第30話 28 最初の海峡へ。そして、宣戦布告

 その奇襲はまったく予知できなかった。

「先任士官より全艦に達する! 敵襲! 敵襲! 保安要員は至急幕僚室フロアへ。砲術科全員、武器庫より小銃を受領し配置に着け! これは演習ではない! 繰り返す。演習ではない!・・・」

 来たな・・・。

 ヤヨイは軍服を身に着け、幕僚室のあるフロアに急いだ。途中、ヨードルに出会った。

「ヨードル海曹長! 敵はどうやって艦内に?」

「わからん! 落下傘か何か、とにかく、急に空から降って来たんだ!」

「弾薬庫とエンジンルームを占拠されてはどうにもなりません! 海曹長はそこを、わたしは閣下たちを!」

「・・・でも、いったいきみは、なんなんだ。きみは、何者なんだ」

「そんなことは後です! 今はとにかく弾薬庫とエンジンルームですっ!」

 幕僚室のフロアに駆け上がると、耳のすぐ外を弾丸がピュンと掠め、背後の壁をダーンと叩いた。

 相手は二三人。長官室や参謀長室の衛兵と格闘していた。

 ヤヨイの身体は無意識に動いていた。

「はあああっ!」

 姿勢を低くし、かまいたちのように敵兵に肉薄し、まず手前のヤツの銃を手刀で跳ね上げ、胸の下の急所を鶏口で一撃した。その男の身体を盾にしてもう一人に迫り、男の足を横蹴りで払って銃を奪い、もう一人の敵の胸元にゼロ距離射撃をお見舞いして屠った。

 足を払われてもんどりうっている敵兵の頸椎に膝をめり込ませた。敵兵はグエッ、という息を漏らし、果てた。

 目にも止まらぬ速さでその場を駆けさり、途中の数人のチナ兵を瞬く間に血祭りに上げ、ブリッジに躍り込んだ。ワワン中将とカトー参謀長が縛り上げられ、その傍らにチナ人たちを従えた、ルメイがいた。

「ヴァインライヒ少尉、いや、帝国の忠犬ヤヨイ。君が私を探っているスパイだということは知っていたんだ。大人しく拘束されたまえ。さもないと・・・」

 チナ人の手にした大振りの半月刀がカトー参謀長の喉元に・・・。

 クッ、悪辣な。

 まさか、空から奇襲されるとは思わなかった・・・。抜かった、と認めざるを得ない。

 こうなれば、最後の手段。まだ水深があるうちに、ミカサを自沈させる。

 通信機にとりつき、あの周波数に合わせ、小型の通信機の赤のボタンを押したのと同じ、キーの十秒間長押しで、爆弾の信管が作動する。

 ヤヨイの手がそのキーのノブに触れた時、目の前の通信機がハンマーで叩き壊された。

「やめるんだ! ヤヨイ、無駄な抵抗はよせ」

 航海長も砲術長も副長までもが、みんなルメイとぐるだった。

「ヤヨイ! 両手を頭の後ろで組んで、跪くんだ!」

 ルメイの酷薄そうな顔が歪んだ。

 ここまで来て・・・。くっそー・・・。

 ヤヨイは血の涙を滲ませた。



 はっと気が付くと、全身汗びっしょりになっていた。

 どうも、うたたねしてしまったようだった。

 身体はともかく、神経が限界を感じていた。



 最初の海峡の通過を控え、ミカサは時間調整のために速度をさらに落としていた。時速3ノットは帆船時代のフリゲートにさえ遠く及ばず、帆掛け船の漁船やヨットと変わらない。

 これから最も狭い所では幅2キロもない島と島の間を通過する。投石機やチナの兵や漁民が持っている滑とう式の旧式銃では届かないが、帝国陸軍の正式銃なら楽々射程圏内に入る。真夜中では両岸の状況が視認できない。奇襲を避けるため安全策を取って日中の通過を予定していた。

