


 彼女の本領は生配信にある。

 素をさらけ出した天然の発言は笑いを呼び、かわいさの中にときどき見せる母性や儚さはリスナーを「尊死」させる。

 ひなたんは雑談配信やゲーム配信といった王道の企画も強いし歌も上手いのだが、


「やっぱり、ひなたんは寝起き配信だよね……」


 朝の七時から三時間かけて行われる「寝起き配信」。

 リスナーの心に焼き付くようなひなたんが見られる最高の企画だ。これがもっとも人気と言っても過言ではないだろう。

 今朝の配信もそうだったが、ひなたんには見守りたくなるような、助けてあげたくなるようなかわいさがある。

 彼女がしゅんとすれば、或いは声を上げて喜べば、なんだかこちらも微笑ましくなる。


 彼女のリスナーは男女問わず多く、その人気は留まることを知らず今ではもはやトップレベル――チャンネル登録者数は百万人を突破している。

 まもなく二百万人も突破するだろう。来月には〈スターサイン全期生歌声対決〉や〈他事務所コラボ雑談〉といった大きな企画を控え、さらには企業との連携も予定されている。

 いま最も勢いのあるVTuber。だが――私にとってはそれだけではない。

 私は彼女に、恋をしてしまったのだ。


「こんひな〜〜っ! みんなの心を照らす太陽、日向空ツキミです! 今日も配信やってくよー!」


 :きた

 :きちゃー!

 :待ってたぜ

 :あぁ……ひなたん……

 :今日も俺をデロデロにしてやってください

 :めちゃたのしみ


「わっ、もう五万もいる! みんな見てくれてありがと〜!」


 :ほんとだ

 :やっぱいつもより人多いな

 :まぁ金曜の夜やしね

 :仕事疲れに効くわ

 :配信を見ることが仕事です


「さてっ、今日は重大発表ってことでやってくんだけど……ちょっとその前に……」


 :なになに

 :どっちも気になる

 :画面まっしろ

 :なにすんのー?


「よっ……じゃじゃーんっ!」


『ひなたんのさんさんポスト』


 :わ

 :うわっ

 :まじか

 :ひなポスやん

 :おひさ

 :ほんとひさしぶり

 :てっきりもうなくなったのかと

 :前回やったのいつ?

 :たしかに最近見てなかった

 :一ヶ月前とか?

 :いやもっと前。少なくとも先々月な気が


「あれ……気づいちゃった?」


 :気づいちゃったって

 :わかってたんか

 :もはや懐かしいぞひなポス

 :ゲーム配信ばっかだったからな

 :ひなたん……サボってたんだね……


「えへへ……ごめんごめん! 実はコメントけっこう溜まってたんだけど、なんとなく毎回やりそこねちゃってね……。それで今日になって、マネージャーさんに『いい加減ひなポスを動かせ』っておこら……いや注意されたの」


 :ひなポス好きよ

 :再開待ってました

 :マネージャーさん、やりよるな

 :おこら……なんだって?

 :怒られてしゅんとしてるひなたんを見てみたかった


「しかも、『VTuberにいちばん大事なのはリスナーなんだから。楽しみにしてた人もいるはずよ? サボってたことを謝ってきなさい』って言われちゃった」


 :厳しいのね

 :まあこうやって再開するのは偉い


「みなさんサボっててごめんなさい! お詫びに今日はひなポスたくさん答えるから許してっ!」


 :しゃーなし

 :期待してるぞ

 :問題発言カモーン

 :得意の母親声で泣かせてくれよ

 :笑いあり涙ありサボりあり。それがひなたん


「あ、ありがとうみんな〜〜! それじゃ、二ヶ月ぶりのひなポスやってくよー! せーのっ」


「「ひなすた!」」



 ◆ ◆ ◆



『いつも楽しんで見させてもらってます。配信のときはときどきピザの出前を頼むんですが、ピ○ハットのハットってなんだろうと気になって調べたら、どうやら小屋って意味らしいです』


「えぇぇぇぇぇぇぇっ! ピ○ハットのハットって帽子じゃないの!? あれ小屋なのぉっ!?」


 :初耳だわ

 :声でか、耳やられる

 :ためになるポスト

 :あのロゴ帽子にしか見えんけど

 :よく考えたら「ピザ帽子」ってやばいな


 ここで私もコメントを書く。


 :もしひなたんとコラボしてたら毎日行っちゃう


「ふえぇぇ、世界は広いなぁ……。それじゃ次のコメント!」


『最近、びっくりしたことって何かありますか?』


「びっくりしたこと……あ、一個すごいのがあるよ! この前買い物に行ってエレベーターに乗ったんだけど、中でボタンを二回押してみたら……閉じ込められちゃったんだよ! 動かないし、ドアも開かないしですごく怖かった! 結局、しばらくしたら誰かが使ったみたいで動き出したんだけど」


 :……

 :……

 :……ふう

 :……へぇぇぇ


「あれ、みんなどうしたの? 急に黙っちゃって……」


 :ひなたん……それはエレベーターなんだよね?

