第2話 エルフがホームスティ

 どうやら、エルフ少女は行くあてがないらしい。色々と事情があるのだろう。ここまで来たら乗りかかった船だなと思い、俺は改めて彼女に向き合った。


「えっと、じゃあさ君の事色々教えてくれる? あ、俺は藤崎トオル。このクラスの生徒」

「わ、私はシシル。この世界に来たのは……」


 シシルによると、彼女の世界には10月31日に時空に歪みが出来て他の世界に行けるようになると言う言い伝えがあるのだとか。その話を確かめようと友達の魔女が言い出して、彼女もその話に乗ったのだとか。

 それで、魔法を使ったら本当に他の世界に行けたと言う事らしい。2人は様々な世界を楽しんだものの、この世界に来た途端に時空の歪みが消えてしまったのだと。魔女は一緒には来なかったのだそうだ。


「じゃあ、もう二度とシシルは元の世界に戻れない?」

「次の10月31日にはまた歪みが発生するから、その時に。魔法は間近で見ているから多分使えるはず」

「そっかぁ……」


 大体の事情が分かったところで、俺は顎に指を乗せた。1人で知らない世界に取り残されてしまったシシルは確かに不憫だ。だけど、俺に彼女を助ける事が出来るだろうか? お約束の展開なら、俺の家に住んでもらうとかそう言うベタな展開くらいしか思い浮かばない。

 でも、それは現実的じゃないだろうし……。


「残念だけど、俺に出来る事は何もないよ。魔法とかで何とかなるんじゃない?」

「何とかなるなら頼んでないですう」

「じゃあ、俺の両親を説得出来る?」

「それなら大丈夫です!」


 なんかいきなり自信満々に答えたので、俺はシシルを連れて家に帰る事にした。勿論忘れ物はちゃんと持ち帰っている。そのために戻ったのだから。

 帰路の道中、まんまエルフの格好の彼女が周りの人の関心を全く引いていない事に気付く。


「シシル、周りの人が全然君の事を気にしていないんだけど」

「それは当然です。他の人からは、私がこの世界の普通の人に見えてますから」

「認識改変の魔法?」

「ですです」


 俺は彼女の魔法の威力に感心した。そこまでの力があるならお金持ちを騙せばいくらでも豪遊出来る気がするけど、その質問は敢えてしない事にした。きっとそれが出来ない理由もあるのだろうし。

 帰宅途中で商店街の前を通るとハロウィンのディスプレイをしていて、楽しそうにコスプレをしている人達が目に入った。その人達の姿を見て、シシルの目が輝く。


「あれって何ですか? みんな服装が可愛い」

「ああ、ハロウィンだよ。元々は別の国のお祭りだったけど、いつの間にか定着したんだ。本来は子供達のためのものだったんだけどね。いつの間にか大人も便乗し始めたんだ」

「可愛い服を着るお祭り?」

「確か何か理由があったと思うんだけど、今の日本じゃまぁそんな感じ。で、お菓子をくれなきゃいたずらするぞって言ったりするんだ」


 俺がハロウィンについて説明をすると、シシルは鼻息荒く目を輝かして思いっきり食いついてきた。そのあまりの意気込みに、俺はちょっと引く。


「じゃあちょっと商店街寄ってみる? イベントしてるから多分楽しいよ」

「行く行く!」


 こうして俺達はハロウィンイベント開催中の商店街の中を歩く。実際はコスプレしているのは行き交う人の3割くらいだったものの、そう言う人達が目に入るたびに俺は彼女からの質問攻めにあってしまった。アニメキャラの服装の知識とかないから、ほとんどまともに答えられなかったけど。

 で、商店街のイベントではハロウィンぽい飾り付けなのにお祭りの屋台とかも並んでいて、普通に秋祭りの神社の参道状態。それでもシシルが楽しんでくれたから良かった。ただ、いちご飴とかを奢らされたので、この予定外の出費は痛かったかな。


「ハロウィンて楽しいね」

「お気に召したようで何より」

「結構こっちの世界も楽しいかも」


 1時間ほど商店街を楽しんで、俺達は本来の帰宅ルートに戻る。いきなり知らない世界に1人放り出された割に、シシルはそんなにショックを受けていないようだ。彼女にとっては異世界なのに、順応するのが早すぎる。それも魔法の力があるからと言う自信からなのだろう。認識改変の魔法ってチート過ぎるよな。

 と、色々考えている内に家に着いてしまった。俺は不安になって改めてシシルの顔を見る。


「ここが俺の家なんだけど」

「うん、早く入ろ」

「本当に大丈夫なんだよな? 俺、上手くごまかせないぞ」

「平気だってば」


 彼女があまりにも自信満々だったので、俺は玄関のドアハンドルを握る。そうして深呼吸して気持ちを整えると、そのまま勢いよくドアを開けた。


「ただいま」

「お帰り。あ、あなたがホームステイの子ね。エスコートなんてやるじゃない」

「え?」

「初めまして! シシルです! よろしくお願いします!」


 俺の知らない内にトントン拍子に話が進んでいく。どうやらこれがシシルの魔法の効果らしい。どう言う理屈か分からないけれど、彼女は海外からホームスティをしに来たと言う事になっていた。魔法ってすごい。

 部屋は俺の隣の来客用の空き部屋があてがわれた。まぁ来客には違いないしな。色々と勝手に決められたため、何もする事がなくなった俺は自分の部屋でくつろぐ事にした。


 部屋で動画とかを見ているとドアがノックされる。軽く返事をするとシシルが入ってきた。むっちゃプライベート状態だったので椅子から落ちそうになってしまう。

 振り返った俺の目に、こちらの世界の洋服を着た彼女の姿が飛び込んできた。


「おっ」

「似合ってる? お母様が着せてくれたの」

「お母様って……。それより、魔法ってすごいんだな」


 俺が感心すると、シシルはドヤ顔になって鼻息を粗くする。


「でしょ。もうこの世界にもすっかり慣れちゃったんだから。これから1年よろしくね!」

「お、おう……」

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