「先任士官より全艦に達する。明朝0530を持って第二種戦闘配置が下令される。各員下令に備えよ。給与部は0330開室を準備のこと。交替パターンB(ベー)。繰り返す。明朝0530を持って・・・」

 暗号文を作成し終えると先任士官の放送が入った。いよいよ明朝、最初の関門である島嶼の間を通過するのだ。

「第二種戦闘配置」は、直ちに攻撃開始が下令される状況ではないものの、もしそれが下令された場合に速やかに攻撃が加えられるよう準備をするもの、という命令だった。

 例えば、主砲や副砲は実弾装填こそしないものの、戦闘配置同様に各員が担当の砲に付く。気の早い兵なら来るべき下令の先を読んで揚弾する弾種を徹甲弾ではなく榴散弾にし、すでに砲の傍に運んでいたりする。過去再三繰り返されてきたチナの嫌がらせなら、相手は木造の小舟のはず。それなら徹甲弾は意味がない。相手の頭上で炸裂する榴散弾をお見舞いして船火事を起こさせ、チナの奴らにお灸をすえる。

 久々に演習ではなく実戦ができるぜ・・・。

 そう考えて舌なめずりする兵も少なくなかった。

 ミカサでは初めてとなるが、この艦に転任する前に他の艦隊の巡洋艦や駆逐艦で散々にチナから嫌がらせを受け、その仕返しに実弾をお見舞いしてきた古参兵などには、特にそうした傾向が強かった。

 

 9月20日の朝が明けようとしていた。

 シャワーを浴びてブリッジに行き、作成した暗号文を打ち終え、そのままその返事を、待っていた。

 ブリッジの当直はチェン少佐だった。他にはいつものように舵輪とスロットルに水兵が一名ずつ。

 悪夢の中では裏切り者だったが、現実の少佐はコーヒーカップを片手にキャプテンシートにゆったりと掛け、規則正しく瞬きしながらまだ暗い黎明の海面とその左舷に広がる大地を注視していた。

 いつものようにラジャーの「R」が来るものだと思っていたヤヨイは、通信機のランプが異常な明滅を繰り返していることに仰天し、常に受信状態にしてある通信機のスピーカー音量を上げ、平文で「緊急、緊急」と、十秒おきに繰り返す受信の間に「P(パッシヴ)」の「ト、ツー、ツー、ト」を幾たびか挟んだ。するとやがて数字ではない、意味のある平文を送って来た。

「副長!」

 ヤヨイは叫んだ。

 チェン少佐は何事かと通信機の前にいるヤヨイを顧みた。

「まだ内容は全部わかりませんが、大学から緊急通信が入っています。至急艦長と司令長官、参謀長を呼んでください!」

 そう言いながら、レシーヴァーから流れてくるモールスを書き取り始めた。

「バカロレアより第一艦隊に達する。帝国内閣府発表の通達を伝送する。

 本20日未明、皇帝陛下の命により、帝国内閣府はチナ王国に対する戦闘を予期し既に陸海軍部に対し動員準備を下令。合わせて関係各所に伝達するよう指示するものである。繰り返す。帝国内閣府は皇帝陛下の命によりチナ王国に対する・・・」

「・・・大事(おおごと)だ!」

 モールスを聞いたチェン少佐はヤヨイの翻訳を待たずに事態を察し、すぐに信号兵を呼び艦長と司令長官、および参謀長をブリッジに召集するべく命令を発した。そして艦内放送を通じ招集をかけた。

