植物コレクター
@Nono_0oo
第1話
外でせみが鳴いている。
その声は、とうとう夏が来たと僕を自覚させる。
16歳、高校2年生田中裕二。平凡などこにでもいる高校生。
今日は高校の終業式だ。通知表をもらってようやく念願の夏休みに入る。
夏休みの予定は特になく、家でだらだらゲームをして過ごす予定だ。
家に帰るとお母さんの「お帰りなさい。」の声が聞こえる。僕は「ただいま。」と返事をした。家族で晩御飯を食べていると、お母さんに「今年はおばあちゃんの家に行くわよ。」と唐突に告げられた。僕は一瞬びっくりした。「なんで?行きたくないよ。」行くのがめんどくさくてそう言った。お父さんに「家にいてもゲームばかりなんだから行ってきなさい。行くと案外楽しいかもよ。」と言われた。おばあちゃんの家に行くなんて5歳のとき以来だ。おばあちゃんとは毎年年賀状を送ったりしているだけで、実際に会うのは11年ぶりになる。僕は渋々「わかったよ。」と言い、今年の夏休みはおばあちゃんの家に行くことに決まった。
車でおばあちゃんの家に向かう。僕は内心「めんどくさいな。」なんて思いながら車に揺られていた。とうとう到着した。ピンポーンと家の呼び鈴を鳴らすと「はーい。」とおばあちゃんが出てきた。「いらっしゃい。あら裕二くん!大きくなったね。」と言われて「こんにちは。お久しぶりです。」と少し照れながら返事をした。
家の中はとても綺麗だった。久しぶりのおばあちゃんの家は、僕にどこか懐かしさを感じさせた。おじいちゃんは僕がとても小さい頃に亡くなってしまったので、今はおばあちゃん一人でこの家に暮らしていることになる。
荷物を車から出して部屋に運んでいる時に、ふと家の庭が目にとまった。そこにはたくさんの植物が手入れをされてとても綺麗に咲いていた。その美しさに僕は心を惹かれてしまった。するとおばあちゃんが背後から「綺麗でしょ。ここは私のお気に入りの場所なのよ。」と言ってきた。僕は後ろから声をかけられて少しびっくりした。おばあちゃんは構わず「少しこっちに来てごらん。」とぼくに手招きをした。庭には数え切れないくらいの植物たちが立派に咲いていた。僕は思わず「きれい。」と無意識に言ってしまった。おばあちゃんは嬉しそうに「そうでしょ。こんなに暑いのに立派に咲いているんだよ。すごいよね。」と僕に言った。「自由にみてまわっていいよ。」とおばあちゃんがいい、リビングの方へ去っていった。僕は、この言葉では言い表せないほど綺麗な植物たちに魅了されて、すっかり植物の虜になってしまった。それだけで?と思う人もいるかもしれない。しかし、趣味も好きなこともなかった僕にとっては人生最大の衝撃だったのだ。僕は気付くと夏休み、おばあちゃんの家にいるときずっと庭を眺めていた。そろそろおばあちゃんの家から帰るという時、僕はおばあちゃんに言った。「またこの庭を見にきてもいい?」おばあちゃんは笑顔で「もちろんいいよ。いつでも来てね。」と言ってくれた。それと同時に「植物は身近なところにあるから自分でも探しでごらん。きっと楽しいよ。」とも言われた。
自分の家に帰っても、僕はおばあちゃんの家の庭のことが頭から離れなかった。そしておばあちゃんの言葉を思い出すと、僕は自分の植物図鑑をつくることにした。来る日も来る日も自分で見つけた植物を図鑑に記録していき、とうとう次の年の夏になった。この頃には自分の図鑑は分厚く、そしてかなりのページ量になっていた。今年もおばあちゃんの家に行くとお母さんに知らされてから、僕はあの庭がまた見れるとワクワクして待ち切れなかった。おばあちゃん家に着いて、家の呼び鈴をピンポーンと鳴らすと、「いらっしゃい。」とおばあちゃんが出迎えてくれた。僕はおばあちゃんに自分の作った植物図鑑を見せながら、「おばあちゃんのおかげで趣味が見つかったんだ。ありがとう!」と言った。おばあちゃんはにこにこしながら「あらすごい!裕二は植物コレクターだね!」と言ってくれた。
それから僕は大学に入っても必ず夏におばあちゃん家に尋ねては、一緒に庭を見ながら、僕の作った植物図鑑をおばあちゃんに見せて、二人で楽しんだ。
これは僕のとっておきの趣味を見つけるまでの物語だ。
植物コレクター @Nono_0oo
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