逆転ヤンデレ変身ヒロインと洗脳闇堕ち復帰済みサド改造人間の勘違いドッカンバトルon地球空洞説ファンタジーSF異世界インモラルラブコメ
所羅門ヒトリモン
Episode 1 「激重相互感情幼馴染」
少女の姿をした『星』に、出会ったことがあるか?
俺はある。
「なぜ剣を取ったのか、ですか? そうですね。好きだと思ったんです」
──剣を取ることが?
「いいえ。彼らの笑顔が」
──だから、オマエが代わりに戦うのかよ?
「はい。私にとっては、それで充分でした」
──嘘だろう?
「かもしれません」
──なら、今からでもいい。やめてしまえ。
「いいえ。それはダメです」
──なんで?
「この剣は、たくさんの人々を笑顔にしていました」
剣を取る前に、剣が作る未来を視たのだと。
そいつは臆面もなく語った。
自分が戦うことで、より多くの誰かを笑顔にできるのなら、喜んで戦場に立つ。
もちろん、そいつ自身に戦う理由なんて、本来は何処にも無い。
目を背け、後ろを向き、何も無かったとして元来た道に戻れば、アッサリと話は終わり。
物語はきっと、別の誰かが主人公となって、何の問題もなく進行しただろう。
人ひとりが欠けたコトで、致命的なエラーを起こしてしまう世界なんてものは、有史以来何処にもありはしない。
なのに、そいつは自分の元に訪れた
……要領が見えない?
なら、そろそろ簡潔に説明しよう。
これは俺の幼馴染が『変身ヒロイン』になった時の
悪を打ち倒し、闇を薙ぎ払い、弱きを救って正義を為す戦闘美少女──変身ヒロイン。
そうだな。
日曜朝の女児向けアニメ。
深夜アニメの魔法少女もの。
変身ヒロインって何だ? って疑問に思った人がいれば、あのあたりを参照してくれれば、イメージを分かりやすく掴めると思う。
昨今は色んなジャンルの変身ヒロインがいるが、王道は変わらない。
だが、
そのため、『変身ヒロイン』という概念についても、申し訳ないが少しばかり注釈させてくれ。
今しがたニチアサの女児向けアニメや魔法少女モノを例に挙げたばかりで恐縮なのだが、この世界では変身ヒロインを、『変身ヒーロー』の文脈で捉えてもらった方がいいかもしれない。
いわゆる、特撮と呼ばれるジャンルだな。
怪人と戦う改造人間のバイク乗り。有名だから、男なら当然誰でも知っているはずだ。
深夜の特撮だと、ちょっとダークでエロティックな、アクションシーンの激しいのもあるよな?
俺の幼馴染は、どちらかというと
フリフリヒラヒラした、可愛い一辺倒のコスチュームは身に纏わない。
素肌や素顔は晒さず、変身時に身につけるのは、常にフルフェイスのバトルアーマーと厨二心満載の武器。
イメージとしちゃ、パワードスーツだったり西洋の
ああいうのをとにかく煌びやかにして、めっちゃカッコよくしたやつ。
まあ、この辺は個人の感受性に拠るところもあるだろうし、実際の解釈はそれぞれに任せたいところだが、何はともあれ、これだけは伝えておきたい。
少なくとも、俺はこう思った。
──
男女の価値観が逆転した事実を認識していることからも分かるように、俺は前世の記憶を持つ。
そして、変身ヒーローが嫌いな男の子はいない。
近頃はなんだ。主語を大きくして断言するのは、色々と難しい世の中になってしまってはいるが、それでも敢えて言わせてもらおう。
男の子は、変身ヒーローが大好きなのだ!
で、この世界では変身ヒロインが、その役目を負っていた。
なら推すしかないだろう? 推しは推せる時に推せ。
しかし。
……繰り返すようだが、困ったことにこの世界は、男女の価値観がやや逆転している。
変身ヒロインは変身ヒーローではなく。
そのカッコ良さとキャラデザが、どんなに少年魂をくすぐる素晴らしい在り方をしていても、中身は〝美少女〟なのである。
だから困った。
……何にって?
