エルフがクラスメイト
にゃべ♪
第1話 クラスにエルフが現れた
10月31日。それは祝日でも何でもない普通の日。少なくとも日本ではそうだ。愛媛の地方都市、舞鷹市の今北高校でもそれは一緒だった。ハロウィンと言うのはこんな地方都市でもかなり浸透していて、商店街ではそれっぽいイベントをしていたりする。とは言え、学校では特に変わった事はないんだけど。
その日、俺は帰宅しようと一旦学校を出たものの、忘れ物に気付いてUターンしていた。教室まで辿り着いてドアを開けた時、俺の目に教室にいた誰かの姿が映る。
「え?」
驚いたのも無理はない。そこにいたのは居残っていたクラスメイトの誰かではなかったからだ。透き通った白い肌で金髪の美少女。ハリウッドの美少女俳優のようだ。
特徴はそれだけじゃない。緑色のファンタジーな服装、ファンタジックなブーツ、一番目を引いたのは――整った顔の両サイドにある尖った大きな耳。
「エ、エルフ?!」
思わず大声を上げてしまい、彼女はびっくりした表情を浮かべて俺の方に顔を向ける。緑色の瞳もまた神秘的で美しい。その芸術的なAIイラストのような造形に、俺は言葉を失ってしまう。
コスプレじゃなければファンタジー世界の住人が何故この教室にいるのか。その理由はさっぱり分からない。しかも、彼女は俺がドアを開けた瞬間はまだ体全体が半透明。見つめている内にどんどん姿が確定した、そう言う雰囲気だった。
エルフ美少女と俺はしばらく見つめ合う。先に動いたのは彼女の方だった。まず最初にパクパクと口を動かして、それからつばを飲み込むようなリアクション。一拍置いて、その美しく可愛い顔に似合うようなウィスパーボイスが発せられた。
「ごめんなさい!」
彼女はいつの間にか手にしていた杖を使って何かしらの魔法を発動する。強力な緑色の光が視界を奪い、俺はすぐに右腕で両目をガードした。
「うおっまぶしっ!」
光が消えると、変わらない景色とドヤ顔のエルフ少女。きっと彼女は何かをやりきったのだろう。それが何なのか、俺には分からなかったけれど。
しばらくはその状態のまま沈黙の状態が続いたものの、何が起こったのか知りたくて俺は思わず声をかけた。
「えーと……」
「え? 嘘? あっ!」
話しかけた事で何かに気付いたらしい。彼女は顔を青くしてその場にしゃがみこんだ。これはアレだ、失敗したリアクションだ。俺はどうしていいか分からず、ただオロオロする。
「あ、いや別に何も起こってないから。何も変わってないよ」
「あなたは……私を認識しているでしょ」
エルフ少女は怯えたような表情で見つめてくる。このリアクションで、彼女が何をしようとしていたのか察しがついた。多分認識改変的な魔法を使ったんだと思う。目の前の少女に誰も違和感を持たせないみたいな。
「記憶を書き換えようとした? 魔法の失敗?」
「近いけど違う。使ったのは確かに記憶と認識の改変だけど、この魔法は会った事のない人にしか効果がないの」
「ああ……」
そう言えば、俺は彼女が魔法を使う前に目撃している。となると、記憶操作の魔法を使っても無効化されてしまう訳だ。勿論、物語によってはそれでも改変出来る魔法もあるのだろうけど、目の前の少女のいる世界の魔法はそうではないらしい。
魔法の失敗で彼女は絶望している。俺、たまたま居合わせただけなんだけど。なんでこんなに罪悪感に
この状況をどうにか出来るスキルを俺は持ち合わせていない。気の利いた言葉とか慰める言葉を持っていたら良かったんだけど、どれだけ頭を捻ってもそんなものはこぼれ落ちてこなかった。俺の言語センス……っ! ぽんこつ……っ!
まぁこう言うのは人生経験を積まないと出てこないものなのだろう。漫画とかで読んだセリフを言ったところでただの付け焼き刃、メッキはすぐに剥がれ落ちるだろうし。
何も出来ずにずっと立ちっぱなしだった俺に、彼女はすがりついてきた。この予想外の展開に、やっぱり俺は何も出来なかった。
こう言う場合にどうすればいいのか、俺の未成熟な脳では最適解を導き出せなかったからだ。
「お願い! 私の正体の事、黙っていて!」
「あ、うん」
「で、私を助けて!」
「は?」
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