宵照らす満月は楽園を救えるか
あはの のちまき
序章
一頁
「俺たちだけで、国を造ろう!」
楽園を作るのがエデンの夢だった。
艶やかな銀髪、子供特有の純粋無垢な緑の瞳は大きく、そんな幼い少年であるエデンは、近い年齢の仲間達だけで決めた、子供達だけの国造りを、ひょんな事で始める事にした。
仲間には双子の弟のライオネル。
気さくで武器オタクの
心配性のフレッド。
優しく小心者のブラウン。
そして頭のいいハーロックだ。
大人に頼らず、子供達だけで。周りの大人達は心配こそするものの、温かく見守ってくれていた。そんな時が過ぎていく中だった。
その日は嵐だった。森へ迷い込んだエデンは油断をして足の骨を折る怪我をし、動けなくなってしまった。酷い雨風で身体も冷え、死を覚悟したその時、とある人影がエデンの前に現れた。
真夜中を思わせる長い髪。白くて細い身体付きでは、男女の判別が出来ない。その人影を眺めていると、人影はエデンの前にしゃがみ込んだ。整った顔立ちに赤い瞳が映えている。その人影に目元を掌で覆われ、そこからは、記憶がない。
気が付けば国に担ぎ込まれていた。森付近で倒れていたエデンを仲間達が発見したらしい。皆心配そうな瞳で見つめてくる。エデンはまるで夢でも見ていたのかという錯覚に陥った。赤い瞳が美しいあの人が脳裏から離れなかった。
*
月日が経ち、エデン達は大人になった。同時に楽園も大きくなった。エデンは遂に楽園の王になり、第二の王に双子の弟、ライオネルがいた。ライオネルはエデンの一番の理解者であり、愛しい弟だった。他の仲間達の中で最も、楽園を造るのに貢献してくれたと思う。
「頑張ったね、兄さん」
エデンと瓜二つのライオネルが微笑んで言う。
「皆のおかげだ……ここまで国が発展できたのは」
本心からの言葉を述べて、エデンはこれからも頑張らなければと意気込んでいた。
*
楽園は時代と共に廻る。エデンが王として責務と全うする傍ら、遂にライオネルに愛する妻、
「王様って大変だな」
そう気楽そうに言うのは護だ。彼は立派な鍛冶師となった。彼の作る武器はどれも一級品だと評判だと言う。
「エデンはいつも無茶するから、外交でも張り切りすぎないように」
フレッドが釘を刺すので苦笑する。
「エデンだけじゃ不安だし、誰かついて行こうか?」
案ずるようにブラウンが言うと、ひょっこりと青い髪の男が顔を出した。
「なら俺が一緒にいくよ、いいかな?」
そういったのはハーロックだった。彼は話術に長けているし、とても頼りになる。エデンのない所をカバーしてくれるのだ。それに聞き上手であるハーロックは、エデンが心を許した友人だ。
「助かる。頼むハーロック」
エデンは快諾し、楽園を護やライオネルに任せ、暫くハーロックと共に国を後にする。これからの悲劇を予想出来るはずも無く。
*
外交は滞りなく終わった。
「お疲れさま、エデン」
「ハーロックこそ。おかげで助かった」
互いに労いの言葉をかけながら、楽園へと帰ると、楽園は騒ぎが起きていた。嫌な予感を瞬時に感じる。人混みをかき分け、段々と早足になり、騒ぎの中心へと向かう。
嫌な予感は的中した。広場の噴水の傍に、ライオネルと命が、頭から血を流して倒れている。エデンの頭は真っ白になった。銃か何かで撃たれたらしいライオネル達をぼうっと眺める。
駆け寄り、弟の名を呼ぶ。返事はない。何度も呼び掛ける。ハーロックがエデンの肩を揺さぶり、何かを言っているが聞こえない。構うことなくライオネルを抱き上げた。その瞬間、エデンも頭を撃ち抜かれた。
*
気付いたら寝台で横になっていた。名を呼ばれた気がして視線をさ迷わせると、心配そうに顔を覗き込んでいるハーロックの青い瞳と目が合った。驚きに見開かれた彼の瞳を見つめたまま、エデンはいつか見た赤色をふと思い出した。
それが何だったか思い出す前に、仲間達が一斉に駆け込んで来た。フレッドは涙目になりながら、護はほっと息を吐いて「エデンは無事でよかった」と口々に呟いた。
そこでエデンはライオネルを思い出す。
「……ライオネルは…? 命、は……?」
そう呻いたエデンに、仲間達は悲しそうに顔を見合せた。
案内されたのは遺体安置所だった。そこには穏やかな表情で眠るライオネルと命が横たわっている。子供の姿は何処にもないとの事だった。
「エデンだけが助かったんだよ」
そうハーロックは呟いた。
身体の何処かに罅が入る感覚があった。双子の弟が殺された。自分も殺された。なのに自分だけが蘇った。それが何故なのか、考えても一向に答えは出て来なかった。
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