口に出すのは憚られるけど、とにかく
聡明な紳士諸兄には、きっとお分かりいただけるだろう。
変身ヒロインって、エッチじゃない?
いや、常日頃の姿からエッチと言っているワケじゃなくて。
何というか、敵に追い詰められて苦しめられて、絶望的な状況で負けそうになってたりする時。
追い詰められているんだから当たり前だが、「うぅッ」とか「ああッ!」とか「そんな!」とかさぁ……苦悶の声をあげて、彼女たちってひどく呻いたり叫んだりするじゃないですか。
いや、男だったらだよ?
ヒーローなら立ち上がれ。
男なら前を向け。
苦しくても辛くても。
守るべき誰か。
愛しき誰かの盾となって、英雄らしく吼えて戦え。
そんな風に「うおおおおぉ!」と握り拳を作って、邪念無くピュアに応援できる。
でも、この世界の『
強大な敵と厳しい戦いになると、『破損』とか『露出』とかがあるワケですよ。
正義の美少女ヒロインが、敗北時に下手すりゃ『強制外装解除』とかされて、インナースーツ丸出しのとんでもない目に遭うワケですよ。
俺はリョナとか曇らせとかは、ハッキリ言って趣味じゃない。
なので、決して可哀想なのが可愛いとか浅はかに言いたいワケじゃないんですが……ああいうシーンって軽度なら、結構エッチに思う人たくさんいるんじゃないですかね? いや、俺はよく分かりませんよ?
ちなみに、俺は小学生の時に給食の時間、落とした牛乳パックを踏んづけて転んで、中身を頭から被ってわんわん泣く同級生の子を見て、ゾクッとしたものを感じた経験がありますが。
まあこのくらいはね? 目覚めの切っ掛けとしちゃ、たぶん普通の枠に入るんじゃないですか?
仮にそこからの性的嗜好が、多少異常かもしれなくても、まーだほんの少しサドのケがあるくらいだと思います。
あと、何ていうんだろう……メカバレ? とか、そういう性癖にも通じるかもしれないかな?
強くてカッコ良くてめっちゃ頼りになる『変身ヒロイン』も、一枚めくったら実は……みたいなね?
そういうの、なんかこう……得も言われぬ気持ちになって、とても困らない? いや、この際だからハッキリ言ってしまうか。正直めっちゃ興奮するよなァ!?
でも、仕方がないじゃないですかー。
昔は純朴だった少年も、時が経てばインターネットでエロ動画を検索するようになるし、男は皆んな少年の心を飼いながら、常に愛を求めて悲しき咆哮をあげる内なる獣をも多頭飼育しなきゃいけないんだ。
それが成長ってものだ。誰か俺を慰めてくれよ! クゥーン! 俺は葛藤しながら思春期を過ごした。
で、
そいつの名前は、
名前からも推察できる通り、ハーフである。
母親が日本人で、父親がフランス人。
なかなか良い家柄のようで、私服の時はいつも白のフリルシャツにロングのコルセットスカート。
良家の子女であることを一目で余人に伝え、長い金髪を青色のリボンでポニーテールにし、前髪は麗しきパッツン。
目は常磐色の鮮やかなグリーン。背は少しだが同年代より高め。
習い事として、昔から地元の道場で剣道を習っていた。
クロエと出会ったのは、お互いにまだ幼稚園児だった頃。
俺は両親の子育ての方針で、文武両道を求められていた。
身体は早い内から動かしていた方がいいからと、何かスポーツをしなさいと言われ、面倒くさかった俺は、家から一番近かったクロエと同じ道場を選択した。
縁が生まれたのは偶然で、特に仲良くなろうと思って仲良くなった記憶は無い。
ただ、道場の中はすでにある程度の人間関係が出来上がっていて、幼稚園児とはいえ既存のグループの輪に飛び込むには、武道という性質のせいもあるだろう。体育会系的な先輩後輩の雰囲気が蔓延し、多少の壁があった。今思い出しても、アイツら感じが悪い。
実際、性格も良くなかったと思う。
なぜなら、クロエは孤立していた。
ハーフであり、金髪緑眼。
