福岡武道物語

鷹野龍一

第1話  少年時代の武道修行

 私は、幼い頃から、しょっちゅうお腹を壊したり風邪をひいて寝込んだりするほど病弱でした。おまけに、早生まれだったせいで、体もクラスメイト達に比べると小柄だったので、ひどくイジメられていました。


 そんな自分が嫌で、小学校高学年の時から柔道を習い始めました。ホントは、空手を習いたかったんですが、空手は危ないからと言う理由と、道場が近所にないからという理由で、習わせてもらえませんでした。


 柔道をやって良かった事は、受け身を身に付ける事が出来た事です。この点は、今でも、先生に感謝してます。ひどく転倒することがあっても、受け身を取れたおかげで大怪我だけは何とか免れて来たからです。



 立ち技においては、まず相手の姿勢を崩してから、足払いを賭けるなり、腰投げを打つなりせよと先輩たちから指導を受けました。


 また、後から名前を呼ばれて、振り返る時の何気ない動作を腰投げに活用することや、床に落ちている物を足で払うように相手の脚を払うなどのイメージの使い方も学びました。これらのイメージ運用法は、多分、古流柔術から講道館柔道に受け継がれていた伝統だと思います。

                   ​​​​​​​


 寝技に関しては、先生の個人指導でみっちり仕込まれました。先生は、まず、私が動けないように私に固め技をかけられてから、いつもこうおっしゃいました。


「今、動けないだろ?でも、どこかに必ず動かせるところがあるんだ。動かせるところを見つけてみろ。」


 で、色々動くんですが、中々動かすことが出来る場所を見つけられず、いつも悪戦苦闘してました。それでも、最終的に動けるところを見つけて抜けると、先生は、


「そうだ。それでいいんだ。諦めないで色々やってれば、必ず相手の固め技から抜け出すことが出来る。」


と褒めて下さいました。先生は、安易に最初から答えを教えようとはなさらず、弟子に自分の頭で考えさせる教育法を採っておられたんですね。


 先生は、浄土真宗のご住職だったので、もしかしたら、釈尊の教えを柔道教育にも活かしてらっしゃったのかも知れません。


 あれから、半世紀以上の月日が経ちましたが、今でも、この時の教えは、私の中で生きています。



 柔道修行に励んでいた私ですが、同時に剣道にも接する機会がありました。同級生にO君と言う友人がいました。彼の家は、うちから歩いて1分程度のところにあったので、しょっちゅう彼の家に遊びに行ってました。


 O君の三つ上のお兄さんが、中学校の剣道部員だったので、遊びに行くと竹刀を持たされて、半ば強制的に剣道をやらされてました。ま、それなりに楽しかったので、決してイヤではありませんでしたが、あまり熱心には稽古してなかったですね。この時身についたのは、竹刀の正しい握り方と振り方程度でした。


 これは、後に柳生新陰流剣術を稽古した時に、役に立ちました。先輩たちから、


「鷹野さん、握りは出来てるね。なんかやってたの?」


と尋ねられました。近所のお兄ちゃんに、ちょっと習った程度だったので、


「剣道をやってました。」


とは、答えませんでしたが・・・・・・


 打ち込み稽古は、たまにやってましたけど、こちらは、ほとんど身につきませんでした。剣道の動きは、素手での護身に直接役に立つ動きじゃなかったので、あまり興味が湧かなかったからです。


 次回は、高校入学後に通い始めた空手道場でのお話です。




※打ち込み稽古=「元立ち」が空けた隙を「掛かり手」が瞬時に打ち込む稽古のこと。


※元立ち=掛かり手の技を引き出し、打突を籠手・胴・面の部分で受ける側のこと。

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