「ブリッジより幹部士官に達する。幹部士官は直ちにブリッジに集合のこと。繰り返す。幹部士官は直ちにブリッジに集合のこと!」

 最初にブリッジに来たのは、ワワン中将だった。まるでこの通信が来るのを知っていたかのように、夜中にもかかわらず寸分の隙も無いいでたちで現れた。

 チェン少佐がヤヨイの翻訳メモを長官に示した。彼はさっと目を通し、ヤヨイを呼んだ。

「ヴァインライヒ少尉!」

「サー!」

「至急これをヴィクトリーに通報してくれ」

「アイ、サー!」

 すぐに通信機に取り付き、周波数を合わせマイクを取った。

「ミカサよりヴィクトリー、ミカサよりヴィクトリー・・・」

 ヤヨイが通信機に向かっている間に、ヨードルが、デービス大尉が、次いでルメイが。幹部士官たちが続々とブリッジに上がって来た。

「何事だ」

「一体どうしたんだ」

「ヴィクトリーよりミカサ、オーバー」

 スピーカーからヴィクトリーの通信長スミタ大尉の声が流れた。

「ミカサよりヴィクトリーに達する。帝国内閣府の通達を伝送する。本20日未明、帝国内閣府は、皇帝陛下の命により既に陸海軍部に対しチナ王国に対する動員準備を下令・・・」

 ブリッジに集められた士官たちの顔色が一瞬にして変わった。

 ヤヨイがヴィクトリーへ通信を終えると、バカロレア経由の第ニ信が入って来た。

 動揺してチェン少佐やヤヨイに詰め寄ろうとする幹部たち。それを尻目に、ワワン中将はすでに司令官席に着き、当番兵が淹れてくれた湯気の上がる濃いコーヒーのカップを口にしていた。

 第二信は先の第一信を受けた軍令部の発した命令、そして陸軍参謀本部のそれを中継してきたものだった。

「帝国海軍軍令部発。帝国海軍は、戦時動員令を発する。第一第二、および第四艦隊は速やかに母港に帰港。追って下令する連合艦隊編成を待機せよ。第三艦隊は可能な限り速やかに出動しチナ沿岸の警戒に当たるべし」

「帝国陸軍参謀本部より全軍へ戦時動員を下令する。並びに以下の軍団は直ちに進撃準備に着手、48時間以内にこれを完了し、出動令に備えよ。第一近衛軍団。第一軍団。第二軍団。第五軍団。第十軍団。第十六軍団。第二十一軍団・・・」

 やがて幹部士官の全員が、機関科のノビレ少佐までもがブリッジに集まり、広いブリッジの人いきれが勢い、濃くなった。

 いつもなら参謀長がするはずの訓示をしたのはワワン中将だった。カトー少将は最後に息せき切ってブリッジに上がって来た。

「みな、集まったな。それではただいま入ったバカロレア経由の情報を今一度伝達する。ヴァインライヒ少尉!」

「サー!」

 ヤヨイは立ち上がり、敬礼した。

「受信した電文を今一度皆の前で読み上げたまえ」

「アイ、サー!」

 電文を読み上げながら、ヤヨイは直感した。

 間違いない。

 これは中将自ら仕掛けた、第二の矢だ。

 ウリル少将からは知らされてこそいなかった。だが、万が一ミカサが攻撃を受けた場合を予想し、あらかじめ少将と示し合わせていたのだろう。この事態に対する反応で裏切り者が誰なのか、必ず浮かび上がるはずだ。

 参謀長の顔は、ブリッジ後方の戸口に近く立っていたノビレ少佐の青い顔以上に、青かった。そしてさらに焦燥していたのは航海長のメイヤー少佐、それに副長のチェン少佐だった。

 ヤヨイが電文の披露を終わるや、長官は言った。

「参謀長。これをどう捉えるかね」

「・・・これは、・・・これは」

 カトー少将の息切れはとうに消えていた。それは息切れではなく狼狽で、彼は青い顔の口髭をわずかに震わせ、言葉を探しているように見えた。

「・・・これは、何かね?」

「これは、我々が報告したミカサの状況に対する軍令部と内閣府の反応だと思われます。ミカサへのサボタージュは帝国海軍への明らかな敵対攻撃。休戦協定違反であり、それに対する帝国の報復準備と、解釈せざるを得ません」

