骨董屋『ぼったくり』
涼月
第1話 一期一会
古い物を見ると血が騒ぐのは、祖父の影響だと思う。
だから、出張先で時間調整している時、路地裏で見つけた京町家風の建物に吸い込まれるように立ち寄ったのは必然だ。
大戸に掲げられた暖簾には、藍に白字で『骨董屋 ぼったくり』の文字。
ぼったくり等と自ら名乗る潔さに、思わず笑みが溢れてしまう。
一応
けれど、計ったかのようにからりと開いた格子戸から、着流し姿の男が顔を出して「いらっしゃいませ」と誘われてしまったら、断りづらいというものだ。
色白で美麗なその男は、無造作に組紐で一つに結んだ長髪をサラリと揺らして微笑んだ。
「どうぞ、心ゆくまでご覧ください」
「……」
俺は返す言葉を思いつかず、黙って頷いて目の前の品に目を落とした。
真ん中に「◯」と書かれただけの茶掛け。
「円相ですね。名のある禅僧の手による物ではありませんが、勢いがありますよね」
確かに、書き手の覚悟が伝わるような力強い線は、俺の心を鷲掴みにしてきた。まだ一品しか見ていないというのに、それ以外は考えられないくらい強烈な魅力に支配されてしまう。
これぞ一期一会の出会いという物だな……
「いかがですか? 言い値で構いませんよ」
「えっ!?」
『ぼったくり』なんて名乗っていながら、客の言い値で売ってくれるなんて、どういう風の吹き回しだろうか?
そうっと財布の中身を盗み見れば、千円札と一万円札が一枚ずつ。
試しに千円って言ったら、流石に断られるだろうな。
でも、イケメンの困り顔を見てみたいという謎の欲望が湧いてきて、俺はそのまま口に出してしまった。
「千……円……」
「かしこまりました」
えっ、嘘だろ!?
だが、店主は丁重に頭を下げると、そそくさと包みだしてしまった。
「あの……やっぱり」
「大丈夫ですよ。ぼったくりですから」
潤む琥珀の瞳を真っ直ぐにこちらへと向けながら、きゅうっと形良い弧を描く唇。
匂い立つ香気は、男の俺でもドキリとするくらいだった―――
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