武道には対戦相手を尊重し、礼儀を学ぶ側面もあるが、伝統ある道場というのは、得てして古くからの因習に縛られるもの。
地元間の繋がりや、親同士のパワーバランスなどから、そこで洗脳された子どもたちも、当時外資系企業の重役一家として有名だった白星家を、〝余所者〟と遠ざける傾向が強かった。
俺はバカらしくて、かと言って巻き添えになるのも嫌だったから、クロエと同じく誰とも馴れ合わずに道場での時間を潰した。
しかしながら、余り物がふたり揃えば、何かと試合などで組まされるもので、表立って仲良くなるつもりは無くても、必要に応じて次第に言葉を交わす機会は増えていった。
小学校、中学校、そして高校。
気がつけば、それだけの付き合いが続き、幼馴染みと呼べる関係にまで。
予想に反して、道場を短期間で去らなかったことを認めもしたのだろう。
周囲の反応も、身体が大きくなるにつれて、クロエや俺を段々と受け入れるものに変わっていき、あからさまな拒絶ムードは、高校入学時にはほぼ気にならなくなった。
けれど、クロエにとっては、そうではなかったのだろう。
あの日、俺たちが住んでいる街には、強い地震が起こった。
そして、何が起こったかと言えば、大きな地割れが生じた。
地割れはポータルと繋がっていて、たまたま落ちるしかなかった俺とクロエは、そこでホロウ・アースへ迷い込んだ。
地球空洞説。
聞いたコトくらいはあるだろう?
地底世界アガルタとか、失われたアトランティスやらムー大陸やら。
すべてはそこに眠っていて、しかし、まったくの異世界と繋がっていた。
怪物と怪人、絶滅したはずの古生物、剣と魔法。
クロエは、流れ着いたそこで〈
よくある展開だ。
幼い頃から悩みを抱えていた少年少女が、ある日、大事件に巻き込まれたコトでスーパーパワーを手に入れる。
ホロウ・アースには独自の文明が発展していて、そこで暮らす人々は、〈
天才的な〈
自らの才能や努力が順当に認められ、出自や親の評判に付きまとう、気色の悪い色眼鏡にも悩まされない世界。
何より、ホロウ・アースではクロエは〝ただのクロエ〟だった。
街の繋がりや、くだらない因習とは無縁。
きっと、凄まじく居心地が良かったのだろう。
同じ〈
不都合も特に無かった。
魔法のおかげで、地上との行き来も自由自在。
と、そこまで好条件が積み重なれば、クロエなりに思うところもあったのだろう。
なんだかんだと紆余曲折を経て。
白星クロエは、地上とホロウ・アース両世界を秘密裏に守る天才魔法使いとして、新たな人生をスタートさせるに至った。
高校一年の時の話である。
以来、クロエは家族との話し合いも済まし、大学卒業後は主な生活場所をホロウ・アースとするコトも賛成を得られたそうだ。
聞かされた俺は「ふーん」と頷いて、「まあ、クロエが幸せなら、それでいいんじゃない?」とコメントしたのを覚えている。
ホロウ・アースに一緒に落ちてから、クロエが実際、たくさんの人を助ける姿は目の当たりにして来たし、推せる変身ヒロインが本人も納得して変身ヒロイン活動を続けたいと言うなら、それで良いと思ったのだ。
ぶっちゃけ、〝正義の味方〟って簡単には真似出来ないワケだし?
ただ、内心ではもちろん「そうなると大学卒業後は、ホロウ・アースについて行かないと、カッコイイ変身バトルを全部は観戦できないのか……」と少しだけ残念には思った。
それに、美少女がヤバい目に遭うところを見られる機会が減ってしまうのも、切ないし寂しい。
俺はクゥーンと困り眉になってしまうのを、恐らく隠せなかったと思う。
だからだろうか?
「……えっと……サトルは、どうします?」
「え?」
「一緒に、来てくれますか……?」
「……それは、来て欲しいってコト?」
クロエはカァァ……! と。
耳まで真っ赤になりながら、その時はじめて、幼馴染らしい依存心のようなモノを、垣間見せてくれた気がする。
その瞬間の可愛い
嗜虐心を大いに、唆られてしまったね!