「そうだな。今の参謀長の言の通りだと私も思う」

 ワワン中将は厳かに言った。

「参謀長。至急この事態に対処するオプションを策定、30分以内に起草し第一艦隊全艦に伝達する。通信長、この旨をヴィクトリーに伝えなさい。追って指示を出すと」

「ですが、長官・・・」

「参謀長。これは、インペラトール(最高司令官)、皇帝陛下の勅命である! 直ちに実施せよ!」

 司令長官は毅然として胸を張り、厳然と言い放った。

 初めてミカサに乗ってから半月ほどになる。が、この時ほどワワン中将の姿が神々しく見えたことはなかった。ヤヨイは、全身に鳥肌が立つほどの感動を覚えた。

「では第一艦隊の他の三艦の行動については速やかに起草し、ミカサについては直ちに機関停止。今早朝の海峡通過は一時見合わせる。これでよろしいでしょうか」

 カトー少将はその場で長官の裁可を受けようとした。だが、それを制したのはヨードル曹長とノビレ少佐だった。

「僭越ながら申し上げます。今機関を止めてはいけません!」

 ヨードルが立場はともかくそう上申すると、ノビレ少佐も加勢した。

「先任士官の言の通りです。今機関を止めればせっかく炊いた窯の蒸気がムダになります。さらに言えば無為にアイドリングするだけの余剰な燃料はありません。ミカサの無事ターラント入港を期するとすれば、このまま時を待たず予定通りに海峡通過を行っていただきたく、意見具申致しますっ!」

「参謀長。・・・いかにするかね」

 ワワン中将がダメを押した。ヤヨイにはそう見えた。

 続いて第三電が入電した。

「参謀長閣下、第三電です」

 カトー少将の、紙片を持つ細い指が震えていたのをヤヨイは見逃さなかった。早朝にも拘わらず、彼もまた、汗をかいていた。

「帝国陸軍参謀本部、並びに内閣府からの通達だ」

 カトー少将は幾分落ち着いた声音で、そう言った。

「陸軍は、全ての国境に展開する全軍団に対し、可能な限りの、西部戦線への長距離砲移動を下令、二十二歳から五十歳までの全予備役の招集を合わせて布告、した。内閣府もそれに呼応し、帝国全土に戒厳令を布告・・・」



 アンは一度寝入ったら朝まで起きないタイプだった。少々の騒音には耐性があった。だから多少の揺れやエンジンの振動もむしろ揺りかごの中の子守唄程度にしか感じず、高鼾で眠ることができていた。

 だがドンドンと繰り返し叩かれるドアの音に寝ぼけ眼を擦りながら止む無く起き上がった。

「マーグレット少尉! 起きろ。緊急事態だ。頼む、起きてくれ!」

 スミタ大尉の声がする。

「なによもー。まだ夜中じゃないのよー。まさか、夜這いに来たのかしら」

 この、あまりにも自己中心的で自意識過剰の性格はどうしても治らないらしい。

 枕を抱いてドアを開けた。すでに軍装を整えた大尉が立っていた。だが彼はアンを見てすぐに目を逸らした。アンは、アンダーガーメントとショーツ一枚のしどけない姿で太股を晒していることにまったく気づいていなかった。

「何時だと思ってるのよ!」

 しかも相手が上官であるのもお構いなく、熟睡を邪魔された不機嫌をそのまま当たり散らした。

「緊急招集があった。すぐに着替えてブリッジに来てくれ!」

 スミタ大尉は目を逸らしたままそう言い残し、踵を慣らして駆け出して行った。

 それで仕方なくトラウザーズに脚を突っ込み、ネイビーブルーの軍服を身に着けた。

「・・・ったく。軍隊はこれだからイヤよね」

 鏡の前で髪を整えながら、自分の不機嫌な顔に向かって悪罵を投げつけた。


 ミヒャエルは頭にレシーヴァーをかけたまま、ブリッジの操作卓の前に陣取り仮眠していた。

 アンとは全く対照的に、既に酔いも醒めた彼はいつ事態が動いても対応できるよう待機していた。それまで感じたことのない責任感のようなものが彼を衝き動かしていた。

 彼の背後の壁には艦内各部に繋がっている伝声管がある。その中に、後部監視哨にいる水兵と繋がっているものもあった。時々に薄目を開けてはその管の口を見た。ヴィクトリーからの発光信号があればすぐに周波数のチャンネルを「4」にできるように。

