キズナ
久繰 廻
平々凡々デッドエンド
第一話 余命宣告一週間
「今までよく生きてこれましたね。もう体はボロボロです。良くて一週間生きられるかどうか。現代医療じゃどうにもできませんよ。残り少ない人生悔いの残らないように。」
職場で倒れて救急車に担ぎ込まれて、目を覚ましたら知らない天井。そして今、ベッドに横たわっている俺の目の前には初老の医者が一人。これが余命宣告ってやつか。
情報量が多すぎて話に集中できない。それに職場のことも心配だ。頭がふわふわするな。これも余命一週間だからか?・・・笑えない冗談だ。今はとりあえず、
「その余命宣告は絶対ですか。ちゃんと一週間で死ねるんですね?」
患者が思ってもみない反応をするから驚いたのか、手に持っていたクリップボードを落とす医者。おっと、寿命を縮めちゃったかな。それは悪いことをした。
「・・・おっと、取り乱してしまい申し訳ない。それで、質問の答えですが、その通りです。」
「そうですか。」
安堵して視線を落とす。やっと死ねる。俺の頭には浮かんだのはそれだった。高校を卒業して、いざ大学に進学ってタイミングで交通事故で両親と妹が死んで天涯孤独の身になった俺。生きてることに意味はあるのかと言いながら、もし死ねなかったら?と自殺も出来ない半端者だった。
「あのお、あまり気を落とさないでください。」
おっと、視線を落としたのはまずかった。心配させてしまったようだ。
「いえ、大丈夫ですよ。ただ、」
いけない。余計なこと口走った。
「ただ?」
俺に視線を合わせて親身な態度で接してくれる医者。そのままのことを言っても良いのか?余計に心配させてしまうんじゃないか?善人に迷惑をかけるのは俺のポリシーに反するからな。
「ただ、今日にでも死ぬんじゃないかって思ってまして。死ぬまでにあと一週間もあるんだなって安心しちゃって。」
たった一週間で死ねるんだって安堵してましたなんて言えないから嘘をつく。
「そうか、ならいいんだ。絶望していないんだったら。医療関係者が言っちゃいけないがね、死にたいと思ってる健康な人よりも、残り少ない人生でも前向きに生きようとする人の方がよっぽど素晴らしいと思うんだ。」
『それでは失礼するよ。』そう言って部屋から出ていった医者。
「いい人だったな。」
これからどうしようか。とりあえず退職するか。夕日の差し込む病室、窓の外を眺める俺はなかなか絵になってるんじゃないか?・・・はぁ、余命一週間かぁ。
「っま、一週間じゃ何もできないよな。あ~あ。」
翌朝、セミ_ツクツクホウシか?の声で目を覚ます。体はまだ動くようだ。力が入らないというよりは感覚が薄くなっていっているって感じかな。
「おはようございます。」
昨日の医者が部屋に入ってきて部屋の隅に置いてあったパイプ椅子を持ってきて座った。
「おかげ様で。」
「体調はどうですか?」
「そうですね。久しぶりにゆっくりできたので、いつもよりも良いぐらいですね。」
そう言うと医者は白衣の内側からハガキ大の紙を取り出して、それを広げて見せ言った。
「ならば、退院しても良いですがどうしますか。」
死ぬ前に同僚に挨拶はしておきたい。あと、貯金も結構あったからなぁ。せっかくだし使い切るか。
「それでは退院させていただきます。ありがとうございました。」
そうして病院食を食べてそのまま退院。その足で職場へと向かう。
「はぁ、余命宣告されたってのに何も変わらないんだな俺は、、、。」
ドラマやフィクションならここで絶望して劇的になるような状況だっていうのにさ。きっと俺の最期は、ハッピーエンドでもバッドエンドでもないんだろうな。
「・・・か。」
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