俺は肉体的な苦痛よりも、羞恥心などを刺激されて、内側から悶え苦しむ女の子を見る方が好きなのだ。
幼馴染ゆえに、その興奮と快感は格別だった。
芳醇とさえ思った。
「分かった。いいよ」
「!」
気づけば了承し、何の展望も無いままホロウ・アース行きを決めてしまったのだから、我ながら自身の性癖が恐ろしい。
とはいえ、猶予はあった。
俺もクロエも、この約束をしたのは高校二年の夏休み前。
大学卒業は内部進学からのストレートだとしても、普通に考えれば五年以上はモラトリアムを満喫できる。
──細けぇこたぁ、後で考えよう。
そんな感じで、しばらくは日常を過ごさせてもらった。
ポータルを通じて地上に逃げたホロウ・アースの魔法犯罪者とか、地上征服を目論む怪人たちの秘密結社掃討とか。
そういうのをクロエの後ろで、特等席気分で観戦する日々だった。
輝かしい青春だった。
毎日が美しかった。
高三の春。
幼馴染である白星クロエは、〈
倒した魔法犯罪者、怪物、怪人、秘密結社は雨あられ。
ホロウ・アースに煌めき轟くは、白夜の星剣の威光。
正攻法では倒せないと悟ったホロウ・アースに潜む悪玉たちは、忌まわしき敵の弱点を暴こうと、ついには結託し、死に物狂いで頑張った結果、見事俺の存在にまで辿り着いた。
白星クロエの幼馴染であり親友。
人質にするも良し。
これまでの腹いせに、痛めつけて無惨に弄ぶも良し。
どうしてやるのが、一番に怨敵の心を傷つけられるか?
彼らは彼らが誇る闇の叡智と悪魔の魔界技術によって、典型的な選択肢を実行した。
すなわち、『洗脳』及び『改造』である!
白星クロエが、白夜の星剣を抜いて遍く闇を晴らす最強の〈
丸木戸サトルは、極夜の星剣を制御鍵に、遍く光を鎖す最凶の〈
毒を以て毒を制す。
本来は正義のための力を、正義を打ち砕くために利用するなんて。
悪の組織の面目躍如。
狡猾にして残酷。
卑怯にして悪夢。
敵足るに相応しい実に巧妙な一手だったと、過去に戻れるなら拍手を送ってやりたい。
……まあ、迷惑をかけたコトになるので、クロエには申し訳なかったが。
捕まる際の俺は、それでも不安になるコトだけは全くなかった。
だって、俺はクロエの実力を全面的に信頼していたし、性格も今どき珍しいくらいの正義の味方。
たとえ俺が敵として立ちはだかろうとも、尊敬すべき『変身ヒロイン』たるコイツならば、間違いなく助けてくれるだろうし、皆んなが望む熱い展開を最後には必ず魅せてくれる。
──クックック、最後に言い残すコトはあるかな?
──無い。いや、あった。オマエたちはせいぜい、怯えて震えてろ。
──なに?
──アイツはな、剣からビームも出せるんだぜ? オマエたちなんか、消し炭にもなりゃしない。
──っ、ニンゲンのオス風情が! ならば最初の犠牲者は、キサマになるだろう!
──ハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!
心配は特にしていなかった。
こういう展開は、どうせ長くても
親友や味方キャラの洗脳闇堕ちは、救われてパワーアップするまでがお約束の流れだからだ。
起きた時には俺も変身ヒーローの仲間入りか。どんなビジュアルになるんだろう? ワクワクするなぁ……なんて。
自分でもいっそどうかと思うくらい、能天気で楽観的だった。
あと、なんか知らんが、幼馴染含め他の友人や周囲の様子も少々おかしい。
過保護、と言うのだろうか?
