生活(仮)
玄瀬れい
生活(仮)
ミミミミミーンミンミーーン。
酷く耳を掠める蝉の音が私の眠りを妨げる。
ピリリリリーン。
鳴り響く時計を見る。はあ。いつもいつも私の1日に始まりを告げるアラーム。そのアラームより先に起きる朝ほど不快なことはないと思う。
ベッドから降りて一階に向かう。冷蔵庫の中には水のペットボトルが数本と毎日届けてもらっている冷凍の料理。今日は食べる気力も起こらず、部屋に戻りお気に入りのグミを口に放り投げた。
クローゼットに向かい、8/15と書かれた箱を取り出す。前からはずっとこれ。性格、身長、体重、服の趣味について質問に答えると、毎日コーデを選んでくれるというサービスを使っている。箱の中の服に時々不満もあるが、別に気にせずそのまま着ている。
今日の服はブラウンのシャツと胡桃色のスカート。そういえば、友達とのお出かけコーデを申請するのを忘れていた。まあ、いっか。
30分ほどかけて化粧をし、車に乗り込むと、ハンドルの横のキーシリンダーに鍵を差し込む。ハンドルを握りながら憂鬱を感じる。
料理もファッションも人任せにして女として自分が失格なのもわかっているけど、私が女でなくても人でなくても良いから、この運転を勝手に誰かがやってくれたらと考えるのだ。
しっかりと一緒に出かける二人を迎えに上がり、三人に増えた乗客をそんな無責任な私が運ぶ。だからかな。
あの事故に巻き込まれたのは。
◇
それでも残念ながら私は人間なんだ。
だから心を持っていた。それがいけなかった。
二人を含め三人が乗った車は交差点で急にハンドルが右に切られてビルに衝突した。私の操作ではなかった。むしろ勝手に動いたようだった。二人にも他の誰にもこれを言っても通じないのだろうけど、確かに今私の意思に反してハンドルが動いた。まさに自動運転のように。
焦りによって私は車から逃げてきていた。たまたま衝突でむき出しになったビルの地下に進み、行き止まりで立ち止まった。見るからにお宝の入った宝箱があったのだ。
私は何を思ったか思いきってそれを開けた。
中からはかの有名な黄金のランプが現れた。
私は完全にネジが外れ、欲望のままにそれを擦った。
「ほう。我を目覚めさせる迷いの徒はいかなる器の大きさじゃ?」
目をギラリとさせ獲物を狙うケルベロスの怪物のように私を睨んだ。
「なんと臭い女じゃ。まあ良い。私はランプの魔人。貴殿の願い三つ叶えよう」
……腕を組み考える。どうこの三回を有効活用するか。
……って、飯も服も人に任せるのに、結局私も欲の塊だったんだな。
「じゃあ、とりあえず今来ている追手とかその他諸々、自分に不利益な物一切から、今後も追われないように逃がして」
「承知」
生活(仮) 玄瀬れい @kaerunouta0312
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