隠れる

トランクの中に自ら入るなんて馬鹿みたいだなと思うが、もっと馬鹿な奴らに因縁をつけられたのが原因だと自分を慰めた。

何とか上体だけは寝返りが打てる程度のトランクの中でまずスマホの充電を確認する。

(72%。まだ安心感があるな)

続けてアプリを立ち上げる。

ドライブレコーダー、そのカメラの映像がスマホに映る。

(入ってくんなよ馬鹿共が……)

駐車場に三馬鹿が入ってくる。

当然のように車に寄って来る。

『車あんな』

『じゃあまだ居んなこの辺りに』

『警察に密告チクられたらどうすんだよ』

(こいつら内容考えて大声で話せよ馬鹿)

心で罵り声をあげる。

(闇カジノだぞ、現金が動いてんだぞヤクザ相手だぞ?)

『警察に言ったら良いじゃねえかあいつに闇カジノ勧められたんですーって。それで借金チャラになるんじゃね?カジノ行けなくなるのが惜しいけど』

『あー、ありかもなー。カジノ行けなくなるの嫌だからアイツ捕まえるのがいいけどな。ほんとアイツ覚えてろってんだよ』

(馬鹿かよヤクザのシノギ潰して無事な訳ねえだろ。あと人の車のドア蹴るんじゃねえよ振動で分かんだよ俺のBMWになにしてんだよ)

『交代でマンションと大学張ってりゃ見つかんだろ』

スマホの画面に駐車場から出ていく三馬鹿。その一人が駐車場からマンションの入り口を見張ってるのを見ながらアプリを一度落とす。

(嘘だろ諦めろよ三馬鹿)

盛大なため息と共に力を抜く。アドレナリンの効果が切れたのか体がズキズキと痛む。吐瀉物まみれの半袖シャツとジーンズの匂いも鼻につく。スマホの電池は少し減り70%で地味な消費。女受けのために伸ばした髪が蒸し暑いトランクの中では鬱陶しい。

(あー、やべえ明日デートじゃん。車の予定変えるしかねえな。離れたところの水族館やめて映画館とかでいいか?)

思考があちらこちらに飛ぶ。圧迫感から呼吸がし難いだけで車の中の酸素が無くなるなんてこともない。深呼吸を一つ。

(10分で2%。1時間で12%。残り70%だから連続で見れるのはバッテリーの減り方からして5時間。でも電話として使えなくなるのは痛い。1時間程度で離れたらラッキーで見張るか)

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