いや、それよりも執着……粘着……湿度……激重……こちらが改造人間になって洗脳される前と後とで、性格が皆んな妙な感じになってしまったように思う。
具体的な例として、クロエを挙げると──
「なあ。俺の気のせいかもしれないんだけど、最近やけに、スキンシップが多くないか?」
「──そう、でしょうか?」
「ああ。なんか、腕組んだり背中から抱きついてきたり、明らかに触ってくる機会が多い気がするんだけど……」
「──だって、もう二度と失いたくないから」
「………………」
それって、告白として受け取っても、構わないんですかねぇ……?
思わず口篭ってしまう俺に、けれどクロエは、ハッキリとは自分の気持ちを口には出さず、半ば公然の事実であるかのように、外でも密着を重ねてくる。
というか、家の中でも終始ぴったり。
俺たちは同棲していた。
最初は催眠術かと思った。
ホロウ・アースの偉い人たちからは、これは二度目の誘拐を防ぎ、俺自身や俺の周囲の安全を守護するための、一時的な処置だと説明はされた。
白星クロエは丸木戸サトルの護衛であり。
同時に、洗脳&改造という非道な経緯とはいえ、一時は敵の魔手に堕ちたリスキー・エネミーへの抑止力兼監視役。
最凶の〈
理屈としては筋が通っていたので、納得は可能だった。
でも、
「──サトル。サトル……!」
「おッ、うお……!?」
「貴方が、いけないんですよ……?」
いま、俺の目の前には、呼気を荒くした幼馴染がいた。
地上のマンション、同棲生活の拠点。
普段はプライバシーの観点から、最低限の一線として、互いの寝室への入室を固く禁じているのに。
白星クロエは頬を赤く染め、潤む瞳を熱っぽく細めては、今晩もまた衝動を止められない。
ベッドに押し倒される。
「ンむ──!?」
「ちゅ……、んぅ、ふぁ」
柔らかな感触が、
カーテンの隙間から零れ落ちる月明かり。
ほどけたリボンからは豊かな金髪が溢れ出て、しどけなく揺れた。
密着する滑らかな太腿。
少女は男の腰に馬乗りになり、覆いかぶさるように上体を倒す。
両腕は手首を捕まれ、抵抗を許されない。
身動きを封じられたこちらは、途端、胸板に感じる女性の丸みと柔らかさに、神経がバチンと弾ける。
一足先に大学一年生になった幼馴染は、驚くほど艶めかしいカラダに成長していた。
胸が巨きい。
気持ちがいい。
口腔は舐られ、しっとりと濡れた互いの呼吸が、官能を煽って時間を溶かす。
──ああ、何だかすごく、爛れた関係になってしまった……
俺、憧れの『変身ヒロイン』と、キスしちゃってるよ。
しかも、相手は幼稚園児の頃から見知った幼馴染で、『星』のように尊い美少女だったはずなのに。
クロエは、不安で仕方がないのだという。
俺が敵に捕まって、また酷いコトをされるかもと思うと、堪らなく恐ろしくなるそうだ。
最初は何を大袈裟な、と笑い飛ばすつもりだった。
だが、この世界は男女の価値観が、ところどころ逆転している。
我が麗しのエトワール、白星クロエ。
俺からすると、少々理解しにくい状況ではあるが、性別を置き換えて考えてみると分かりやすいかもしれない。
普通、幼馴染の少女が洗脳及び改造されて闇堕ちした姿で戻って来たら、主人公のメンタルはクリティカルダメージ不可避。
で、ホロウ・アースの怪人たちって、なんというかこう、明言はされてないんだけど、たぶんダークでエロスな犯罪もやってるんだよね……
未成年者誘拐とか、人体実験による改造手術とか、そんなのが当たり前に横行している時点で今さらな話ではあるんだけども。
俺、闇堕ちしていた一年間は記憶も無いんだが、もしかするとエロいことヤられてた?
クロエたち正義の変身ヒロインと何度か戦って、その度に勝てなくて『お仕置』と称したエロ拷問なりエロ調教なりを受けていた可能性──うん、無いとは言いきれない!
