嘲る

さっきまでの吐き気も緊張も浅い呼吸も嘘のようで、無意識のうちに鼻歌すら歌っている自分に気付く。ばれるばれるという気持ちともう何も怖くないという気持ちで勝手いたのは後者だ。

さっきまでの震える手は嘘みたいに落ち着いてスマホの表面を軽やかに舞ってドライブレコーダーのアプリを立ち上げる。

(おお、いるじゃん。まだいるじゃん)

ニヤニヤと入り口にいる三馬鹿の一人を眺める。バッテリーの残量は気にしない、気にならない。カジノのある繁華街からこの家の距離は歩きなら30分以上、バッテリーの残量の6%を持っていくが車なら5分もかからない。

駐車場の入り口をライトの光が照らす。馬鹿が引っ張られていくのを見て笑いが止まらない。口からこぼれる笑い声を止めようにも止まらない。

腹を抑えてゲラゲラと笑っているとゴンゴンとトランクが叩かれた。

『開けられるかな?』

その声に応えるようにバンバンと下からトランクを叩いてリリースレバーを力いっぱい引っ張った。

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