彼女が求めるまま探偵団を結成してみたけど、この女子校ではくだらない事件しか起こらない……それなら幼馴染との百合展開に期待していいですか?

tataku

第1話

 いきなり、探偵になりたいと言われた時は流石に面食らってしまった。


 今は夜の9時過ぎ。私が自分の部屋へ入り、夜食用のカップラーメンとヤカンを、テーブルの上に置いたタイミングで、私の愛しい少女はそのようなことを言った。

 

 私は彼女のことなら何でも知っていると自負している。家は隣同士だし、親は親友同士、物心つくころからいっしょであり、寝る時以外はいつも一緒。

 だから正直、なぜこんな話になったのかが私には理解できなかった。

 

「綾香、ちょっと待って。何故その思考にいたったのか、私には理解できないんだけど?」

「え〜、泉ちゃん、私のことなら何でも分かるって昨日言ってたのにぃ、あれは嘘だったのぉ?」


 私の綾香が、悲しそうな顔をしている!

 

 私の女神、私の妖精、私の綾香。

 155cmのミニマムボディ、ゆるふわロング、小顔を彩るパッチリお目々、吸い付きたくなるような白いお肌。その全てが愛おしい!


「言った! 確かに言ったけど~」


 私は身悶える。綾香を悲しませた昨日の私が恨めしい。昨日の私が余計なことを言わなければ、綾香は悲しまなかったのだ。今すぐにタイムマシンに乗って、昨日の私を殴り飛ばしてやりたい。

 

 そして、今の私は何も悪くない。なぜなら、今の私が一番大事だからだ。いや、ごめん、マジで間違えた。私、綾香が一番だから。これ、重要です。


「今からね、私が探偵になりたい理由を答えて欲しいのぉ。もしもそれを3分以内に答えられたら〜、私の一番大事なもの――あげちゃおうかなぁ?」


 綾香は下唇に人差し指を乗せ、小首をかしげる。その角度は完璧な黄金比率。マジ、ぱねぇ〜よ、綾香さん!


 綾香は私の机の上に置いた、私の非常食であるカップラーメンの蓋を開け、私が沸かしたお湯を入れた。

 そんな誰でもできる動作すら、これは職人だから簡単に見えるだけで、あなたには決して真似ることはできない――――と言われたら、私は信じてしまうかもしれない。それぐらい、綾香さんはマジ、美の女神!


 綾香は3分タイマーをセットした。


「泉ちゃん、カウントが始まっちゃったよぉ?」


 私は綾香のウインクで、もうお腹が一杯になりかけ、慌てて頭を振った。


 集中しろ、頭の全細胞よ、奮い立たせてくれ!


 答えは、必ず私と綾香が歩んだ道の中にあるはずだから。


 そう、考え続けるのだ。


 私は必ず、彼女の秘密の花園に飛び込む。


 飛びこんで見せるのだ!


 私は一度目を閉じてから、綾香に向かって指を突き付ける。


 チェックメイトだよ、私の綾香。


 私は答えを、口にした。


「探偵になる夢を見たから!」


 そう、私は答えた。

 かならずあるから、私と綾香の進んできた道の中に。


「どうしてそう思ったのかな~?」

「今日の午前中の授業で、綾香は珍しく居眠りをしていた。いつもと違うことにこそ、ヒントがあるはずだと思ったから」

 

 綾香は笑った。


 私も笑った。とびっきりの笑顔をしていることだろう。


 綾香はその可愛らしい小さな唇を必死に突き出し、音を鳴らした。


 ブー、と。

 

 その音は、まるで私の鼻から吹き出した音のように感じた。


 私の頭の中で、何かが入る音がした。カチッと。


 私はひたすら答えを口にする。最後の方は自分でも何を言っているのか理解が出来なかった。


 3分後、私は崩れ落ち、床を何度も叩きつけた。

 悔しい、悔しいが、私が間違うたび綾香は唇を突きつけ、ブーと言うのだ。それを聴きたいがために、私は考える時間すら惜しみ、答えを口にしてしまった。


 私は負けてしまった。綾香の策略に!


 だって、可愛すぎる! 私は必死に鼻を押さえなければ、今すぐにでも何かが漏れ出てしまいそうだ。決して、乙女が流してはいけないものを。


 そんな惨めな私を嘲るでもなく、綾香はラーメンをすすっている。私に視線を向けることなく100円以下のそいつに熱視線だ。私は嫉妬してしまいそうだ。


「綾香、一体答えは何なの!?」


 崩れ落ちたまま、私は綾香を見上げ、叫んだ。

 彼女はようやく100円以下の憎き相手から視線を逸らし、私を見下ろしてくれる。そして――答えを、口にした。


「昨日ねぇ、寝る前に〜、探偵少女アリスちゃんの動画を見ちゃったから、でした~」


 綾香は律儀に箸をテーブルに置いたあと、手をパチパチと叩いた。


 ――探偵少女アリスちゃん。今巷で話題になりつつあるアニメだ。ネットニュースで知った程度の知識。今まで綾香と私の中で話題に出たことは一度もない。


 私は完全に床に崩れ落ち、しばらく起き上がれそうにない。


 私と綾香が歩んだ道の中に答えはなかった。


 その事実に、私は絶望してしまった。


 私の知らない綾香がいる。


 そんなの、耐えきれない。


「でもね~、泉ちゃん、惜しかったよぉ。だってねぇ、アリスちゃんの動画で寝不足しちゃったから、今日の授業で寝ちゃったんだもん」


 私は再び起き上がり、綾香を見上げる。


「残念賞は?」


「だ〜め、だよ♡」


 綾香は私に、ウインクをした。


 私は再び床に倒れ込むはめとなった。


「因みに、綾香の一番大事な物ってなんだったの?」


 床の冷たさを感じながら、綾香に訊ねた。実際はカーペットの下のため、冷たさを感じることはないが、気持ち的に私の心は吹雪いており、凍結しそうだ。


「この前、パパに買って貰ったクマのヌイグルミだよ〜」


 綾香は本当、私の小悪魔。

 

 私はクマのヌイグルミより、綾香のお人形さんを熱望します!


「でも~、私では探偵さんは難しいかなぁ?」

「本当に探偵になりたいの?」

「どうだろう? でもぉ、カッコイイなぁーって思ったのぉ」


 私の心が苦しみを覚える。綾香の想像する探偵が憎い。憎すぎる!


「でも~、泉ちゃんなら、探偵さんになれそうだよねぇ」

「え? そうかな」


 私が探偵になったら、綾香はカッコイイと思ってくれるのだろうか?


「だって泉ちゃん、首席だもん!」


 首席だと、探偵になれるのだろうか?


「泉ちゃんならきっと大丈夫だよ!」


 なんだか、大丈夫な気がしてきた!

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