そう考えると、クロエを含む他の面々の様変わり振りにも、ある程度の納得がいく……
寝盗られは悪い文明──罪ありき! だしな。
NTRなんてフィクションならまだしも、リアルで起こったら早々立ち直れないだろう。
でも、俺からすると相手はきっと『悪の女幹部』だったろうし、エロ拷問エロ調教されてたとしても、正直損をした気はしない……
無論、俺はサディストであってもマゾヒストではないので、素直に喜べるかというとそうではないのだが。
しかし、復讐からの下克上屈服調教プレイが可能になった準備段階、すなわち前戯だったと思えば、胸は高鳴る。おお、やっぱり損はしていない。むしろプラス!
幼馴染が俺への執着心と所有欲から来るキス・マーキングに耽るようになったのも鑑みると、大いに得をしたと言えるかもしれない。
でもなー。どうせ堕ちるなら、こんな風に病んで堕ちるんじゃなくて、エッチな恥ずかしめを受けてただ純粋に気持ち良さに抗えずに堕ちて欲しいんだよなー。
星は人の手が届かないからこそ、気高く美しく強く煌めき、何より魅力的に映るのであって。
そんな一等星を、道理を捻じ曲げ強引に地の底へと引き摺り込んで、ひたすらに自分の手で嬲って穢せるなら、そっちの方が断然俺得。
あ、だけど、最後にはもちろん邪悪が滅びる方向性でヨロシク頼んだ。
変身ヒロインはやっぱり、悪に打ち勝ってこそカッコよくて可愛いからな。
途中でならどんなに負けても構わないけど、最後に勝ってくれればモーマンタイ。
ハッピーエンド最強! ハッピーエンド最強!
「……」
チュンチュン。
翌朝、結局明け方近くまで幼馴染キス・マーキングに付き合っていた俺は、鳥の鳴き始めた早朝。
眠るクロエの柔らかな金髪を梳かすように二、三度撫で、物音を立てぬよう注意しながら密かにベッドを抜け出した。
廊下を移動しリビング。
年齢に見合わない分不相応な間取り。
窓を開けてベランダに出て、吹き付ける風の冷たさを半身に受ける。
眼下には、朝焼けに燃ゆるミニチュアのような街並みが広がっていた。
飛び降りて落ちれば、さぞや悲惨なザクロが弾けるに違いない。
然れど、
突然の投身自殺? いいや違う。
「全天夜光大星図、ウラノメトリア接続」
解号を告げる。
光を鎖せ、極夜の龍騎士。
「我が名は──ミッドヴィンターメルカー」
肉体に融合した星剣が、起動音を上げて人外魔装を召喚。
直後、俺の体には薄闇の騎士鎧が特異なプリズム光と共に展開され、悪魔とも邪龍とも窺える
薄闇の人外魔装に、朝焼けの赤が踊る。
「うーん。我ながらダークヒーローみたいで、すごくカッコイイぜ……」
上空に高速で飛翔しながら、思わず自画自賛。
人型のモンスター……怪人っていうのは、それだけでロマンがあっていいものだが、こういうメカっぽさと生体兵器感の両立って言うの? 洗練されたキャラデザで、すごく堪らないね。
「洗脳時代の記憶は無いけど、改造してくれたヤツらには、そこんところマジ感謝しないとなー」
声もメカ音声だし、鳥肌が止まらない。
能力自体も、今ではこんな風に、何時でも使えるままだ。
もっとも、このカッコ良さを理解してくれる人間は、こっちの世界にはいない。
少年の魂を刺激するゴツゴツした〝カッコ良さ〟や〝ロマン〟といったものは、この世界じゃ〝セクシー〟ないし〝お色気〟の枠に置き換えられてしまう。
きっと、『悪の女幹部』概念が、逆転してそんなコトになってしまっているのだろう。
洗脳時代のネットの掲示板を見ると、女性と思われる投稿者たちが口々に「エッチ」「セクシーすぎる」「ダメでしょ」などと無数の書き込みを行っていた。まるで前世の俺たちみたいだった。草。
閑話休題。
「そんじゃまぁ、行くか」
何処にって?
