僕とギャルの色違い厳選から始まるラブコメ。
小鳥遊なごむ
第1話 陽キャギャルの押しに陰キャは勝てない。
『お話があります。放課後、スタパで待ってます』
いわゆるラブレターというやつだろうか?
そんなわけはない。
きっとこれはなにかの罰ゲームだとか、クラスの陰キャを
「……差出人からしておかしい」
短いラブレター、まあ正確に言うならばラブレターでもない。
ただの呼び出しの手紙なのだから。
そしてその手紙を僕の机の中に入れた主はクラスのトップカーストの
顔もスタイルも良くて、明るく可愛い学園のアイドルと言って差し支えない人物。
そんなギャル。
そんな奴が僕にこんな
「……バカにしやがって」
たぶん僕だって、今にみたいに捻くれていない時期があったはずで、なのに下を向いて僕は生きている。
いつからだっただろうか。
たしか、幼稚園の頃だった気がする。
怪我をして、視力が著しく悪くなってからだった。
その頃はおカッパな髪型だったし、無骨な黒縁メガネを掛けていたからか、小学生の頃にはあだ名が「オタク君」に仕上がっていた。
そうして今だ。
捻くれたのは。
「……帰ってゲームしよう」
僕はその手紙を握り潰して校門を出た。
☆☆☆
「じーーーっ」
「……」
「じーーーーーーーっ」
「…………」
翌日、教室にいる間のほとんどずっと河合最花に睨まれていた。
非常に居心地が悪い。
エサに食いつかなかったくらいでそこまで睨まれるのはこちらとしては困るのだが、むしろこちらが怒りたいくらいである。
誰が進んで笑い者にされに行くというのだろうか。
けれど、同時に思う。
女の子からの手紙で
まあ幸いな事に河合最花は人気者であり陽キャである。
だからずっと僕を睨み付けているわけではない。
ただそれでも、僕のような捻くれた陰キャオタク君には体感的に5分睨まれただけで1時間くらいの拷問を受けているような感覚になるだけだ。
昼休みになって、便所飯をする為に立ち上がり教室を出る。
友だちがいない僕のような人間にとって教室とは監獄のようなものである。
人間でいる事を強要されるような空気を吸い続けながら食事をするとか辛くて死にたくなる。
「あたしさっきの移動教室ん時に忘れ物したかもっ。取ってくるから先ご飯しててっ」
なんていうタイミングなのだろうか。
それともわざとか?
教室を出た瞬間に河合最花が背後から近付いてきた。
半径5メートルからでも感じる陽キャオーラで背中が焼けそうになる。死にたい。
そんな陽キャオーラから逃げるように僕は速足で廊下を歩いた。
「……怖い怖い怖い……」
どうしよう着いてくる?!
これならまだ幽霊とかの方がマシだ。
と、とりあえず男子トイレに逃げればそれ以上は追ってこ
「ちょっと待って!!」
「ッ?!」
瞬間的に吐きそうになったのを必死に
ガッチリと掴まれた手首。
振り返る事に恐怖を覚えていた。
頼むから幽霊であってくれ。
そんな祈りすら虚しく人肌の熱を手首から感じ取っていた。
「話があるんだけど」
「……い、いや、その」
手首を掴まれ、次の瞬間には真正面に立たれて河合最花のその大きな瞳で僕の顔を
僕は目を合わせたくなくて必死に廊下や壁に視線を泳がせて虚しい抵抗を続けた。
「オタク君、パケモン好き?」
「…………は?」
☆☆☆
「あたしさ、パケモンのショコランがとっても好きなわけっ!! 何が好きかって言うとね!! もふもふしててあの溶けそうで溶けない絶妙な感じがめっちゃ好きなのね!! でもさ、ショコランって生息地不明で進化前のショコモを捕まえないといけないじゃん?! しかもめちゃくちゃ出現率低いし技構成がちょーヤバくて相手の体力と技ポイント全回復させるとかいうめちゃヤバ尊い専用技とか使ってくるからすぐにいなくなっちゃうのね。だから捕まえるのがとっても大変なんだけど可愛過ぎてヤバくてどうしてもお迎えしたいんだよね〜」
「……な、なるほど」
放課後、個人経営の小さな喫茶店でパケモンについて熱く語られている僕。
話を聞くに、教室で僕が見ていたスマホでパケモンの公式サイトをたまたま目撃してしまって僕がパケモントレーナーであることを知ったらしい。
そしてどうしても欲しいパケモンがいるから協力してほしいという。
「いや、あのさ……別にショコランの捕獲ってそんなに難しくないよ」
「捕獲じゃなくてお迎えって言って!! 酷い言い方しないでよ!!」
「……さいですか」
やばい。この人相当パケモン好きじゃん……
どうしよう怖い。むしろ怖い。
「そもそもさ、僕に聞かなくたって今どきヨウツベ動画とかネットを漁ればいくらでも捕か……お迎え方法なんてすぐにわかると思うけど」
「あたしピックポックしか観ないからわかんない」
「…………」
僕はこの
パケモンに対しての愛はあるのだろうけれど、その為の努力はしない。というかしていない。
なんなのだろうか。
「とにかくっ!! あたしがショコランをお迎えできるように手伝ってほしいの!!」
「……まあ、いいけど」
「ほんとっ?! 良かったぁ〜。夜中にお迎え失敗して泣いたからマジ助かる」
「別にいいよ。色違い厳選とかならしんどいから嫌だけど、ショコラン捕まえ……お迎えするだけならすぐにできるし」
「ショ、ショコランの色違い……欲しい」
あ、やべ。
いらん事を言ってしまった。
……厄介な事になるべく関わりたくなくて、ついうっかり油断して要らん知識を吹き込んでしまった。
てかパケモンやってるなら、気に入ったパケモンの色違いが欲しいとか欲が出るものなのではないか?
……いや、そもそも通常色のショコラン捕獲で手こずっているのだから、そこまで意識が向かなかったのか。
……ああ、ほんとに余計なこと言っちゃったなぁ。
「も、も、もしかしてオタク君はショコランの色違い、お迎えしたのっ?!」
「近い近い近い」
眩しい。眩し過ぎて溶けそう……
陽キャ女子のキラキラした瞳で近付かれたら僕みたいな陰キャは死んでしまいます。叩いたい大きな声を出したり近付いたりしないで下さい。
「ま、まあいるけど。色タトゥー付きのやつが」
「い、色タトゥー付き?!」
色タトゥー。
正確に言うならば色違いタトゥー付きパケモンである。
一部の個体には様々なタトゥーが付いている事がある。
感情ベースのタトゥーや、群れのボスの
珍しい技を生まれつき覚えている個体にも
もちろんタトゥー付きのパケモン自体が希少であり、さらに色違いとなるとレア度は跳ね上がる。
「ショコランの色違いタトゥーとかちょー激レアじゃん!! いいなぁ、あたしも見てみたいなぁ。……チラッ……チラチラッ」
「そ、そのうちね」
「やった!! 絶対だよ?!」
「あ、はい……」
河合最花の押しの強さに僕は為す術もない。
こういう人種は悪意なく人を貶めることすら容易なのだ。
吹けば飛ぶような僕では、最低限の協力をしてそっと視界から消える事しかできないし、そうするのが1番なるべく平和に高校生活を続けていく弱者の知恵でもある。
ひっそり
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