 :そりゃ当たり前だ

 :二回押したら行き先が取り消されるモンなんよ

 :そうじゃなきゃエレベーターなんてただの箱だぞ

 :天然で知らんとは

 :さすが天然百パーセントひなたん


「え……えええぇぇぇぇぇぇっっっ!? ちょっ、え、そうなのっっ!? 閉じ込められたわけじゃないの!?」


 :今度こそ恥ずかしいね

 :それぐらいは子供でもわかる

 :またひとつ、ひなたんの伝説が増えるな


「んぬーっ……言わなければよかったぁ!」


 :きっと今、ひなたんはホカホカに茹で上がってるんだろうな

 :そんなところもかわいいんだわ

 :まあ面白かったから結果オーライでしょ


「もう、恥ずかしいよ! ……あっ、もうこんな時間だ、そろそろ本題に移らないとね」


 :おっ、ついにきた

 :逃げた……のか?

 :本題に入るまでが楽しすぎた


「こほん。えー、それでは! 今日は皆さんに、わたし日向空ツキミから重大な発表があります!」


 私はゴクリと唾をのむ。


「それはいったい何でしょう?」


 :発表と言っておきながらこっちに振るなww

 :なんだろ

 :新イベ?

 :コラボとかだったら嬉しすぎる

 :曲でも出すんかな

 :たしかにそれは重大発表

 :ワンチャン


「うーん、違いますね……。じゃあそろそろ、発表しちゃおっかな!」


 :はよ聞きたい!

 :なんなんだろ

 :まあ最高なのは確実

 :全員、スパチャ準備だ!


「――なんと!」


「このたびスターサインは、新人VTuberを募集します! 選ばれた方は、再来月にデビューしますっ!!」


 :!?

 :……!?

 :マ!?

 :なにー!?

 :新人来んの!?

 :聞き間違いだきっと!


「いえ、あのノリで言っちゃったからあれかもしれないですけど、嘘でも冗談でもないですよ!」


 :まじで……!?

 :信じられん……

 :それめっちゃいいことやん!

 :新人とか、おめでた


「そうそう、おめでたいんですよ! なんでも、私の登録者数が百万人を超えたら新人を募集してもいい、って事務所が言ってくれましてねー」


 :なるほど

 :スターサインってもうかなり抱えてるもんな

 :多分五十人ぐらいいた

 :ひなたんの頑張りのおかげで、また拡大できるようになったってことか!


「そうですそうです! しかも、今回は私の功績なので……新人の子は、私の妹になるんですよー! つまり私がお姉さんですっ!」


 :なんやてクドウ!?

 :ひなたんの……いもうと……

 :姉のひなたん、だと……!?

 :それ、絵面が罪なことになるんだけど!

 :尊死だな、確定

 :ひなたんのお姉さんキャラ、絶対麗しい

 :[¥5000]

 :[¥10000]

 :[¥20000]


「わわわっ! なんかすごいことになってくよ!」


 :嬉しい……ひなたん神

 :スターサインもひなたんも、これからもっと成長してくれ

 :ひなたんの新しい顔にも、新人の力にも期待!


「えへへー、そんなに喜んでもらえるとは思わなかったよ! じゃ、ここで事務所からのメッセージを」




「――スターサインは、このたび新人VTuberを募集します。唯一無二の才能と光る個性をもつ、次世代のリーダーを求めています。年齢を問わない全ての女性が参加可能です。選考面接は2024年9月30日に行われます。この募集に参加希望の方は9月1日までに、特設ホームページにて要項を確認し書類を送付して下さい。結果は一週間後に、電話でのお知らせとなります。なお、合格となるのは全体の募集数に関係なく、。」


 


 私の心臓は、いつの間にか高鳴っていた。


 ――新人VTuber。


 なんだか、やってみたい。


 こんな私でも、VTuberならできるんじゃないか。

 学校に行っていなくても、同性が好きなレズビアンであっても。

 だって、VTuberは自由なんだから。


 ……なりたい。ひなたんみたいなVTuberになりたい。

 そしていつか、私がレズビアンであることを、恥じずに堂々と宣言したい。他人とぶつかることのできない自分と決別したい。


 決めた。私はVTuberを目指そう。たとえ人気がなくても、少しずつ進んで、彼女を超える最高のVTuberになるんだ。

 

 私はスマホを動かし、スターサインのホームページを隅々まで読んでから、机に向かって書類を書き始める。

 名前を書く。電話番号を記す。自分の写真を撮る。自分のいいところを書く。

 やがて字で埋め尽くされたそれを、ひとつ伸びをしてから、便箋に入れて糊で閉じる。

 玄関の扉を開けて、外に出て、ポストに躊躇いなく入れる。


 ――こうして私は、引きこもりの百合少女は、新人VTuberの募集に参加した。




 そして落ちた。

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