男子高校生は強くない

ガパオライス

第1話 転生

異世界転生、それは平凡を生きる人らにとっては夢である。

煌びやかな街、獰猛なモンスター。

そしてその生活を謳歌する自分!

夢しか溢れていない。平和を堪能しすぎた人にとって、刺激たっぷりの世界だ。


「あー、異世界に行きてーよなー」


そう言い帰路についているのは〝柳勇助やなぎゆうすけ

馬上高等学校の2年生。帰宅部だ。

彼には特筆すべきことなどない。

成績も普通。運動も普通。普通普通普通。

平均的一般人だ。

最近、友達に異世界に転生する系の漫画をオススメされ、読み始めた。

そのせいで寝不足である。


「俺も魔法とか使えたらなー。こう、ファイヤーマジック!!とかさぁ」


いかにも小学生が命名しそうな名前。

これしか思いつかなかったのだろう。

平和、普通を謳歌している彼は、飽き飽きしていた。

毎日、学校に行っては家に帰り、だらんとした日々を過ごす。


「異世界行きてぇな…いや、やっぱ無理か」


とは言っても、所詮口だけにしかならない。

現実で異世界になど行けるはずがない…はずだった。


彼が、歩道橋の階段を下ろうとする。

その時、勇助は背中に一瞬だけ人の温もりを感じた。

振り返ろうとする前に、体が空中に浮かんだのがわかった。

世界はゆっくりと動く。

まるで、彼に何が起こっているのか丁寧に教えるかのように。


(あ、落ちる)


ゆっくり過ぎる時間の中で彼がわかったことはこれだけだった。

そして、理解したのを感じ取ったかのように世界は元の早さに戻る。


鈍い音が鳴る。

硬いものに硬いものが当たった音だ。

勇助は額に生暖かい液体が流れるのを感じた。鉄の匂いが充満する。

落ちたのだ、歩道橋の一番上から。

階段をすっ飛ばして。

途切れゆく意識の中でわかったことだ。

そして、意識が完全に無くなる前に背中に感じた人の温もりの主を一目見ようとした。

絶対、そいつに突き落とされた。と思ったからだ。

しかし、その意思に反して瞼は落ちる。

一目見ることが叶わないまま、彼は意識を手放した。


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ゆっくりと、勇助は目覚める。

天井を見ながら、彼は頭にハテナを浮かべていた。


(ここはどこだ…?なんでここに…違う、確か俺は突き落とされて…そうだ。歩道橋から突き落とされたんだ。そして気を失ってて…ここは病院か?)


「目が覚めたか、侵入者」


どこか威圧的な声。

勇助は目線を向けた。

そこには、茶色のロングヘアーの女性がいた。

立ちあがろうとするも、ガチャンっという金属音が変わりに鳴る。

視線を手の方に移すと、鎖で拘束されていた。


「ど、いう…」


「御託はいい。貴様の名前は」


彼の疑問は、無慈悲にも切り捨てられた。

威圧的な声色で問いかける。まるで警察の尋問のようだ。

彼は、どこかで友達が先生にこんな雰囲気で説教されていたなと考えつつ、知らない人に名前を教えるのもなー…と考えていた。


「さ、先に名乗ったらどうですか?そういうのが礼儀…だと思います」


どこかで見た漫画のセリフを使いながら答える。

女性の方は、はぁと溜め息をつきながら口を開く。


「シュディナ•トワーティだ。貴様は」


「柳勇助っす…シュディナさん?でしたっけ。あの、鎖…」


「勇助だな。貴様、反乱軍か一般人のどっちだ」


「え!?いや、あの鎖」


「どっちかと聞いているのだ!!」


「ひぃ!?い、一般人です!!!」


気迫にビビった勇助は答える。

シュディナは舌打ちをしながら、それでも怪しいものを見る目で答えた。


「…正体を表すのを躊躇したか…減刑の余地はないっと…」


「げげげ減刑!!?ちょ、ちょっと待ってくださいよ!!!俺なんの罪犯したんすか!?」


「反乱軍は皆、国家反逆罪として重い罪に問われる。貴様の場合は研究所行きだろうがな」


「反乱軍!?俺ただの高校生っすよ!!!」


「高校生?はっ、もっとわかりやすい嘘をつくんだな。第一、貴様のような人間が一般人だとしたら私も知っているはずだ」


勇助は余計に混乱する。

気の狂った女に誘拐されたのかと考え始める。


(コイツはまさか…気を失ってる俺を誘拐したんじゃ!?)


「何を驚いてる。当たり前だろう。貴様は『リミット』がないのだ!!そんな人間は一度だって生まれてこなかった!!!なのに貴様は!体の中に『リミット』が一つもないのだ!!!そんな人間がいたら即研究所に行ってるに決まっているだろう!!」


りみっと…?聞きなれない言葉に余計に困惑した。



彼の転生生活は、ここから始まる。

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男子高校生は強くない ガパオライス @gapao_raisu

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