そりゃもちろん、ホロウ・アースに。
魔法の認識阻害によって、地上じゃ単なる災害跡地として封鎖されている侵入禁止区画。
ポータルはそこで、今もあの世界と繋がっている。
白星クロエは、正直たしかに強くなりすぎた。
今じゃアイツに対抗できるのは、ホロウ・アースでも恐らく、十人くらいしかいないだろう。
ならば、話は簡単だ。
彼、彼女たちの誰かに立ち上がってもらって、再び正義と悪の戦いを繰り広げてもらう。
そこで俺は、クロエや他の〈
本格的に世界がヤバくなったら、洗脳が解けたフリしてクロエたちの味方に戻り、世界の敵を一緒に倒せば問題ない。
「う〜ん……さすがにクズすぎるか?」
けど、いつまでも病んだ状態のクロエたちは、ハッキリ言って見ていたくない。
少女たちの心の闇を晴らし、俺は健全な精神と肉体を屈服させたい……
「大丈夫大丈夫」
俺ってば、そもそもクロエに対抗する手段として生み出された改造人間なんだし、最強と最凶が組み合わされば、ぶっちゃけ敵なんかいない。どんな壁だって乗り越えられる。
最後には絶対ハッピーエンドに持っていくから、少しくらい……イイよね? イイよ! イッて良し!
俺は決断すると、ポータルにロケットミサイルみたく飛び込んだ。
────────────
────────
────
──
「……」
その軌跡を、白星クロエはベランダから見つめていた。
ベイパー現象──俗に言う飛行機雲まで発生させて、朝焼けの薄明を闇色の〈
三ヶ月前まで、幾度となく目の当たりにし、その度に胸が張り裂けそうになった絶望の証。
「……こうなるコトは、分かっていました」
丸木戸サトルは、たしかに洗脳を解いて元の自分を取り戻していた。
だが、改造されたカラダは、完全な元通りには決して戻らない。
彼を取り戻した日、敵は「これで終わったと思うなよ!」と言っていた。
ありふれた捨て台詞だったが、実際クロエたちの誰一人として、終わったなどとは思えていなかった。
一年。
それだけの年月をかけて、ようやく彼を救えただけで。
悪辣な敵の主要な面々は、ほとんどが雲隠れし姿を晦ましている。
極夜の星剣は、ゆえにいつか必ず、再び彼を蝕むだろう。
埋め込まれた制御鍵。
そのマスター権限は、未だヤツらの誰かに握られている。
ホロウ・アースの味方からも、散々警告されていた。
ゆえに、白夜の星剣使いとして、抑止力足り得るのはクロエしかいないと、無理を通し地上での監視役も請け負った。
本当は腹立たしかったが、クロエは戦う力が強いだけで、ホロウ・アースの技術にはそこまで明るくない。
必要なバックアップサポートを得るには、どうしても監視役という保険が求められた。
「……」
撫でられた髪を、なぞるように触れる。
まだそこには、愛する幼馴染の体温が残っているような気がした。
その残り香も、体温の残留も、鼓動のリズムすらも、
「──ええ、二度と見失いません」
追跡はできている。
シグナルは細胞単位で捕捉している。
魔法による疑似視覚遠隔操作。
索敵や探索に使われる龍の千里眼。
これを発動している限り、白星クロエはたとえ夢の中でも想い人を視界に収められる。
なのに、何のためにわざわざ行かせてしまったのか?
答えは知れている。
「今度こそ、今度こそです……」
息を潜めていた敵が、ついに尻尾を出した。
丸木戸サトルを、最凶の〈
ならば、丸木戸サトルが向かう先にこそ、クロエがこの一年と三ヶ月、ひたすらに剣を突き刺したいと願っていた怨敵がいる。
「……サトルは、私のものです。その血と肉の一片たりとも、彼のすべては私のものッ!」
ずっと好きだった。
小さな頃から、バカみたいな未来を空想していた。
穢された。
醜く、下劣な、蛆虫にも劣る汚い女たちに。
殺す。
三千世界を焼くコトになっても。
「全天夜光大星図、ウラノメトリア接続」
解号を告げる。
闇を晴らせ、白夜の龍騎士。
「我が名は──ミッドナイトサン」
オマエたちの鏖殺者である。
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