 今、チャンネルは「1」に合わせてある。遠く離れてしまったミカサのヤヨイからもしかしたら発信があるかもしれない。そう考えていつでも受信できるようにしていたのだ。

 リュッツオーのブリッジはミカサのそれよりもはるかに海面に近い。時には艦がうねりとうねりの間に吸い込まれるように落ち込み、海面がブリッジよりも高くなることもある。そんな大自然の荒々しい顔に向かい合うには、自らを鼓舞する必要がある。

 少尉! ヴィクトリーから発光信号!

 (来た!)

 伝声管からの緊迫した声で、ミヒャエルは覚醒した。

 周波数を4に切り替え、すぐ傍で当直に立っていたマークに呼びかけた。

「伍長、艦長を呼んでください!」

「アイ、サー!」

 そうして、鉛筆を持ってヴィクトリーからのモールスを待った。果たして、それは来た。レシーバーにはモールスの苦手なアンの、ゆっくりとだが正確な打信が入って来た。通信機の微弱なランプの灯りを頼りにそれを書き取った。気を利かせた水兵が操作卓の上にカンテラを灯してくれた。それで書き取りも容易になった。が、礼を言う余裕はなかった。

 全ての電文を書き取り終えると、急いでその下に翻訳していった。

 やがてヘイグ大尉がブリッジに現れた。無言でミヒャエルの傍にやってくると葉巻に火をつけた。

 翻訳を終え、ミヒャエルは紙片をヘイグに示した。

 艦長は紙片をカンテラに近づけ電文に素早く目を通した。

「間違いないな?」

 とミヒャエルに質した。

「間違い、ありません!」

 バカロレアから来たにわか士官はずり落ちた眼鏡を上げ、キッパリと言い切った。

 うむっ!

 艦長は無言で頷き、命令を下した。

「マーク! 第一種警戒態勢! 進路変更。取り舵一杯。180。機関半速!」

「第一種警戒態勢。総員起し。進路変更。取り舵一杯。180。機関半速。アイ!」

 ミカサと違い、リュッツオーには艦内放送などはない。命令はブリッジから伝声管へ、伝声管から兵へ、兵からまた兵へと逓伝され、すぐに小さな通報艦全艦に行き渡った。機械やシステムじゃない、人が、この艦を動かしている!

 艦体が大きく右に傾き、微速だったエンジンの回転が上がり速力を増して行く中、砲術科の水兵の半数がまだ真っ暗な上甲板にあがり、配置に付いた。監視哨の兵に加え、半数ずつ交代で見張りに付くためだった。

 命令を下し終え、それが実施されたのを確認すると、ヘイグ艦長はミヒャエルの隣にドカッと座り、カンテラの灯りで海図を睨んだ。そしてミヒャエルに海図の一点を示した。

「おそらくは3時間ほどでこの辺りにくる。ミカサはそう、だいたいこのあたりにいるはずだ。これなら20海里は離れている。どうだ?」

 消えかけた葉巻に再び火をつけながら、ヘイグは言った。

「その範囲ならこちらから通信可能です。あとは、ヴィクトリーとの距離をなるべく、60キロ以内に保っていただければ」

「わかった、ミック。では進路変更をヴィクトリーに知らせてくれ。それからその、60キロ以内ってヤツもだ。それが終わったら、今のうちに少し休んでおけ。あの小生意気なおねえちゃんの話通りなら、これからはなかなか寝られなくなりそうだからな」

「アイ、サー!」

 ミヒャエルは真南に向かって回頭したリュッツオーの左舷前方の彼方、まだ暗い星明かりと月明りだけに照らされた黒い海面のずっと先に目を凝らした。


 ヤヨイ・・・。


 これから何が起こるんだい?

 きみは一体、何をしようとしているんだい?

 きみは一体、何者なんだい?

 そしてきみは今、平気なのかい?

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